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書評 ノーム・チョムスキー『アメリカンドリームの終わり』

氏は有名な言語学者ですが、近年は多くの著書とともに政治(特にアメリカ)について語っております。大変読みやすくわかりやすい名著でした。

アメリカとの安全保障条約を結ぶ日本にとって、他人事ではありません。
常に彼らの行為・政策を監視し、我々のとるべき態度を決めていくことが重要と思います。

筆者注:スイスのような中立国家を求めるか、武装して侵略に耐えうる国防を整えるか、筆者の頭脳では判断致しかねますが、独立・自立へは概ね賛成です。

【要旨】
為政者はもともと権力を大衆に委ねようとしていなかった。
なぜなら彼らには好奇な精神と知性があり、民衆のために政治をすることができたから。
今では、その構造は残ったまま、その精神が「自分本位」となり、
為政者・権力者は援用・換骨奪胎して政治運用をしている。

【見出し】
1 民主主義を減らす
2 若者を洗脳する
3 経済の仕組みを変える
4 負担は民衆に負わせる
5 連隊・団結への攻撃      →団結されると困る・大学の設計
6 企業取締役を操る       →「権力の回転扉」・天下り 
7 大統領選挙を操作する     →ケンブリッジ・アナリティカ
8 民衆を家畜化して整列させる  →深掘り
9 合意を捏造する
10民衆を孤立化させ、周辺化させる→非常に鋭い論点 ・ 深掘り

PICK UP

富と権力の悪循環
富んだものは権力を持ち、法律を通じ、一層富むように。
この悪循環のためには、〈参加型の熟議・政策の議論〉、〈法律の組まれるプロセスの可視化〉を通じ、正しい政治家を選ぶ投票を導く必要があります。

ジェイムス・マディソンの掲げた理想
どの程度民衆に民主主義を許すか?
彼曰く「富裕層という少数者を、大多数の民衆からいかに守るか。」
「以前は彼らのものだった土地を奪え返しに来るだろう。
それは許されざることだ。多数による暴政を防がなくてはいけない。」

1960年代の民主化の流れに肝を増やすアメリカ
彼らの目には、老人・女性・黒人・若者が一緒になって、行き過ぎた民主化=政治参加しよう写った。
特に若者たちに杞憂したアメリカは「彼らの教化・洗脳に責任があり、もっと受動的でアパシー(無感動)にする」施策を始めます。

まず大学の授業料の値上げ。1000万の借金を背負った彼らは、自己破産も許されず、給与のために権威にしたがう他ないよう仕向けられます。

公教育では「テストのための教育」が、落ちこぼれゼロ法案・トップを目指して競争せよ法案で、故土間たちの創造性・独立心が失われます。
無償教育の質を下げ、数を減らすことが直接の施策になりますが、その一つがチャータースクールでしょう。競争に負けると廃校になるこの学校制度は、官から民へ新しいお金の流れも生みます。

経済の金融化と、経営者のMBA化
トマピケティ氏の論考では、r>gは、投資による儲けの方が成長によるそれよりも大きい事は指し示しました。例外は1920年〜1960年頃まで。
※アメリカ全体では、約半数40%の利益を金融が生み出しています。

企業、社会に対する忠誠心は、中間層の分解を持って育まれず、この四半期の成績の最大化のために、詐欺まがいの金融商材を世に出します。
※リーマン、エンロン、ゴールドマンサックス・・枚挙にいとまがありません
それでも会社が潰れたら彼らは「ゴールデンパラシュート」で他の企業へ、倒産した会社は国が救う、という〈権力の権力による権力のための施策〉がまかり通っています。

製造業の海外移転・自由貿易協定の狙い
狙いは世界中の労働者を競争させて、賃金を下げる事です。
結果働く人たちの賃金は大きく落ち込むことになりました。

筆者注:そうであるからして、「安い!」と飛びつくその消費の裏側はかような事実があり、そのせいで「自分」の賃金が安くなっていることは心に留めておくべきでしょう。

アメリカが世界に輸出しているのは、人を操る様々な価値観・手法です。
働く人々の搾取・増税・権利を奪うこと。
富裕層・特権階級の保護のための貿易を考えた結果といえます。

そう、失われた製造業の仕事は、2度と戻ってきません。
資本は自由に移動できますが、労働者は不自由です。ビザです。
意味がおわかりですね?
アメリカで労働者的なクラスに行った途端、世界中の労働者と戦うことになり、その人は移動もできずその境遇に耐えるしかないということです。
アダム・スミスに戻って考えてみます。「労働の自由な循環」こそ、自由貿易の土台です。

「労働者の不安定化」非常に管理しやすいわけです。
アメリカの長時間労働は(日本以上に)ひどい状態です。
さらに何の価値もない住宅を買わせるなど、ますます借金地獄へ、ますます長期労働へ行きます。こうなるとレジャーの時間も、物をまともに考える時間もありません。
さらに子育てに対する公的補助もないため、共働きの家庭の子供は、ほぼ必ず同じレベルの教育水準になります。
これが不安定化と従順化のプロセスです。

プルトノミー=金持ち経済をいかに阻止するか。世界共通の課題です。

金持ち減税

ここ70年で、金持ちに対する税は驚くほど減少しています。
1950年80%の税が課されていましたが、今は30%程度と、最低賃金者のそれと10%程度しか変わりません。
また投資による利益に対する税は、1970年40%程度にかかわらず、今は15%程度。

彼らの言い分は「その方が投資が増え、仕事も増える!」ですが、根拠はありません。本当に仕事を増やしたければ、需要を増やす必要があります。

そう、この犠牲者たちをトランプはターゲティングしました。
「悪いのはグローバル化だ。壁を作ろう。」こうして、引き続き金持ちのための政策を取り続けます。

連隊と団結への攻撃

連帯されると政府は困ります。だから徹底して阻止します。
そう同情と共感こそ、アダム・スミスの説いた経済の基礎です。

社会保障がいい例です。財政的には健全です。
にもかかわらず予算が削られる、問題視視される。
それは特権階級がそれを好まないからです。

国民の大勢にとってそれがいかに大切か、生き延びる術か・・
それで進められるのが民営化です。

この攻撃は公教育・大学全てが受けています。
「うちには子供がいないのに、なぜ払わなきゃいけないんだ。民営化だ」
例えば先に挙げた大学では、1950年頃のアイビーリーグではたった100ドルでした。今では10万ドルです。学生の借金は、50年前の2倍に膨れています。
前より豊かな社会にかかわらず、そのような財源はないと主張されます。

そして医療。メディケアの負担は55歳以上は免除されます。そうして孫の世代に負担を押し付けるわけです(サンセット原理)。
アメリカはほとんどが私的民間医療に依存している、世界でもまれなスキャンダルです。

財政赤字を問題にして、社会福祉・教育に心配りをさせない。
その財政赤字の理由は、特権者を守るための軍事費であるにもかかわらずです。しかも、一般の人にとっては失業率こそ重要問題です。

政界と財界を自由に通れる回転扉

取り締まられる側が、取締る側を取締る。
ロバート=ルービンとグラス=スティーガル法は覚えておきたいです。
商業銀行と投資銀行を分離するこの法律を、彼の尽力で、危ない投資財が政府の補償付きで出回ることになります。
彼自体は財務長官でしたが、その後サッサとシティグループの役員に収まり、保険会社を買収する手助けをして大儲けし、市場は大暴落。
彼は大金を握って会社を辞め、オバマの首席顧問に返り咲き、シティグループを救済します。

「企業社会主義」のアメリカ
そう本来の意味での資本主義では、もはやありません。
売上のTOP100社のほとんどが、国民の税金から収益を得ていることがわかり、25%は延命させてもらった経験があります。

アメリカは新自由主義でないし、今も違う
アダム・スミスは忠告していました。
「比較優位=得意なものに集中して、交換しよう」
「独占はするな。その方が国全体は豊かになる」
綿花を独占し、貧しい国に同じ原理を突きつけ、経済発展を妨げました。
今でも新自由主義ではありません。富裕層が困ったら政府が駆けつけてくれますから。

4年に一度の選挙、の後が重要
投票行為自体は15分もあればできます。
本当に重要なことは、その後にも継続して民衆運動に参加し続けることです。

労働組合の無効化
労働組合は今ではないに等しいレベルにまで落ち込んでいます。
かような法案が通っているからです。
50年前、約40%に稼働する労働組合も、今では7%しかなく、経営者の意向に従う以外に道はありません。
それと反比例するのが、賃金の格差。50年前の3倍以上の不平等さに至りました。一つの希望が「occupy運動」でした。

奴隷制なき後、どのように労働者を働かせるか・・?
その答えが広告でした。それで不必要な物をたくさん買わせ、奴隷のように働かせればいいと考えました。
※アレックス・リキテンスタイン『解放奴隷の借金労働を倍増せよ』

もちろん政治的にも使われました。
全く意味のない、煌びやかな幻想をみせ、また些末な問題へ関心を向けることが目的です。それは権力者の意図・政策と民衆の意見の間に、実質的な裂け目があることを知っているので、そんなことに関心を覚えさせないように工夫しているのです。

なぜそうするか?
メディアを使った洗脳は、民衆は放って置いたら「正しい判断」をしてしまうため。そうでなく「為政者に有利な判断をさせるため」に、毎年半端ない金額が使用されます。

民衆を孤立化させ、周辺化させる
ギデンス氏によると、民衆の70%は何の影響力もないことがわかりました。
また政策のほぼ全ては、民衆と何お関係もなく、企業利益と密接に結びついていました。
ご察しの通り収入が増えるほど、影響力はまし、上位1%がほとんど全てを決めていると言えます。

怒りの間違った標的
まさに為政者の思う壺に、互いに、時には弱者を攻撃しています。
そう彼らの非理性的な態度は、自分たちに得でない方向に向かっています。
トランプの支持者。
彼らは祖国を失っている、身代わりの犠牲者になっていると感じています。

まず必要なのは、健全な社会
私たちが個人で何かを開発したり、自分の能力を開花させたり、世界で何が起きているか、誰に目を向けるべきかを判断するのは不可能です。
そうだから、〈強い個人〉に〈先立つ温かい社会〉が必要です。

以上となります。考えさせられる内容でした。
最後までありがとうございました。佐々木真吾

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