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ステーキ肉を焼く。すなわちそれは、幸福への道標。

重々承知しておる。
肉はよく焼いたほうが、次の日、お腹を下さないということは。

どかん
どっかーん
じゅうじゅう

定期的に病を発症したかのように、私は夫に「肉が食いたい」と伝える。その日の朝も夫に「肉が食いたい。今日は肉。もう決まり。魚の入る余地なし」と伝えた。なぜなら、今日肉を食わなければ、家事も仕事もできっこない。いくら魚で栄養分を補給したとて、草を歯で噛みちぎったとて、私は肉を食わなければ次の一週間を生きていけない。肉が足りない。それも牛肉。豚でも鶏でも鹿でも猪でもなく、牛肉。肉、肉を食わせろ。肉が食いたい。肉汁滴る肉を私の体内に!

カオナシのように身体がズブズブと欲求を飲み込み、うっすらとおでこに肉マークが浮かび上がるのを感じ、私は前髪をそっと直した。

「ということで、今日はバーベキューです」

夫に車を出させ、私たちは肉を買いに出かけた。そこで夫は、分厚い肉を見つけた。厚さ5cmはあろうかと思われるステーキ肉を。

「これ、俺が買う」

夫はなぜかバーベキューにやる気を見せて、自らぶ厚いステーキ肉を購入。「まあ、ステキ♡」と私が言ったかどうかは定かではないが、私の頭の中は自腹を切って肉を買うステキな夫のことなどまるで眼中になく、分厚いステーキ肉でいっぱいになった。

夫はカットして焼こうと提案。こんな分厚い肉、焼けるわけがないと。
確かに、と私は思った。しかし、もったいない気がする。せっかくなら、このまま焼きたいではないか。

ということで、私は分厚い肉を焼く方法をネットで検索して、そのまま焼くことにした。
四方向を焦げないようにじわじわとこんがり焼く。その日は火の調子がイマイチで、なかなか焼けなかった。痺れを切らした私は夫に更なる着火を促し、夫はチャッカマンで再び炭に火をつけ、さらには肉も直火で焼いた。じゅうじゅうと火が燃え上がり肉はこんがりと色づいて、私のテンションも最高潮になる。しかし、肉にかぶりつくのはまだ早い。

私は肉をアルミホイルで包んで端に寄せると、それを寝かせることにした。

寝かせたのだ、肉を。

肉汁が再び肉の中に帰っていくという噂を耳にし、その場ですぐにカットせず、寝かせたのだ、肉を。美味しくな〜れ。美味しくな〜れ。と呪い師まじないしのように肉に声をかけ、ブロック肉に愛情を注いでいく。

すると、天から雨粒がポトリポトリと落ちてきた。

雨だ。牛肉は中で食らうことにして、私たちは取り急ぎバーベーキュークッズを片付けることにした。この時、腹は六分目。お腹いっぱいではせっかくのブロック肉の美味しさが半減してしまう。

カットしてみた
ほりにしをかけてみた

適当にスライスした肉に箸をつけ、口にする。中は赤く見えるがほんのり温かみがあり、口に含んだ肉を噛むと旨みがジュワッと溢れてくる。赤身の合間に入った脂がじわじわと口の中の熱で溶けていき、口の中がなんとも言えない幸福感に包まれる。肉の旨みとスパイスの塩味が絡み、幸せってこういうことかもしれないと、脳内でセロトニンが分泌されるのを感じた。やはりステーキ肉のトリプトファンの効果は絶大だ。夫も息子も幸せを噛み締めている。肉汁を逃さないことでステーキ肉のトリプトファンがこれでもかというくらいに口の中に広がっていく。


幸福を感じたければ、手っ取り早くステーキ肉を焼こう。ステーキ肉は幸福への最短ルートである。




おまけ

スキレットにとろけるチーズを入れて、チーズフォンデュ風。
これも最高にうまかったー。バーベキュー最高!!



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