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詩|こぼれて、おちる。
春が淡い桜色のカーディガンを羽織る頃、
そわそわとついたため息が、私の鼻をくすぐった。
むずむずした私を見て「大丈夫?」とあなたが笑う。
大切にしまっていた四文字は、くしゃみと一緒に、
こぼれて、おちる。
ひらひらと落ちた四文字は、桜色の絨毯に埋もれてしまった。
夏が白いシャツから肌を覗かせる頃、
太陽からの視線に、私は思わず目を細めた。
汗を拭うあなたの笑顔の眩しさに、私の体温は上昇する。
大切にしまっていた四文字は、汗と一緒に、
こぼれて、おちる。
ぽたぽたと流れておちた四文字は、アスファルトに滲んで消えた。
秋がそそくさとストールを巻き始める頃、
見上げれば、空はぐんぐん背を伸ばす。
少し冷えた風が、美味しい匂いを振りまいて、私のお腹はぐうとなった。
栗色のケーキとチョコレートのケーキを、美味しいねと一緒に食べた。
大切にしまっていた四文字は、甘い口溶けに促され、
こぼれて、おちる。
ケーキに落ちた四文字は、紅茶と一緒に喉の奥へと流れてしまった。
冬が灰色のウールのコートに包まれる頃、
擦り合わせた指先が、少しだけ赤くなる。
つんと鼻の奥を刺すような冷たさと、ネオン輝く街のざわめき。
口から出る白い息は、あなたがタバコを吸った時のそれとよく似ている。
私はふうと息を吐く。
あなたへの想いが、届きますようにと。
「好きです」
たかだか四文字が、こぼれては、おちていく。
その飛距離、50cm。
あなたとの距離の半分も、この四文字は飛べやしなくて。
あなたに届かずに、いつも私の足元に落ちてしまう。
私はそれを拾い上げ、埃をはらい、ポケットにしまいこむ。
ポケットにはあなたにもらったあめ玉ひとつ。
大事に大事にしまっていたら、少しゆるりと溶けてしまった。
届けたかった四文字と、溶けてしまったあめ玉は、すべてまとめて口の中へ。
少しだけからい、ミントの味がした。
もうすぐ、冬がコートを脱いで、衣替えを始めてしまう。
あなたはスーツケースに未来を詰め込んで、冬と一緒に旅立つのでしょう。
私の想いは、
こぼれて、おちる。
雪の中に沈んでいった、たかだか四文字は、
ミントの飴と一緒に溶けて、川に流れて海になる。
春が終わりを告げる頃、
私の大切な四文字は、
あなたの元へ雨となって降り注ぐ。
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