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帰宅後、餃子を100個包む。え?! ひとりで?

朝は、やる気に満ちあふれていた。

「今日の晩ごはんは、餃子よ」
朝からキッチンで餃子のタネを仕込みながら、私は餃子でビールを飲む自分の姿を想像しては、ニヤけていた。

想像の中の私は、現実の私より30%ほど脂肪がカットされ、顔面はテイクアウトの消費税分と同様に10%ほど美しさが上乗せされている。鏡を見るたびに、現実を知り落ち込む日々だが、鏡を見さえしなければ、楽しい日々だ。能天気脳バンザイ!

しかし、その日の昼、能天気脳であるにもかかわらず、私の脳からはやる気が完全に失せていた。

餃子を100個包むのか〜。
帰ってから?
だるいな〜。
めんどいわ〜。
誰? 餃子をつくろうなんて言ったヤツ。
出てこーい!
私かよ!

朝のテンションは、どこへやら。
なぜなら本当は、その日、午後からお休みをいただく予定だった。用事を済ませ、早めに家に帰り、餃子を包む算段だったのに……。もろもろあって、休暇の取得が叶わなくなってしまったのだ。

は〜、パトラッシュ、僕もう、つかれたよ……。

私は帰宅後、靴を脱ぎ、カバンを下ろした。手に持っていたエコバックをたずさえ、台所へ向かう。買ってきたばかりの餃子の皮と、足りなくなると見越して買ってきた缶ビールの6缶パックを、どさっと台所に置いた。

そして、すでに冷えている缶ビールを冷蔵庫から取り出す。

プシュッ。


今日は君に決めた!


最近お気に入りの、エビスくん。
お高いので、どうしてもの時に一本だけいただくことにしている。

よく冷えたビールをグラスに注ぎ、一口グビリと流し込む。コクのある滑らかなビールから、ほどよい燻製の香りがして、鼻から抜ける。やっぱうめえ。

すでにくつろいでいる夫に、ぐちぐちと愚痴をこぼし、「餃子を包むの、めんどくちゃい! やだよ〜! やりたくないよ〜!」と言い放った。

普段、家事など一切しない夫。
ここで彼から、信じられない一言が飛び出した。


「俺が包んでやろう」



キャー♡ 素敵♡ カッコいい♡
私から黄色い声援が飛んだ。まったく期待をしていなかったので、餃子を包むというパフォーマンスだけで彼は黄色い声援を勝ち取った。

彼が餃子を包めるのかどうかは、正直なところ分からない。完全な未知数。その心意気に花束を、である。

「一緒に包んだほうが早く終わるよね。さっさとやっつけよう」
向かい合って二人で餃子を包んだ。息子にも声をかけたが、我関せず。食べる専門。そういうものに、私もなりたい。

夫もちゃんと包んでいました

「私の実力を見よ!」
「俺は新しい包み方を考えた!」
「ぐぁぁ。破れた!」
「み、水で修復ができるぞ!」

などと言いながら、せっせと二人で餃子を包んだ。その数100個。二人で包んだので、あっという間に包み終わった。ふうと一息ついてから、餃子を焼いた。

餃子とビールは最高だった。




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