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きょうだいげんかの行方

私がいないと、我が家のケンカは収まらない。

その考えは、私の驕りだったことに気づいた。
日曜日の夜の出来事。


🌝

我が家には高校2年生と小学5年生の息子がいる。6学年離れているので、兄弟というより、一人っ子が二人みたいに育ってしまった。元々の性格もあるのかもしれないが、とにかく二人ともマイペース。そして、オンラインゲームのやりすぎで煽り体質。顔を付き合わせれば、とにかくよく喧嘩をする。

反抗期でイキりまくっている小学5年生が、高校2年生にちょっかいをかける。
俺様無敵と言わんばかりの高校2年生が、小学5年生を煽りまくる。
そして、そこにうちのトップオブ男子。天上天下唯我独尊夫が雷を落とす。

これが我が家の兄弟喧嘩スタイルだ。

その夜は、いつものように小学5年生の次男が高校2年生の長男にちょっかいをかけていた。長男が使っていたクッションを横取りしようとしたらしい。長男は使っていたクッションを貸したくないから、当然、貸すことを頑なに拒否した。次男はどうしても貸して欲しいので、長男にしつこく絡む。

マジで、しょうもない。
ガチで、どうでもいい。

でもリビングで繰り広げられる"それ"が、とにかくうるさいので、とりあえず私はクッションを取り上げた。
私はクッションを使いたくもなかったし、取り上げるのが良い解決策かはわからないけど、諸悪の根源は取り除くのが手っ取り早い。

それでもお互い、言いたいことが収まらなかったらしく、言い合いが収まらなかった。キャンキャン、ギャンギャンと部屋の中を口汚い言葉が飛び交った。すると当然、夫の雷が落ちる。


ガラガラ、ドッシャーン⚡️



ちなみに夫は右手に竹刀を握っている。
いらぬオプションである。

長男は自室へ逃げていき、次男は号泣し玄関の片隅で泣いていた。
夫は怒り収まらぬようで、般若のような顔をしてテレビを見ている。

どうしたもんかな、と私は思う。

ここは私の出番かな、と。
私は自分がこの家の緩衝材だと思っていて、それが私の役目だと信じて疑わなかった。

しかし、次男は反抗期。
いつぞやの素直ですぐに反省をしていたのは、遠い昔のこと。私の話には耳も傾けず、「うるさい!」「聞きたくない」と小さくなって、体操座りで膝を抱えて泣いている。

声をかけるのは今じゃないんだろうな、と思った。ここはそっとしておこうと、私は愛犬ポッキーの散歩に行くことにした。

私は人が泣いていても気にならないが(冷徹)、夫はずっと泣いているのを見聞きするのが、好きではない。
次男がこのまま泣き続けると、夫の怒りの第2波、第3波がやってくる可能性がある。

私は自分の不在時に、さらなる被害が起きないように配慮した方がいいと思った。気持ちを落ち着けてもらおうと風呂を沸かして、「お風呂沸いてるよ」と夫に声をかける。
夫と次男を残して散歩に行くことに若干の不安を覚えつつ、犬の散歩もしなければいけないし、と月が明るく輝く中、散歩に出かけることにした。

なんだか落ち着かない。
私がいなくて大丈夫だろうか。
いつも仲裁する役割は私なのに、その仕事を終えず不在にして大丈夫だろうか。

落ち着かない気持ちを抱えていた私は、さっと散歩を済ませて帰宅した。

ドアノブをひねり、ドアをガチャリと開ける。
電気が煌々とつく玄関にいるはずの次男は、そこにはいなかった。無人の玄関。照らす相手もいないのに、電気だけが明るく床を照らしている。

私はリビングのドアを開けた。

夫もいない。おかしい。影も形もない。
夫は?息子は?
私は色んな所を探す。

トイレは? いない。
寝室は? いない。
別の部屋は? いない。

するとお風呂から水を流す音がした。
夫が風呂に入っているのだろう。お風呂が沸いているよと伝えたら、音もなく頷いていたし。

でも、息子は?

2階にもいないし、部屋のどこにもいない。外に出ていってしまったのだろうか? でも、散歩から帰ってきた時、外に誰かいる様子はなかったし、サンダルもあったし。もしかして第2波が起きて、裸足で出ていったのだろうか。

とりあえず夫に状況を確認しようと、私はお風呂のドアをガラッと開けた。
「ねえ、次男がおらんっちゃ……」
と言いかけて、そこに裸の男が二人いることに気づく。

夫と次男だ。

なんで一緒に湯船に浸かってんの?
意味わからん。
30分前にはめちゃくちゃ険悪だったぞ。
夫も次男も、すぐに機嫌がなおるタイプじゃないはずだけど。

「あ…、お風呂はいっとったんや……」

何が起きたかわからず、私は混乱した頭でそっと扉を閉めた。


♨️


風呂から上がってきた次男にこっそりと聞いた。
「どうやって、お父さんと仲直りしたん? 長男には謝った?」

次男はニヤニヤしながら言った。
「お父さんに謝ってこいって言われたけん、『ごめん』って言ったら、長男は『いいよ』って言ってくれた。そしたら、その後お父さんが、風呂に入ってこいって言うけん、風呂に入ったら、なんか知らんけどお父さんが風呂に入ってきて、なんか知らんけど、一緒に風呂に入ったw」


私にはわからない解決方法がこの世にはあるのだな、と思った。

私は論理的に私の考える正解を説きたいと思う方だ。兄弟喧嘩なんて本当は勝手に収まるけれど、自分の機嫌の取り方は覚えて欲しいし、謝ることの重要性は教えたい。そしてそれをしっかり説明し、子に理解してもらうことが親の役割かなとも思っている。だから、タイムリーに話をして理解をしてもらいたい。そして納得して欲しい。

最近は、説明なんか右から左に受け流されてるんだろうなって思ってるけど。

けれど、もしかすると違う方法があるのかもしれない。説明だけでは伝えられないことが、きっとこの世にはあるのだろう。


しかし、風呂に入ってこいと言っておいて、自分も風呂に入ると言うのは、ちょっとよくわからない。


裸の付き合いってやつかなぁ。






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