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後悔の朝とオレンジとチョコチップのスコーン

スコーンと抜ける青空の下、私は後悔をしていた。

私が後悔をしている時、それはほとんどの場合が二日酔いの朝だ。その日の朝の私も二日酔いだった。二日酔いというより、まだ酒が残っていた状態と言った方が正しいかもしれない。私の頭はアルコールでひたひたで、思考はぷかぷかとアルコールの海に浮かんでいた。

起き抜けに、なんで平日の夜に2軒目に行ったんだと思わなくもなかったが、楽しい時間だったので、それを自ら終了してしまうという勇気が私にはなかった。あっさり「明日も仕事なので」と帰れる心の強さが欲しい。

お酒の量は大していつもと変わらない気もしたが、食べることより飲むことを優先してしまったのが今回の敗因ではないかと私は考えた。しっかり食べながら飲めば、こんな朝を迎えなくて済んでいなかったのではないかと私は反省した。次はちゃんと食べようと心に誓う。反省する内容が違うとお叱りを受けそうな気がするが、所詮、私はそんな人間である。

気持ちが悪くとも、その日の朝も私はいつも通りに起きた。朝ごはんの支度や昼食の支度をし、昨日、家族が食べたまま放置していたカピカピの皿を洗い、洗濯機を回して洗濯物を干し、風呂を洗った。昨日の夜も酔っ払ってリビングのフローリングの上で寝ていたが、丑三つ時に起きてきてコンタクトを外し、メイクも落とし風呂にも入った私が、朝も早よからいつも通りの生活をし、昨日の片付けまでしているなんて、ほんと偉すぎると自分で思う。酒ぐらい浴びるほど飲んでもいいじゃないかと思ったりもする。だから、二日酔いだって正直なところ、許容範囲だ。反省すべき点ではない。ほらまた、自己肯定。それがいけない。節度を持った自分の許容範囲で飲酒できる大人になりたい。

やるべきことを全て終えた私は、いつもどおりに歯を磨いて、メイクを施す。全て終わったら、舌をベーっと出して、舌の状態を確認した。少し白っぽかったのと、舌の端の方が波打っていたので、体が冷えているのだろうなと気づく。舌は体のコンディションが出やすいので、私は鏡を見るたびにベロを出して状態を確認するようにしている。

それが終わったら、歯を見せてニカっと笑う。
笑顔の練習。

それと何か歯に挟まってないかの確認。ぶにっと肉厚のほっぺたが盛りっと盛り上がるまで笑顔になるのが、私の朝のルーティンだ。この時点で歯に何かが挟まっていたら、もう一度歯を磨かなければなるまい。どんな時でも、心置きなく笑うための準備をしておく必要が、私にはある。

後悔と共に目が覚めた朝だったが、私はいつもどおりに家を出て、コンビニへと向かった。

昨晩ほとんど食事を口にしていなかったので、お腹が空いて仕方がない。糖分も足りていない。私は赤いラベルのコカコーラと、ぶどうぱん、それとオレンジとチョコチップのスコーンをレジに持って行った。

二つあるレジのうち、一つしか店員がおらず、私は会計をしている人の後ろに並ぶ。するとどこからともなく店員さんが現れ、「こちらへどうぞ〜」と誘導してくれた。40〜50代くらいの女性の方。私はありがたいなぁと思い、そちらのレジへと向かう。

コーラのバーコードをピッと通し、店員さんはスコーンを一瞥した。

「スコーンって、パンを固くした感じ?」

初対面の店員さんにタメ口で声をかけられて、私は少し驚く。
「そうですね〜。パンの固いやつか、クッキーのやわいやつって感じですかね。うまいですよ」

「そーなんだ〜。あ、レジ袋いる?」
「あ、だいじょーぶでーす」
「お会計は?」
「あ、現金で〜」

私がいそいそと現金をレジにある現金を入れるところ(名前がよくわかんない)に入れていると、私が持っていた小さめのIKEAのエコバック(お弁当とか水筒を入れてるやつ)に気づいた。

「ねえ、これに入れてもい〜い?」
「あ、ありがとうございます!すみませ〜ん」

チャリーンと出てきたお釣りをとっている間に、店員さんは私が購入した商品を全てバックに入れていてくれた。

「ありがとうございました〜」
「ありがとうございま〜す」
私はニカっと歯を見せて笑うと、コンビニを後にした。


私は職場に着くと、早速コーラをプシュッと開けてぐびっと飲んだ。そして、スコーンの袋を開けると、一つ口に運ぶ。さっくりとしていて、しっとりしているスコーンをパクッと食べた。コーラとスコーンが、空きっ腹に染みた。










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