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「途上国の教育問題」 広島大学 池田名誉教授の講義 📍グローバル未来塾 in ひろしま

グローバル未来塾 in ひろしまでの広島大学 池田名誉教授による講義、
「途上国の教育問題」の研修報告書をシェアします!

【グローバル未来塾 in ひろしま】
広島県が県内高校生向けに主催。
"「国際平和拠点ひろしま構想」の取り組みの一つとして,高校生世代のみなさんに, 将来,国際平和を希求し世界的に活躍できる人材を目指していただくため,英語力,核軍縮や紛争解決などの国際的課題を学び, 将来への第一歩にしていただくためのプログラム"

【国際平和に関する講義】
"核軍縮・不拡散に関する現状,広島の原子爆弾による破壊と復興及び地域紛争の現状・要因,復興・平和構築を進めるための政治・経済・社会的枠組等についての知識の修得により国際的課題への学びを深めます。"

へいわ創造機構ひろしま(平和推進プロジェクト・チーム内)より引用

【講義の内容/報告書】
 池田教授は教育学博士であり、広島大学で教鞭を取られている。講義では、アフリカやフィリピンなど途上国の抱える実情を様々な側面から学ぶとともに、途上国における日本の歴史的軌跡の適応性についても言及されていた。また世界規模の諸問題の解決に向け、国際舞台の第一線で活躍するグローバルリーダーの資質についても触れられていた。講義の要点として、以下にまとめる。

 まず、途上国での教育問題の要因について述べる。国家内の統治権限をめぐる対立であると言えるだろう。池田教授によると、そもそも国家とは「一定の地域を範囲としてそこに居住する民族を構成員として成り立つ組織化された社会集団」であり、その権力の中枢を持った機構により統治作用が営まれることで国家が統治される。「権力」は利益と結びつきやすいため、民族間でどちらが中枢になるかといった対立が起こりやすいそうだ。このように、権力はナショナリズム的な動きを引き起こし、しばし地政学的な対立を生む。隣接国間の交渉や紛争・極端な思想を持つ軍事組織による攻撃・宗教対立・同一民族の国境線による分断などによって生まれた大量の難民や移民は、途上国の教育問題の主体となり得る。さらに、経済的格差も教育問題と深く関連している。これまでの歴史で、開発途上国は宗主国支配によって植民地として経済的に搾取されてきた。独立後も、旧宗主国は多国籍企業などの影響が色濃く、多国籍企業は国際取引を独占するなど、現在でも開発途上国と先進国の経済的格差は未だ解消しておらず、むしろ拡大傾向にある。このような背景を踏まえ、途上国の教育問題について述べる。

 一点目は、情報入手の困難さである。情報化社会の現代でも、国策との整合性を図るため国家による情報統制が行われている地域もあり、偏った限定的な情報しか入手できない人々がいる。また感染症に対抗するワクチン開発など、お金になり得る情報を先進国だけが握るという現状もあるそうだ。また言語の習得による情報格差の問題もある。フィリピンでは、公用語の一つであるフィリピノ語に専門用語がないことから、小学校の初等教育時点から英語を用いて授業が展開される。高等教育ではほとんどが英語で行われるため、就労において英語の使える高所得者とそうでない貧困層との格差が存在する。

 二点目は、家庭環境である。上位と下位の所得格差が十三倍(2009)とも入れるフィリピンでは、家庭における貧富の差が激しい。また家父長制により父親の権限が強い地域や女性の権限が弱いイスラム圏では、学校へ通うことを許される子供が少ない傾向にある。さらに児童生徒の生活状況として、貧困層では家庭内労働や肉体労働・家事へ従事させられる子、学校までの登校距離が10km以上もあるアフリカの子、基礎的なライフラインが整備されておらず栄養・衛生状態の悪化により体調を損なう子もいた。

 三点目は、不十分な教育制度や機関である。地方の教育事務所の経済的な脆弱さや、教師の権限が強く、知識の記憶が中心で応用力の定着しない教育カリキュラムなどが見受けられた。教員不足や給料遅配によるストライキの勃発・不十分な教員養成の実態に加え、一部の貧困地域の公立校は、金銭的負担から校舎自体がない場合もあった。教育現場として学校が機能していないという実情も見られた。

 最後に、教授はグローバルリーダーの資質について語られていた。国際社会の情勢や歴史的事象・宗教・芸術・文化・科学など、汎用的な教養を持ちつつ、広島で生まれ育った者としての自己の確立が求められていた。また、他言語での高いコミュニケーション能力や柔軟な思考・品格、礼儀、協調性を兼ね備えたしなやかな人間性、そして打たれ強い心や体力をも持ち合わせていることが必要であると分かった。

 この講義を通じ、率直に、私が今当たり前のように日常生活を送り、学べる環境があることがいかに恵まれていることか、実感した。また先進国による国際取引の独占や有益な情報の掌握が、途上国との間に構造的な格差を生んでいること、言語や情報・教育などの「知る」という行為がいかに格差を形成しているか、という点が非常に印象に残った。私たちにとって、国家間の対立を防ぐことは難しいが、まずは脆弱な立場に身を置かれてしまった難民の方々への支援物資の提供や、来日された観光客への言語サポートなどから行動していきたいと考えた。

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