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海の絵本プロジェクトのちょっと早い編集後記

制作が始まったのは、2020年の夏頃だったかな。そして、あと2日で入稿です。ようやくここまできました。もう少しでみなさんにお届け。編集担当はあとがきなどを書くことが殆どないので、編集後記として、書いてみています。編集部のかのこです。

海の絵本は、一般社団法人日本スローフード協会の海の生き物や食べ物を継承してゆくプロジェクトとして始まりました。さりげなくの私は編集担当に、古本は装丁担当として仲間にいれてもらいました。(絵本の販売はスローフードニッポンさんです。)絵本を作る上で、胸を打たれたのは代表のめぐみさんの言葉。「今すぐに何かが変わるわけではなく、絵本を読んだ子どもたちが、少し大きくなった時にあの絵本が言ってたことはこういうことだったんだと気づけるものにしたい。いつかでいい」と。本という媒体の可能性を信じてくださってるんだと思い、出版社をやっている身として、わかりにくい本を作るとコンセプトを掲げるさりげなくとして、とてもとても嬉しかったことを覚えています。そして、改めてそうだよなぁと気付かされました。

海の絵本プロジェクトが2021年度に出版する絵本にテーマは、4地域の海の生き物であり食べものです。

・秋田県 ハタハタのしょっつる
・静岡県 西伊豆町の潮かつお
・長崎県 エタリの塩辛
・沖縄県 国頭村宜名真(くにがみそんぎなま)のフーヌイユ

今回、絵本の編集をするにあたってかなり頭を悩ませたのは最近よく聞く「環境保護」という言葉についてでした。この絵本もそんな文脈と言われればそうなんですが、いやでも違うような。そういう漠然としたものではないんだよなぁと考えていました。

なぜ環境保護しなくてはいけないのか。地域の人が継承している文化をなぜ、他の地域の人が知らなくてはいけないのか。なぜそれを別の地域の人も守る努力をしなくてはいかないのか。自分が住んでいる地域外のことに想いを馳せることはなんのために必要なのか。ぼんやりそれは当たり前に大事だとしても、それを子どもに聞かれたときなんて答えるだろう。

自分なりの言葉や気持ちを探すため、何度も何度ももやもやしながら考えました。この言葉にずっと違和感があったものの、何が違和感かわからない。でもこの違和感を無視してはならぬ、と何ヶ月も。チームで話したり、話を聞いてもらったり、日常的に生き物と仕事をする人の話も聞きました。

そこで私が気がついたのは保護する守るという言葉が重要ではないということ。その時出会ったことわざの英語表現に、私なりの気づきがありました。

-“Put yourself in someone’s shoes.”
「人の靴を履いてみる」

日本語でいうと、「相手の立場に立ってみる」です。当たり前やんって思うかもしれませんが、意外に難しいんですよね。よくいう言葉ですが、これが英語表現になった瞬間に、いろんな景色が見えました。人の靴を履こうと思ったら、その人のいる場所に行かなくてはいけない。その人の近くに行かねばならない。すると、その人が見ている風景が見える。人の靴を履こうと思ったら、その人と会話が必要かもしれない。勝手に履いたら驚かれるはずです。相手の立場に立ってみるというのは、とある行動のひとつでしかなく立場に立とうとするとあらゆる会話やそれ以前の行動が必要であることに気がついたのです。立場に立とうとする前に話していることでその人たちを好きになってるかもしれない。知っていくことで新しい気づきがあるかもしれない、と。靴を履いてみることは、全てに共感することが必須ではありません。それぐらいの近寄り方。それでいいんだと思いました。

私の中での海の絵本の編集は、人の靴を履いてみるの繰り返しでした。生産者さんたちの靴を履くために出かけ、作家さんの靴を履くために何度も話をしました。どんな靴を履いているんだろう、どんな風景を見ているんだろう。何でこの食べ物を大事にしたいと思っているんだろう。この人たちは誰の靴を履いてきたんだろう。そんなことをずっと考えながら、へーそうやったんやの繰り返し。作っているうちに、私が本を読むことが好きなのは「人の靴」を知ることができるからだったなぁと思い出しました。本の中の物語は、どこかにいる誰かの物語であるかもしれない。そういうことを何度も想像するのが好きでした。

子どもたちが絵本を読んだとき、この食べ物を食べてみたいだとか、海に行ってみたいだとか、自分以外の靴を履くことが面白いことだと知ってもらえますように、と知らずに私は願いを込めていました。いろんな靴があって、それぞれが大事にしている何かに気づけたら、自分が大事にしたいものも見えてくるのかもしれません。それが楽しいことであると、いつか思ってもらえると嬉しいな、と思います。誰かの大事なものを何で大事にしているかを知っていくことは、私にとってとても楽しく嬉しいことでした。

本の出版は2月下旬です。日本スローフード協会さんが、クラウドファンディングをしています。寄付とか支援とかももちろん嬉しいですが(それよりもっと以前に)、どんな靴をはいているんだろう、と見てみてください。知ることは面白いことだと改めて思わせてくれます。

(編集部 かのこ)

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