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出会いと行商。

一週間が経ち、ほとぼりも冷めたから先週の行商体験をここに記そうと思う。

我が家からほんの歩いて20秒のところに芝生広場があって、そこで甲州ワインのイベントがあった。

主催の人たちとは最近仲良くさせてもらっていて、「よかったら、パン出さない?」なんて言われて、「あ、いいんですか?」なんて二つ返事で引き受けたことが発端であった。

四苦八苦の準備を経て、当日、親の反対を押し切り、テントを張り簡易店舗を作るといういかにもイベント出店的な形を辞めた。

甲州ワインと甲州味噌で煮込んだ豚肉と甲州ワインのビネガードレッシングを手作りし、我が家のパンで挟んだハンバーガーを作った。

が、売り場は「ワインフェス」であるから、「その場ですぐ食える」ことにコミットすべく、「まるやのブタパン」なる完成品を売り歩く行商スタイルにした。

全部で90個作るうちの30個ほどをケースに入れ、手製のポップを書き、会場に行く。

主催の人たちに手招きされ、挨拶を済ませると、会場に来訪したお客さんたちを見ながら、パンケースを抱えて歩いた。

今回、行商するにあたって、自分ルールを定めていた。

まず、大きな声を出さない。ついで、人の目を見て歩く。

「モノを売るとは何であるか」を考えた末、ぽっと会場に行って大声張り上げるより、「この日、この時この場所で、こんな妙な出会いをしたのだから」を販売の入り口としたかったのだ。

自然な表情で、目を見て歩いて(あ、いけそう。)だって思ったら、「こんにちわ、ハンバーガーいかがですか。」と声をかける。

ダメなときは本当に「あ、大丈夫。」と立ち去る人もいれば、手で制されるときもあるのだけど、「へー何が入っているの?」なんて言って食いついてくれる人もいる。

「甲州ワインと今、ラジオの公開収録している五味さんのヤマゴ味噌で豚ロースを煮込んだんですよー、1個500円なんですけど、お1ついかがですか?」なんて話す。

「あ、じゃー1つ貰おうかな。」と、買ってもらうというのは、なにかとんでもなく大事なことをしているなという実感があった。

最初の30個は30分ともたずに売り切れた。

ハンバーガーの特性上、膨大な量の作り置きは、野菜の浸透圧と、豚肉が冷めることから考えて、嫌なので、作った分売り、売り切ったら作る方式にした。

切ったバンズにレタスを引き、しこたま千切りしておいたにんじん、豚肉、スライスオリーブの順で挟んでいく。

たまたま家にあったいかにもそれらしいブタパン用の紙で中身が見えるように包んだ。イメージは、店内で食べるモスバーガーの包み方だ。それを外で売るからハンバーガーが1個入るサイズのビニールで再度包んだ。

そしてまた、パンケースを抱えて、会場へ行く。

割合、女性の方が買ってくれやすいことも判明した。中には、「このパン以外のパンは、あそこにある店舗に行けば買えるの?」なんてパンそのものに興味を示してくれる人もいた。

私の家はそもそもパン屋である。今回はそれとは独立して販売していたが、それでも嬉しかった。

芝生広場といっても野球するだけのスペースは無いほど小規模であるため、パンケースを抱えて歩き回っていると、同じ人に何度も会うことがしばしば。

「さっきは、どうも」なんて言うと、「美味しかったよ」といってくれる人がほとんどで、「ああ、ありがたいなあ。」と噛み締めつつ、また別の出会いと行商へと気を引き締める。

買ってくれる人と、断られる割合は、実に均衡していた。

断られるたびに、「次、つぎ」と前を向きなおした。

本当に苦心して作りきった良いモノ(じぶんではそうおもっている)を売り切って500円のハンバーガー以上のモノ、コトにしたいと思っていた。

出会って売って、少し会話も交えながらの行商。

作って売っての繰り返しで、90個のブタパンは2時間ほどで売り切れた。

メニューを考え、友達が面接や、ESを書いている時に、豚ロースを8キロほど抱え、「一体僕は今何してるんだろう」と向き合い続ける数日間であった。

そんな心労と同時に、
価値と呼べるものを生み出し、売り、届け切った気がしていた。

本当のところは、お祭り騒ぎにかまけて商売しただけなのかもしれないけど、
「手仕事で産んだモノの届け方にも、
こだわれたのだし、まあいいでしょ。」と、
己を褒めてやりたくなった。

常々、「パン屋になる」とほざきまわっているだけあって、この行商を通して一番感じたのは、「作って、売って、届けることは、これからも延々と続く僕の生活そのものなのだろうな。」という実感であった。

「最初の一回である」ことを強く感じた。

モノを介したコトを届けたい。そんな自分の瑞々しさすらある感情の再確認であった。

仕込から準備までにかかった費用と、当日の売上を計算して、利益率は6割弱と、健全な商売だった。

普段パン屋として稼動する我が家には、私のわがままの為の仕込みスペースなど無く、書生として雇ってもらている小倉ヒラクさんの家のキッチンを間借りした。

「なにもいらないよ」なんて言って見守っていてくれたヒラクさんと奥さんだったけど、感謝したくてたまらなかったので、プレミアムモルツと、甲州ワインを渡した。

二つで4000円にも満たないのだけど、気持ちが伝わればいいと思った。

小倉家は「あぁ、いいのにぃ。」と言いながらも、「でも、良い初陣だったね、グッジョブ」と称えてくれた。

出会ってから売る、届ける、これは存外、真理的なことだろうと思う。

闇雲に売り捌く資本主義的な販促は、なんだか、もう、「多分違うのだろう。」と。

創作の日々は続いて、
「モノコトを届けるとは。」と向き合い続けるのだろうけど、作品を通して、なんらかの出会いの後、売るをしたい。

ありがたいことに、ちゃんとやれば、
お金を払ってくれる人がいるのだ。

1人で生きるのは、至極たいへんであることをなんとなく皆知っているから、「ちゃんと、お金を払う。」をしてくれるのだろうし、するのだろう。

色んな人に助けられて生きているので、同様に、色んな人の助けにもなることが出来るのであろう。

と、また今日もなんらかの出会いがあれば良いなと思うのだ。ヒトモノコトに出会って、そこでやっと、自分を知るのだ。



そしてこれを恐る恐る、有料noteの第1作目としたいのです。

ワインと味噌の煮豚のレシピを載せるので、いわゆる投げ銭でよろしくおねがいします。

あと、超完璧なレシピではないのであしからず。

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