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吃音改善の考え方についての考察

先日までに、吃音の神経メカニズムや改善訓練による変化をまとめました。これらより、適切な訓練を行うことで、吃音は十分に改善し得ると考えられます。
そこで今回は、今までの内容をざっくりまとめつつ、改善の考え方について私なりに考察します。


はじめに

吃音者には特有の脳構造や神経パターンがあることを解説しました。

また、人間の脳には可塑性という性質があり、特定のトレーニングを繰り返し行うことで脳の構造や神経パターンに変化が生じ、吃音の頻度や社交不安が改善したという研究もまとめました。

また、吃音の悩みには様々な要因が関係しており、海外では多面的・包括的アプローチが重要視されています。

これらのことから、私たちが吃音問題に取り組む際、どのような考え方をすることが望ましいかについて考察します。

吃音改善の考え方

吃音改善で考える場合
1.元々持った遺伝による吃音(連発など)
2.進展により獲得した後天的な吃音(難発、随伴運動、予期不安など)

に分けて考えることが好ましいと考えます。

また、2の「進展により獲得した後天的な吃音」についてはさらに
2-1.無理な話し方によって定着した悪い話し方の癖(力み、随伴運動など)
2-2.否定的な経験や考え方に起因する心理的問題(予期不安、回避など)

の2つに分ける必要があります。

吃音は元々持って生まれた特有の脳神経パターンによるものでしたが、からかいやうまく話せないもどかしさから、力んだり体を動かしながら話すような癖が定着し、本来とは異なった話し方に変わってしまいます。こちらは下記記事にて解説しています。

また、否定的な経験などから、話すことに恐れを感じはじめ、予期不安や自己嫌悪、回避などが定着してしまいます。こちらも下記記事で解説しています。

そこで、吃音改善について「元々持った遺伝による吃音」「無理な話し方によって定着した悪い話し方の癖」「否定的な経験や考え方に起因する心理的問題」の3つに分けて考えます。

①元々持った遺伝による吃音

これは、遺伝などによる先天的な脳の状態です。様々な要素がありますが、例えばその中に「発話意図と発話のタイミングがうまく合わない」というものがあります。
つまり、脳が「話そう」と動き出すタイミングと、実際に発話する運動がチグハグになり、吃音が発生するというものです。

この改善方法としては、下記記事にて紹介したメトロノーム方が挙げられまるかと思います。メトロノームに合わせた発話練習により、脳の発話意図と実際の発話のタイミングを正しい状態に修正し、それを毎日反復することで、脳の可塑性により吃音脳特有の神経パターンに変化が生じ、吃音が改善されることが想定されます。

また、流暢性形成法なども先天的な吃音脳に効果的であると考えられ、これは事項で説明する話し方の癖にも通ずる内容になるかと思います。

②無理な話し方によって定着した悪い話し方の癖

からかいや上手く話せないもどかしさから、話せるようになる工夫を始めます。その工夫とは、喉に力を入れて声を無理やり出したり、顔や体のどこかに力を入れたりする話し方です。
これはオペラント条件づけによって習得してしまった話し方になります。
神経学で説明するならば、普通の話し方とは別に、力んだ苦しい話し方の脳パターンを作ってしまっていることになります。

これは人前でうまく話せないことへの恐怖心や緊張などから定着した話し方であるため、「人前」というトリガーも紐づけられていることが多いでしょう。
人前では吃音が激しくなったり、随伴運動が多くなってしまうのも、これに起因しているのではないでしょうか。

この場合の改善方法を神経学ベースで考えるならば、
「悪い話し方の脳内回路を使わず風化させ、正常な話し方の回路を強化する」
となります。

これは臨床現場でも使用される流暢性形成法などが当てはまります。流暢性形成法では、「ゆっくり話す」「唇や舌を軽い接触にする」といったテクニックにより、より力まず自然な話し方を定着させていきます。これにより、悪い話し方の癖をなくしていきます。

また、森田療法などの行動療法やマインドフルネスなども効果的と考えます。かなり噛み砕いて言うと、「余計なこと考えず、今に集中しろ」というものになります。

多くの場合悪い話し方の癖は、不安や緊張などとセットで学習されています。何かに没頭していたり、忙しいときは吃りにくいという経験をされた人も多いかと思います。
これは、悪い話し方の発火のきっかけである不安や緊張がないためと考えられます。行動療法やマインドフルネスによって不安や緊張の生じない発話プロセスに導いていく方法も良いと考えます。

③否定的な経験や考え方に起因する心理的問題

これは、否定的な経験などから進展したもので、予期不安や自己嫌悪、回避などを伴います。これらはオペラント条件づけなどにより定着してしまったものになります。
「吃ったらバカにされる」といった不安や、「吃音の自分は無能だ」のような自己嫌悪があり、その呪縛から抜け出せません。

これらは思考の癖でもあります。吃りの程度が異なる人でも、かなり吃るのに全く気にしない人と、少し吃るだけで強い自己嫌悪に陥る人がいます。この差はまさしく思考の癖になります。

思考の癖を改善するためには、正しい思考パターンを定着させ、悪い思考パターンを風化させれば良いことになります。

これには認知行動療法やACT(マインドフルネス)が挙げられます。これらは自分の歪んだ考え方に気付いて修正したり、歪んだ考え方は置いておいて、自分にとって価値のある行動をしようという心理療法で、様々な精神疾患に高い効果を上げている方法になります。これらにより適した思考や行動習慣を身につけることが重要になると考えます。

まとめ

今回は、私が考える吃音改善の考え方についてまとめました。
先天的なものと後天的なものがあり、それぞれを区別して考えることが好ましいと考えます。
またこれらの問題については、世界中で様々な研究が進められており、ありがたいことに対応方法があるので、その方法などについてはまた別の記事でまとめたいと思います。

参考文献
1)Chunming Lu, Lifen Zheng, Yuhang Long, Q. Yan, Guosheng Ding, Li Liu, D. Peng, P. Howell Reorganization of brain function after a short-term behavioral intervention for stuttering
2)KatrinNeumann,ChristinePreibisch,HaraldAEuler,AlexanderWolffVon Gudenberg,HeinrichLanfermann,VolkerGall,Anne-LiseGiraud Cortical plasticity associated with stuttering therapy.
3)D. Moscovitch, D. Santesso, V. Miskovic, R. McCabe, M. Antony, L. Schmidt Frontal EEG asymmetry and symptom response to cognitive behavioral therapy in patients with social anxiety disorder
4)豊村 暁 吃音の流暢性促進プログラム開発:神経科学的理解のセラピー法との融合
5)城本 修 吃音の神経学的基盤に関する文献研究
6)耳鼻咽喉科医師が行う低強度認知行動療法 心身医学 2023 年 63 巻 3 号 p. 229-235
7)森浩一 成人吃音の難発を短時間で解除する指導法

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