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難発性吃音の定着と悪化要因

ここでは、難発の吃音がどのように強化されてしまうかについてまとめます。


難発とは

「難発」とは、発話に関わる器官のどこかに力が入ることで、目標とする発声や発語が停止する現象を指します。


「ありがとうございます」 → 「・・・・ありがとうございます。」

難発の発現・定着要因

なぜ難発が発生するかという点は、
①対処行動
②オペラント条件づけ
の2点が挙げられます。

①対処行動(発現要因)

難発は、随伴症状がなければ音が出ないだけで、比較的目立たないことから、「繰り返しなどのより目立つ吃音症状を抑えるための対処行動として、構音器官に力を入れるなどしたものが確立する」という考えがあります。

つまり、「吃りたくない」、「吃るところを見られたくない」、「からかわれたくない」という思いから、構音器官に力を入れることで、吃音が目立たないように工夫したことが起因して、難発を引き起こしたと考えられています。

②オペラント条件づけ

また、難発はオペラント条件づけによって維持される可能性も考えられています。オペラント条件づけは、下記記事でも紹介しておりますが、再度記載します。

オペラント条件づけとは、「ある刺激のもとで行動することにより、行動の変容や学習が生じる」という理論です。
オペラント条件づけの具体例として、スキナーの心理学実験を紹介します。

スキナーの実験

スキナーは、ラットを箱に入れて実験しました。その箱にはレバーがあり、レバーを押すとエサが出る仕組みになっています。
ラットは最初、箱の中を走り回るだけでしたが、押すとエサが出ることに気づきます。そして最終的には、頻繁にレバーを押すようになりました。
つまり「レバーを押す行動」によって環境が変わり(エサが出る)、その行動が強化されたわけです。スキナーはこの学習プロセスを、オペラント条件づけと呼びました。

人の場合
これを「仕事の疲れ」と「飲酒」で考えてみます。

仕事の疲れがたまっている状態(先行刺激A)に対して飲酒という行動(B)をとると、気分がよくなるといった結果(C)が得られます。この ABC の3 つがオペラント条件づけによって、同様の先行事象が生じた際に同じ行動をとるようになります。

仕事の疲れ(A) → 飲酒(B) → 気分が良くなる(C)

このABCの3つがオペラント条件づけによって、同様の先行刺激(疲れ)が生じた際に同じ行動を取るようになり、回数を増すほどその一連の行動が脳に定着していきます。つまり、「疲れが溜まったら酒を飲む」という行動が自動化してしまうのです。

仕事の疲れ(A) と 飲酒(B) がセットになる

難発性吃音の場合

難発が生じた際に、口や喉の周りを力むことで、最終的に言葉を発することができた場合、

難発・ブロック(A) → 力み(B) → 言えた・安心(報酬:C)

このABCの3つがオペラント条件づけによって、同様の先行刺激(難発・ブロック)が生じた際に同じ行動を取るようになり、回数を増すほどその一連の行動が脳に定着していきます。つまり、「声が詰まる→無理やり力んで発声」という行動が自動化してしまうのです。

難発の解除方法1

この解除方法について、Van Riperにより「キャンセレーション」と呼ばれる手順で難発を制御し、また「プルアウト」という方法で難発の途中で構音器官を緩める手順を考案しました。

一般的な流暢性形成法による治療では、難発時に喉頭や構音器官の過緊張に注目し、「固い接触」(強く閉じること)を避け、むしろ柔らかい接触や軟起声を学習させることで、難発に対抗します。

この方法は、力が入る難発に対する対抗刺激となり、習得すれば難発が減少します
しかし、吃ることを意識した段階で(「予期不安」)、難発の準備が始まり、半ば自動的に難発が発生するため、予期不安が生じてから軟起声を実行するのは容易ではありません。
実際、訓練初期には、外来で軟起声を使えるようになっても、日常生活での適用は難しいことがあります。

また、成人吃音者の場合、吃音があっても、吃るかどうかを意識しない状況では通常通りに話すことができることが多い
つまり、正常な構音能力はあるものの、発話行為を意識すると、または予期不安を抱えると、構音器官が過度に緊張し、流暢な発話を妨げる(=難発)可能性があると考えられます

そのため、吃音者は流暢な発話行為を意識的に行うのが難しいとされています。この仮説に基づき、参考文献1では通常の発話が意識的にできるように導く方法が開発されました。

難発の解除方法2

対象となるのは、特定の単語で常に難発が生じる成人吃音者です。外来で吃らない者や、繰り返しを伴う者は対象外です。
まず、ある単語で難発が生じることを確認した後、対処行動がそれを引き起こすことを説明し、「『その単語を言うと吃りそうだ』などと考える前に言う」という指示を与え、「どうぞ」といったプロンプトの直後に発語するように指導します。

難発や随伴症状が生じた場合には、発声に至る前に中止させ、口囲に緊張が見られる場合には、自分の指で触れて緩めさせます。
プロンプトに適切な間を置かずに発語できるようになるまで、「もっと早く」という指示を繰り返します。この手順により、主症状が難発のみである成人吃音者の大半は、ほぼ数分以内に緊張することなく、正常な構音で、遅れることなく単語を発することができるようになりました。
他の状況や文章への適用に関しては今後の課題となりますが、患者自身が実際に自然な発話ができることを体験し、理解できる意義は大きいと考えられ、訓練の具体的な目標にもなります。

所感

このような訓練を訓練室以外の状況でも適応させていくことを、「般化」といいます。上記2つの方法は、いずれにしても般化は難しいと考えらえます。
とはいえ、練習でできないことは実戦でもできるようになりません。

また、「私はこの言葉を言えない」という自己意識を持っている場合、「あれ、言えるじゃん」と自己意識を上書きできることは、今後の吃音改善の継続意欲にも繋がるもので、有意義であると考えられます。

難発はオペラント条件づけにより根強く定着しているケースが多いので、一朝一夕では改善するものではないと理解し、粘り強く取り組むことが重要であると考えます。

参考
1)森浩一 成人吃音の難発を短時間で解除する指導法
2)Margaret M. Martyn, Joseph Sheehan Onset of stuttering and recovery
3)Barry Guitar Stuttering: An Integrated Approach to Its Nature and Treatment
4)やさびと心理学 オペラント条件づけ(道具的条件づけ)とは?学習の例をわかりやすく説明



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