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建築物を見て歩く❺横浜洋館の照明を見て歩く

ノイズ(視覚的な雑音)を無くした空間


普段、装飾を排したシンプルで重厚感のある住宅メーカーに勤めているため、担当するお客様の嗜好も一定の方向に偏りがちです。

かつては主流であったダウンライト(天井埋込灯)さえも、天井面に空いた穴がノイズ(視覚的な雑音)だと敬遠されることもあります。

今、間接照明の中で特に人気なのが、天井から光が落ちてくるイメージのコーニス照明やスリット照明。基本は照明器具を天井に埋込み、隠してしまうことで光を主役に据える配光スタイルです。

今回は横浜に点在する大正から昭和初期の洋館を巡りました。
建物ではなく、内部空間、特に照明計画を中心に撮影しました。

山手111番館

港の見える丘公園にある「山手111番館」は、建築家J.H.モーガンが大正15年、アメリカ人オーナーのために建てたスパニッシュスタイルの洋館です。

存在感のあるシャンデリア
装飾が美しい壁付灯

シャンデリアはその存在感に圧倒的な美しさがあります。
天井高の関係で、住宅での採用は難しいと思いますが、近年LEDランプの普及でメンテナンスが極めて楽になりました。
但し、クリスタルが輝きを保ち続けるためには、日常的に掃除などの手間がかかります。

やはり住宅での維持管理は難しいと言えます。

ガラスのシェードが美しい
鏡の両脇に灯を添えて

シャンデリアに比べるとシンプルで優しいイメージのデザインです。このあたりの照明器具であれば、住宅での採用も可能です。

山手234番館

建築模型
外国人用アパートとして建設
光が奥行きを演出
ふっくらと丸いキッチン照明

この建物は昭和初期に外国人のためのアパートメントハウスとして建てられました。同じ間取りの3LDK、4戸で構成されています。

111番館と比べるとシンプルで機能的だと感じるのは、設計者が日本人朝香吉蔵だからでしょうか?
照明器具も大げさではなく、空間に馴染んでいます。

昭和、平成と馴染みのシャンデリア

LEDランプが普及するまでは、長らく白熱電球が主流でした。電気代が高く、電球もよく切れるため、維持費やメンテナンスの負担が大きかったと思います。
ただ、空間に放たれる色合いの美しさと温かみは、白熱電球に勝るものはないと思います。
炎の色を彷彿させるからだとも
言われています。

白熱電球の後、日本では蛍光灯の特徴である絶対的な明るさと省エネが支持され続けました。
今やその地位はLEDに奪われつつあります。

一方白熱電球は、将来生産中止になる可能性を見据えて買い溜めをする人が少なくないと聞いています。
それぐらい信奉者の多い商品です。

エリスマン邸

緑と白の対比が美しい
緑が効いています

「日本の近代建築の父」と呼ばれたA.レーモンドの設計です。 
代表作は、東京女子大学本館や聖路加病院などがあります。

間接照明を取り入れて
天井に浮かぶ光の形まで美しい照明
絵画のような窓枠の設え

大谷石で作った暖炉の上にある照明器具は、壁の一部を切り欠いて器具を仕込んだ間接照明です。大正15年に造られた建物にこんなお洒落な間接照明を計画したA.レーモンドの仕事に感銘を受けました。機能性と審美性の両面に配慮した照明手法だと思います。

今回、3棟の洋館をご紹介しました。いずれも先人たちの知力と想いがたっぷりと詰まった建築物です。
敢えて挙げるのであれば、大谷石で造られた暖炉とその上に設置されたシンメトリーな照明計画に最も心が動かされました。

大谷石の暖炉


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