知識は、ちからだ。「九十九の黎明」【おすすめweb小説#4】
ネット小説・web小説では珍しい児童文学なお話。英語版で書籍化されていて、ここで紹介するかは迷ったんですが、読み直したら語りたくなってしまったので……。
あらすじ
その知識は、本来お前が持つべきものではない――
筆写師見習いのかたわら、地図制作を請け負うウネン。領主の依頼で仲の悪い隣領との境界を測量することになった彼女は、護衛を探すために訪れた酒場で一人の旅の剣士と出会う。
ウネンが過去に作った地図を手に、剣士は「測量技術を誰から教わった?」と詰め寄ってくる。彼は、三年前に失踪したウネンの師匠を罪びとだと言って探していた。
師の犯した罪とは何なのか。門外不出の知識とはどのようなものなのか。
恩師の無実を証明すべくウネンの旅が始まる。
――小柄で男の子と間違えられてばかりいる地図屋の少女と、少女の師匠を追う腕利き剣士(口下手で苦労性)と切れ者魔術師(笑顔が胡散臭い)との、世界の秘密を巡る冒険譚。
作者さまあらすじより
レビュー
かなり迷いながらも結局この作品のレビューを書いてしまったのは、あまりにもわたしの中の理想の児童文学像を体現しているからだと思う。幼い頃から本にどっぷり浸かってきたようなタイプで、なかでも児童文学なファンタジーが死ぬほど好きなんですが、その分児童文学にはこうあってほしいという理想がどうにも高くなってしまって。
こどもに媚びているのも、こどもだましなのも、説教くさすぎるのも嫌で、大人が読んだとしても十分楽しめて、けれどもこどもが読んだときにもっとも輝けて、ただ純粋におもしろい。
みたいなのがわたしの理想なんですが(笑) 理想が高すぎるのはわかっているけれど、もはやこどもではない大人がこどものための物語をかくならば、それくらい気をつけなければならないと思うんです。
そして、この「九十九の黎明」はまさに児童文学として理想的だし、とにかく面白くて必死になって読める話。謎目線で語ってしまいましたが、とにかくこういう本が学校の図書館や家の本棚にあったら嬉しいな。
主人公トリオであるウネン、モウル(魔術師)、オーリ(剣士)のくみあわせがまず好き。はじめは敵対している彼らが一緒に旅をしていくうちに仲間になっていくのもいいですし、その「仲間」になった彼らの関係がなによりも素敵だなぁと思います。
主人公のウネンはまだまだこどもの立場で、彼女にはできないこともたくさんあるし、彼女だけでは責任のとれないこともたくさん。一方、そんなウネンと旅する二人は大人だし、魔術や剣の腕もすごく優れています。ウネンと彼らの間に差があるのはあたりまえで、しょうがないこと。
そんな中でもウネンが成長していく様子や、ウネンを見守る二人の態度がいいなと思う。こどもだからといって甘やかしすぎず、あくまでひとりの人間として扱っているところ、けれどウネンが困っているときには駆けつけてくれるしできるだけ手助けしてくれるところ。二人ともウネンのことが大好きだけれど、(だからこそ?)適度な距離感を持って常に接してくれているのが伝わってくる。
かまわれすぎたり、ないがしろにされたり、放置されたり、みたいな、きちんと見てもらえない経験って割とこどもの頃にあるけれど、このふたりはウネンに対して誠実であろうとしてくれるので、読んでいてほっとします。
そして、この作品について話すうえで欠かせないのが「知識は、ちからだ」というフレーズ。この記事のタイトルにもしてしまいましたが、作中に何度も出てくるこの言葉には全力で賛同したい。
個人的な経験と感想にすぎないけれど、世の中には知識を軽視しすぎている人が多いと思います。原因がどうだとか、そういう話は置いておいて、知識はわるいこともよいことも招くし、大きなちからであるということは紛れもない事実。無意味な断定は避けたい人間ですが、これは断定してもいいんじゃないかな。
わたしは新しいことを知るのが割とすきで、自分の世界が広がっていくのを実感できるからなんですが、「九十九の黎明」はそんな「世界の広がり」を体感させてくれます。同じ世界を見てはいるのだけど、世界の見え方がガラリと変化するような。と、同時に、知識を巡った事件が広がっていくお話でもあるので、複数の意味で「知識は、ちからだ」な物語。
ほかにも語ろうとおもえば魅力はまだまだありますが、このくらいで。少女の冒険譚で知識をめぐる話で、児童文学風で、コンセプトも世界観もすきだよっていう記事でした。
「九十九の黎明」はもう読んだし好きだったよって方には、同作者さんの「黒の黄昏」をおすすめします。いろんな意味で「九十九の黎明」よりも大人な話ですが、これはこれで重厚なファンタジーで面白いので!
基本情報
九十九の黎明 -地図描く少女と禁じられた知識-
著:GB(那識あきら)
完結済長編小説
文字数: 538,326字
小説リンク
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個人サイト「あわいを往く者」
アメリカにて英語版『Dawn of the Mapmaker 1』が出版されています。
くわしくは作者さまブログにてご確認ください。
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