見出し画像

終火③話「2回目の夏」

 そう言えば、昨年の夏は付き合い始めて間もない時の花火大会で、一緒に浴衣着て花火を見た想い出が、まだ初々しくてお互いいろんなことを少しづつ知れることが新鮮でキラキラ輝くような時期だった。

 一年も経つとだいぶ、新鮮味は無くなってきていたが、ただ何もしゃべらなくても、同じ空間に一緒の空間に居れることが幸せであり居心地が良かった。

 今年の花火大会は一緒に見ることができなかったが、代わりに公園内の砂浜で一緒に花火をして楽しんだ思い出だけは、夏の想い出として残っていた。

線香花火


 最後に残った線香花火を見つめながら、私は少し寂しい気持ちにもなっていた。

 実は……

 後に風の噂で知ったのだが、年明けた4か月近く経ってからのことだった。一年目の花火大会に私の都合で行くことができなかったのだが、涼太は花火大会に行っていたのだ。

 それも……

 他の人と一緒に。

 その相手と言うのは……

 馴染みの喫茶店の娘でもある香織と娘の葉月と3人で一緒に花火大会に行っていたのだ。

 付き合い始めてから既に一年くらいの私と涼太だったが、夏休みに実家のお店の手伝いがてら帰ってきていた涼太の様子が少しずつではあるが、約束していた日の当日にドタキャンしてきたり、忙しいとか用事があるからとか何かにつけ、私と合う時間が夏を境に減ってきていることに涼太に対する不安が増していったのだ。

 涼太が、横浜に帰る二日前に私は涼太の実家近くの港で待ち合わせをしていた。

画像2

 私は涼太にLINEをしていた。

 ―――只今到着~―――

 するとすぐに涼太から返事が来た。

 ―――ゴメン! 少し遅れる―――

 8月も終わりを迎える頃で、朝晩は少し涼しくはなってきていたが、日中は相変わらず照り付けるような暑さ。蝉の大合唱が更に暑さを感じさせる。

 私は一先ず近くの木陰で涼太が来るのを待っていた。

木陰

 10分くらいすると涼太が小走りに私の元へと来るのが見えた。

 大きな声で私の名前を謝りながら叫ぶ。

「かなこ~ゴメン」

 息を少し切らせながら私の元へと近づいてくる。

「ゴメンな……はぁ~はぁ~かなこ」

 会えない時、会ってない時は不安な気持ちでいっぱいになるのに、何でだろう? 涼太に会った瞬間、涼太の笑顔を見た瞬間に今までの不安が一気に吹っ飛んでしまう。

 付き合い始めの頃のことが一瞬でフラッシュバックしてしまう。

画像4

 なかなか自分の気持ちを私に言わない涼太のことがじれったくて、砂浜で私が涼太に向けて石で好きな気持ちをアピールしたら、やっと「僕もだよ」と照れながら言ってくれた。

 そして、それから直ぐの花火大会で2人で観た花火とキスの想い出がフラッシュバックしてしまう。

 私の都合で涼太と今年の夏の花火大会には行ってないけれど、その代わり2人だけで砂浜で花火をした想い出はあるから、それでも嬉しかった。

 最初の頃より会える回数が減ったけど、私は会えるだけで、涼太と一緒に居るだけで幸せだった。

 その頃は、まだ香織と涼太のことはただの幼馴染的な姉と弟の関係ぐらいにしか思っていなかったから、涼太が香織に女性としての好意を抱いてることなんて考えもしなかった。

 それに香織には夫が居て子供も居る既婚者だからと思っていたけど、私の知らないところで、涼太と香織の関係が少しずつ進んでいっていたのだ。

 涼太の住む横浜の大学近くのアパートの鍵も一年前の花火大会の日に合鍵を貰っていたので、週末は横浜まで会いに行き泊まって帰ることもあったが、夏に涼太が横浜に帰ってからクリスマスのシーズンまでの間は、月に数えるほどではあったが、週末会えそうな時は会いに行っていた。

 会える回数は減ったとはいうものの、まだ涼太との関係はそれなりに上手く続いていた。涼太との愛に会えない時は不安が募ってはいたが、会えれば優しいし、何よりも涼太の笑顔に癒され隣に一緒に居れることが幸せだった。

 そして12月24日のクリスマスの日は、涼太のアパートでささやかなクリスマスパーティーを二人でし過ごした。




クリスマス以降のお話はまた、そのうちに書きますね。

また続きのお話は、いつになるかわかりませんが、暫しお待ちください。



この記事が参加している募集

#夏の思い出

26,339件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?