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はじめましてとサンプル?小説

はじめまして!初投稿です。
少し前に、「表現する」という言葉が、ふっと頭に浮かびました。
あぁ、私が本当にやりたいことは、「表現する」ことなのかもしれないなと。
最近、読書の時間もやっと取れるようになりました。
創作もまた、開始しようかと思っています。

かなり昔に書いたもので、ツッコミどころも満載かと思いますが、
ショートショート?をサンプル的に置いてみます。
こういう創作をアップするのって、どうしてこんなに
こっぱずかしいのでしょうか(^^;
気軽にコメントでも、批評でも歓迎しております!
よろしくお願いいたします♪

文字と雪をテーマにしたショートショートです。

『浸透』

 彼女は文字が書けない。文字を知らないわけではない。読書は好きだから、むしろ一般の人よりは、知っている文字が多いかもしれない。正確に言うならば、純粋に文字が書けないわけではない。彼女の書いた文字は、目に見えないのだ。書いたそばから消えていってしまう。
 むろん、日常生活に支障が出る。学校に行ってもノートがとれないし、テスト用紙は白紙になってしまう。ただ、当の本人はあまり気にしていないように見えた。彼女は普通にノートをとり、テストもすべて答えを記入していた。文字はすぐに消えて、紙は真っ白なままになるのだけれど。そんな風だから、いつも周りの方が困惑していた。
 そのことについて、誰かが彼女をからかったりということは不思議となかった。彼女が人を寄せつけない独特な雰囲気を持っているからかもしれない。はたまた、どうやっても文字が書けないという現象が、何か不気味で怖いせいかもしれない。 
 アサミは、どうにも彼女が気になっていた。クラスは違うものの、アサミと彼女は同じ書道クラブに属していた。クラブの片付けで二人になった時に、アサミは思い切って話しかけた。 
 話しかけてみると、彼女のまとう雰囲気はふっと柔らかくなった。人を拒絶しているわけではないのだ。ただちょっと無口なだけなのかもしれない、とアサミは思った。
「ふわふわ飛んで行って、消えちゃうのよ」
 彼女は窓の外を見ながら、ぽつりと言った。
「え?」
 と、アサミは片付ける手を止めて、彼女の背中を凝視してしまった。アサミは「みんな片付けて帰るの早いよね」と、出来るだけ気楽な感じで話しかけただけだった。こんな答えが返ってくるとは予想もしていなかった。
「あの……、文字のこと?」
 アサミはおずおずと尋ねた。
 そう、と彼女はにっこりと言って、イタズラっぽい目を向けた。
「見てみる?」
 アサミの返事を聞く間もなく、彼女は片付け始めていた書道道具をまた机に出し、床へと移動した。
 道具をセットし、床に正座した。今から剣道の試合でも始まるのではないかと思うぐらい、姿勢よくきりりと座っていた。思わずアサミも正座になって、彼女の横で半紙を見つめた。
 彼女の右手が動きだす。筆はたっぷりと墨汁を含み、硯で余分な墨汁がしごかれる。彼女の手が、筆が、スッと半紙の上へと移動する。横には、これから書く文字のお手本が置いてある。「春夏秋冬」だ。まずは「春」の横棒から書き始められる。アサミは息を飲んだ。彼女の長い黒髪が、肩からさらりと前に流れた。
 筆は半紙に吸い付き、墨汁が半紙に吸い込まれて行く。文字はきちんと書かれていた。白い半紙に堂々とした黒い「春」という文字が。しかし、それを認めたのはほんの一瞬だった。彼女の筆が「夏」の最初の横棒にかかったときには、「春」は半紙からゆっくりと起き上がっていた。「春」は徐々に半紙から浮き上がり、彼女の目の前あたりで、ふうっと消えてしまった。「夏」も「秋」も「冬」も同じだった。
 アサミはしばらく呆然としていた。しかし、その後には感動すら覚えた。 彼女の書く文字はとても美しかった。書道のコンクールに提出できないのがもったいないなと少し思い、また彼女の美しい文字の余韻に浸った。
「消えちゃうけど、だからこそ意味があるのかもしれない」
 彼女の言った言葉が、今のアサミにはなんとなくわかる気がした。

 二人で校門を通り過ぎたところで、ちらちらと白いものが落ちてきた。雪だった。今年初めての雪だ。
「ねぇ、積もった雪とか、地面の土とかに書いてみたらどうかな?」
 雪を見て、ふと思いついたことをアサミは言ってみた。
 彼女は、土には小さい頃に書いた気がするけど駄目だったと思うと言った。同時に、
「雪に書くっておもしろそうね」
 とも言った。彼女の目にはまた、イタズラっぽさが浮かんでいた。
「雪なら誰が書いてもいずれは溶けて消えてしまうものね。もともと消えるものに書いたらどうなるのかしら」
 彼女は純粋にそれを想像して楽しんでいるようだった。
「この雪じゃ、さすがに積もらないよねぇ」
 アサミは少し残念そうに言った。
「初雪だしね。積もらずにすぐ溶けちゃうんじゃないかな」
「雪が積もったら、その実験に加わってもいいかな?」
 アサミは遠慮がちに尋ねた。
「もちろん、発案者なんだもの」
 彼女はにこりと笑って答えた。
「今年の冬は楽しみが増えちゃったな」
 アサミも彼女の横で、こくりとうなずいた。雪に書けたなら大発見だ。書けなかったとしても、彼女の美しい文字が見られる。彼女の文字が美しく消えるところが見られる。彼女の文字は、既にアサミの中に深く刻まれているようだった。




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