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【UWC体験記⑮】Entrepreneurship(起業)CASー水引でビジネスを

CASとはIBで必須となっている課外活動のことで、AC(私の学校)ではCreativitiy, Activitiy, Serviceで1つずつ自分で選びそれぞれ週1-2時間の活動があります。

1年目の私のCreativitiyはその年に新しくできたEntrepreneurshipというものに入りました。選ぶ際に説明書きで「実際にビジネスをCASとしてやってみます」と書いてあり、起業に今まで興味がありながらも自分でやる勇気は無かった私はとても楽しみにしていました。

初回のセッション

ほとんどのCASにおいて、事前に決まっている生徒リーダーである2年生が仕切ります。9月のCAS初回の日は、自己紹介をしたあと、いきなりピッチの練習!

ホワイトボードにはすでに名詞が20個ほど書いてあります。その中で2つずつ本当に適当に組み合わせてそれをビジネスピッチする、というなかなか無茶なアクティビティです。私は「bridge」と「dance」の2つの単語を組み合わせた「bridge dance」をピッチすることに。

15分後順番に発表します。私は橋の上を2人が一緒に歩くと橋が揺れることでの恐怖を相手への好意だと勘違いする、という吊り橋効果を利用することにしました。危険でない程度に一番吊り橋効果を最大限にできるような「ダンス」を依頼することができるサービスを考えました。プロポーズなどをどうしても成功させたい人には需要があるのではないか、という我ながらなかなか良いアイデアだと思いました。

ただ、内容の問題ではなく、英語での説明ができない…とにかく、言いたいことが出てこない。吊り橋効果も「suspension bridge effect」だとは分かっても上手く説明が出来ず、そこがまず理解してもらえない。

起業に興味ある人ばかりのCASですから、他の人たちはただでさえみんなものすごくプレゼンが上手く、自分へのイライラばかりで終えました。

ビジネスアイデアピッチ大会

初回のようなピッチの練習を何回か行った後、今後の1年間どんな方針で行こうか、という話に。やはり、当初の予定通りみんなで何かのビジネスをやろう、とそれぞれがアイデアをピッチしてどんなビジネスをやるかを決めることになりました。

私は日本文化を商品化できないか、とアイデアを探し始めました。日本の食べものや文房具などは海外でも人気なのですがとても値段が高い。それを私たちが作れるもので材料費に相応の値段を付ければかなり差別化出来ると思ったのです。

私でもできるような工芸品はどうか、と思った時に頭に浮かんだのはイギリス渡航前に日本の友達がくれた手紙に入っていた水引でした。「これすごいかわいい!」と言った私に「最近水引よくやってるの」と言われ「これ作れるの?!」と驚いた会話が思い出されます。

ご祝儀袋のよくかかっている水引
あわじ結び

ただ水引を作って売るだけではどうにもできないので、何かこれでアクセサリーを作れないか調べてみると、どうやら日本では意外とあるらしい。日本のサイトでは自分で作る方法なども見つかったのですが、イギリスには全く無いようです。

そしてちょうどその頃、寮の友達とアクセサリーのファストファッションの環境ダメージについて話したばっかりでした。もしやと調べてみると、やはり水引は完全に紙であるため、ファストファッションで問題になっている金属の過多使用を防ぐことができる環境に優しい素材として少し注目されていることも発見。

これはいける!とピッチを行いました。

他のメンバーの反応は悪くなかったのですが、残念ながら、選ばれることにはなりませんでした。

選ばれたのは、食用コオロギのパウダーを使ってクッキー等に混ぜて売る、というものでした。食用昆虫というインパクトも強く、動物の肉を食べることの環境への悪影響が話題になっている中タンパク質摂取の代替案としても良い。みんなが一番その場で盛り上がった案で、まずはコオロギの入手先や市場のリサーチから始めることになりました。

食用コオロギ

コオロギビジネスの障害

11月半ばのCASでのこと。とある事情で2週間キャンパス外のホストファミリーの家に住んでいたという生徒が久しぶりに参加し、私たちに衝撃の事実を話します。

「ステイ先のおじさんに聞いたんだけど、今は食用昆虫の販売はイギリスでは禁止されているらしいよ」

どうやらBrexitの影響でまだイギリスは食用昆虫に関する規制を定めておらず、ひとまず今は禁止ということになっているそう。調べてもはっきりとした情報は出てこないのですが、これ以上進めても無駄になる可能性が高くなったので断念することになりました。

水引イヤリングー1からの挑戦

そして冬休みに入る直前に振り出しに戻り、ピッチ大会で出た他の案を探った結果、私の水引イヤリングのアイデアが選ばれることになります。

私はとてもやりたかったものではあったので嬉しく、率先して日本語を使ってリサーチを開始しました。

このプロジェクトは「紬(Tsumugi)」と名付けました。私の渡航の時に水引を入れてくれた友達がいたのも、水引には幸運を祈ったり、人と人をつなげる、という意味があるのです。

メンバーが描いてくれたロゴ

日本から材料調達

イギリスでも実は水引を売っているのでそこで入手しようと思ったのですが、日本のお店と値段を比べてびっくり。イギリスで買える水引は一本当たり約50円。それに比べ日本で買うと一本当たり5円~10円。

なのでイギリスでは買わず、冬休みに日本に帰国した友人の家に郵送して持ってきてもらうことにします。そしてもっと調べると、水引にも種類がたくさんあり、安い種類の水引は光沢が出すぎてしまったり曲げにくかったりとアクセサリー作成には向いてないとのこと。

「絹巻水引」という種類が向いていると分かり、クオリティが高そうで値段も安いお店を発見!予算を計算しながら色を選んで注文しました。

伊予水引の有高扇山堂(本当にクオリティ高かったです!)


そして別途イギリスのオンラインショップでイヤリングの金具部分も購入します。本当はここも金属を使わないといいのですが、直接肌に触れる部分のため安全面を考慮して妥協しました。

アクセサリーを全く付けずピアスホールさえ開いてなかった私はどんな小さなことでも1から調べなくてはいけなくとにかく時間がかかります。全て1人でやったここまでのプロセスにイギリスの友達の家にステイさせてもらった冬休みの丸々1週間費やしました。

試作品づくり

そして冬休み開け初日、学校に戻り水引を受け取りました。思っていた通りでとてもきれい!まだコロナ禍だったため、10日間の寮隔離が。この期間はオンライン授業以外は本当に暇なので、水引作りに取り組むことにしました。

水引を初めて手に取る

簡単なあわじ結びから始め、梅結びも。昔から折り紙や手芸に何度もハマった私にはこれ以上ない楽しみでした。

そしてYoutubeを見ながら初めてペンチを使いイヤリング金具を取り付けます。初めてできたイヤリングは自分の想像以上の出来栄えで思わずルームメイトたちに「これ見て!」と。みんな大絶賛してくれ、CASのメンバーに見せるのが待ちきれませんでした。

参考にさせていただいたYoutube動画↓


やる気なのは私だけ?

隔離明けの初めてのCAS。休み明けなのでしょうがないのですが、私の興奮とは対照的にだるい雰囲気が。しかも「今学期は何をするか話し合おう」というリーダーの言葉が。

え?水引やるって決めたよね??私が材料調達して試してみるってみんなで話し合って決めたよね??

しかし、CASの方針を一新したらどうか、という意見がぱらぱらと。なのでさすがに「私は水引やりたいと思う」と発言しました。

すると、「本当に意欲はあるのか」「そもそも良い商品ができるのか」という疑惑の声があがり、私がそれでも反論すると「実物を見ないとなんとも」といったかなり後ろ向きな返事が。

まさかの試作品を寮に忘れてきてしまったことに気付き、もはや涙目でルームメイトに電話して持ってきてもらいます。

いくつもの色のバージョンで作った2種類のイヤリングをテーブルに並べると空気は一変しました。

試作品として作ったイヤリング

「これめっちゃ良いじゃん!」「クオリティ高い!」

そして原価を聞かれるも、イヤリングの左右1セットで20円ほど。さらに感嘆の声が上がります。

ここまでのプロセスはほぼ全て私が1人でやったも同然なので、みんなからすると本当に起こるかどうかも分からなかったものが知らぬ間に販売直前まで進んでいる事態です。するとリーダーが、「これからはこのプロジェクトのリーダーとしてSaraがリードしていくべきだと思う」と言い、正式に責任が乗っかってきました。

「安すぎる」の何が悪いの?

その次のCASのセッションからリーダーとして、10人ほどいるチームの指揮を行わなければいけないのですが、製品がすでに出来ている状態では他の役割といっても大してなく、みんなでのディスカッションとしてイヤリングの値段設定について意見を聞いてみることにしました。

学校内が主な販売場所となること、そして利益は全額寄付をするつもりで儲けを出すことを主な目的としていなかったため、私は£1(約160円)か高くても£2で考えていたのですが、みんなからは「安すぎる!」と猛反対があがります。

「最低£3の価値があるよ」「いや、もっと高くてもいける」「£5でも売れると思うよ」

といった感じで、流れで行われてしまった投票では£5で売ろうという意見が一番多いという結果になりました。

本当のビジネスならば確かに妥当だと思います。そしてイギリスで水引イヤリングを売るという条件ではこれでもとても安いと思います。

ただ水引を、そして自分が作ったイヤリングをとても好きになっていた私にはもうその視点はありませんでした。この文化を多くの人に手に取ってほしい、そして海外文化だから、「この値段でも売れるだろう」という理由で高めの値段設定をする企業と似たような思考は絶対に入れたくない。

しかもファンドレイジングとして安い飲食が頻繁に売られているACにおいて、この値段設定はそれらと明らかに違う目で見られることになります。サステナブルファッションをより周知させるため、というような本当の価値がいくつもあるこの商品とお金儲けをつなげたくない。

この時感じた強い嫌悪感により、皮肉にもEntrepreneurshipというCASの中で「私はビジネスあまり向いてないかも?」と初めて思いました。

いくら私が反論しても「投票で決まったから」という一言で結局£5の決定は覆すことができませんでした。私がプロジェクトリーダーなのに。私が1人で何十時間も費やしたものなのに。これもビジネスの世界なのかな、となんとなく考えてしまいました。

その後のCASのセッションでは私がみんなに水引イヤリングの作り方を教えていたのですが、さすがに10人同時に水引を教えるのは不可能に近く、断念しました。なのでCASリーダーの判断でCASでは世界的起業家や大企業の成功要因を学ぶ、という方向に完全転換しました。

なのでCASとしての「紬」の活動は実質終わり、ほとんど私の1人でのプロジェクトとしてのみ続けることになりました。


販売開始!

ローンチは、その時期に迫っていた東アジアNational Eveningの前に行われるfood fairでスタンドを出させてもらえることになりました。このfood fairは東アジア各国の料理を作って販売し、売り上げをアジア人ヘイトの撲滅チャリティに寄付する、というものです。

ローンチの2週間ほど前から東アジアのnational group内で何人か制作を手伝ってくれる人を募集し、一緒に作ってくれることに。そしてCASのメンバーでもありいつも私をサポートしようとしてくれていた親友と一緒にポスターとデジタルフライヤーも作成。前日の夜ほぼ徹夜でプロモーションビデオも作りインスタのアカウントにアップ。

フライヤーの作成

事前にセットアップを行い、food fairの開始。案の定、food fairで売られる食べものはどれも小さなポーションで£1か£2のものばかり。£5のイヤリングはなかなかだれも気軽には買ってくれないものです。

セットアップ

それでも、買わないけども「すごいかわいい!]と言ってくれる人、フライヤーをちゃんと読んでくれる人、そして買ってくれる人も少しずつでてきます。

2時間のfood fairは終わり、最終的には売り上げは14個、£70と目標には届かないものの悪くはない結果になりました。そしてもちろん、売り上げ以上に私にとってはみんなの優しい反応だけで今までの苦労が完全に報われました。


カスタム販売へ

そしてその次の日から、オンラインの注文フォームを通してのカスタムオーダーを開始しました。水引の色を自分の好きなものにでき、梅結びと相生結びでも選べるようになりました。

全校へのメールで送ったため、先生方からのオーダーがあったり、今までは近づくのも怖かった2年生からのオーダーなど、今度は私の友達などは一切関係なく本当に純粋に商品が欲しい人が買ってくれているのを感じました。

せっかくなので折り紙で作った箱に入れ、その人の住んでいる寮の部屋まで届けに行き、イヤリングと交換でお金を受け取ります。その箱を開ける時がいつもドキドキ。この大金(値段は変えられないので、、、)に見合うと思われるかな、と不安が募るときです。

折り紙の箱でお届け

幸いなことに、全員が開けると笑顔になってくれて、ありがとう!と。あの瞬間の喜びは忘れられません。

そして次第に校舎内で水引イヤリングを付けている人を見かけるようになり、中には私を見ると「これ大好きなの!ありがとう!」と再び言ってくれたりする人も。プロモーションに使っていいよと写真を撮らせてくれる人なども出てきました。

相生結びのイヤリング
梅結びのイヤリング

卒業式も近づいてきたある日、日本人の男子の先輩の部屋で話していると、その部屋に住む私が仲良くしていたキュラソー出身の2年生が近づいてきて「まだあのイヤリングって買える?」と聞かれました。

もちろん!と答えると、「お母さんにプレゼントしたい」と。その人からは今までどれだけお母さんにサポートされてきたか、どれだけ感謝しているかをよく聞いていたのでプレゼントとして使ってもらえることに感動しました。

そして相生結びのイヤリングを渡すと「これお母さんにめっちゃ似合うと思う!ありがとう!」と言ってくれ、本当にやってきて良かったと思いました。


本当に得られたものとは

正直、このCASに入ろうと思った時の目的は達成できていません。ビジネスの仕組みにきちんと触れたわけでもないし、分業でのチームワークを体験できたわけでもないし、ビジネスで成功する方法が分かったわけでもない。

そして一時ですがリーダーになった身としても、かなり失格です。ほとんど仕事を回さず、多数の意見にも納得できず、やる気が無くなった人たちを引き戻す努力は一切せず1人で勝手に進める。

ですが、ではもう一回やるとして何か改善できるか、と言われるといくら自分の行動を変えられても他の人を変えることは難しかったと思うので、結局大まかな結果は似たものになったと思うのです。

そして、何よりも、私はこの1年間でとても大切なものを手に入れることが出来たと思います。

自分が一番喜びを感じられるのは、他者の喜びであるという認識。自分にとってはお金儲けのメンタルは(良い目的でも)嫌悪感が優位になってしまうという気付き。そして自分の文化が外見も内面もこんなに美しいものであるという誇り。

少々強引、もしくは自分よがりに見えるかもしれませんが、それでも私はこのCASから得られる最大限を得たと思っています。


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