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【UWC体験記⑱】ミニミュージアム「How to Become a Colonizer」制作(Project Week)

私が1年目のCASのServiceとして取ったのはNarrative for Social ChangeというChangemaker Courseの1つでした。過去から学び社会へのインパクトを作る、ということにフォーカスし、年度の最後のProject Weekで校内にポップアップミュージアムを作ることを最終目的とした1年生限定のCASです。

このChangemaker Courseとは、その他のServiceのCASとは少し異なり、社会貢献に役立つスキルを習得したり1つのプロジェクトにチームで取り組むようなものです。正式なIBの教科の1つとしてこのChangemaker Courseを通常科目の代わりに履修することをAC(私の学校)がIBの本部に提案している時期で、まだその試験期間として私たちはCASとして取れるようになっていました。

CAS開始ー授業を経てのミニプロジェクト

このCASにはきちんと担当の先生が付き、私たちは歴史の先生でした。1年間の流れを確認したあと、最初の数回のCASはその先生によるほぼ授業の形でいろんな過去を現在に保存している例を勉強します。

博物館だけでなく銅像や世界遺産など、現在も過去を垣間見ることを可能にするにはいろんな選択肢があります。歴史に全然詳しくない私にはかなり高度な内容ではあるのですが、その分かなり勉強にはなります。

そして1か月ほど経過してからお試しミニプロジェクトの開始。自分たちで「ACでのLGBTQの生徒たちの歴史」というテーマを決め、ドキュメンタリーという形にしようとリサーチ、取材、編集などに取り組みました。

完成したドキュメンタリーはこちら。

ドキュメンタリーの上映会を実施し、先生方を招待して見てもらいます。かなりのお褒めの言葉をいただき、とても自信になりました。

そしてこのドキュメンタリーを使って同じ時期にあったQueer Conferenceでワークショップも開きました。

そのワークショップについて詳しくはこちらから↓

ミュージアムの構想開始

冬休みも明け、3か月のProject Weekでセットアップするポップアップミュージアムの内容の準備を始めます。

まずはテーマ決めから。「お金について」「死刑制度」「ウェールズの歴史」など、色々なアイデアが出た中で「植民地支配」についてやることに決定しました。

ただ、これを単純に様々な年代からの植民地支配を集めただけでは面白くない。何か良いまとめ方が無いかと考えるうちに出てきた案が「植民地支配にいたるまでのステップ別に分けて、最終的なゴールまで観客を導いてはどうか」というものでした。

良さそう!とみんなが賛成し、ならばとタイトルは「How to Become a Colonizer(植民者になるには)」。おそらく日本人の感覚としては「植民者」という言葉は開拓者のようなイメージであまり悪い意味は無いと思うのですが、植民地支配により国民の多くが殺されたりといった歴史を持つ国からの生徒も多いUWCでの「colonizer」は議論の余地なく「悪」のイメージを持ちます。

なのでもちろん、このタイトルは皮肉をこめたダークユーモアです。生徒の中では家族が大きく影響を受けた人たちもいることからかなり慎重に意図しないメッセージが絶対に伝わらないようにしなければいけない、とCAS外では今の段階ではなるべく話さないようにしよう、ということになりました。

そしてミュージアム内の区切りとなる「植民者になるため」のステップを考え、それぞれのステップが最も明らかにされている過去の実例を探します。

以上の4つのステップ、そしてそれぞれ2つの合計8つのケーススタディを分担し、何をどのように展示するかを考えることになりました。

ステップ1 政治的権力を強固にする(イギリスのインド支配&中国のアフリカ支配)
ステップ2 文化の破壊(フランスのレバノン支配&日本の韓国支配)
ステップ3 文化の改変と差別的態度(イングランドのウェールズ支配&ネイティブアメリカン支配)
ステップ4 植民地の搾取(複数国のシエラレオネ支配&スペインの南アメリカ支配)

私は日本の韓国支配とネイティブアメリカン支配担当になりました。また、植民地支配の中でも典型的な武力での支配だけでなく、neocolonialism(新植民地主義)という経済や文化的圧力ではっきりとは見えにくい支配をする形もきちんと取り上げよう、ということも決まりました。


本物の博物館見学ー情報を立体的に!

いきなり博物館を作る、といってももちろんどうすればいいのかは分かりません。そしてやはり退屈しちゃうような文字と写真だけの博物館では無く、同級生たちをあっと言わせるような、思わず引き込まれるようなものを作りたい。

ミュージアムの準備開始から1か月ほどたったCASのセッションで先生が近くにあるSt Fagans National Museum of Historyに連れて行ってくれました。ウェールズ出身のCASメンバーからは小さい子たちが行く博物館と聞いていたのですが、いざ行ってみると大人にとってもとてもコンテンツの充実した博物館でした。

情報量が多くとても面白い内容であることはもちろん、その情報の展示の仕方が多様すぎる。ただの壁に文章が張ってあるだけのようなものはほぼなく、かなり多くの「実物」が置いてあったり、文字が浮き出ていたり、ビデオが多くあったりなど、本当ならば難しいウェールズの歴史についてなのに子どもも楽しめる理由がよくわかります。

St Fagans Museum

そしてもう1つの大きな特徴は、参加型の展示がとても多いこと。「この時の政府の決断は正しいと思いますか?」「鉱山事業は残されるべきだったと思いますか?」など、歴史の大きなターニングポイントになったところで問いが投げかけられており、来客が意見を付箋に書いて貼ったり、投票ができるようになっています。

来客が自由に意見を書ける
投票ボックス

学校に戻ってから私たちで話し合い、面白いミュージアムを作るためのポイントは「いかに情報を立体的にするか」だとまとまりました。平面の文章ではどうしても人間興味が持ちにくいところ、少し工夫を加えて立体感を出したり、参加できるようなものを入れることで一気に入り込める、という大きな学びを得ました。

その後もACの生徒の親の知り合いで実際の博物館の学芸員(キュレーター)をやっている方にアドバイスをもらったりと色んなアイデアは得ていくのですが、さすがにそんなにスムーズに準備は進みません。

完成させるのが少し先であるということ、そしてProject Weekの前には実際のセットアップが出来ず立体的なイメージが出ないため、普段のCASはかなり間延びしてきます。「リサーチ」という名のもと実質ただのダラダラの回も何回もあり、気が付くとProject Week直前まで来ていました。

Project Weekー4日間の挑戦

Project Weekとは、4日間授業無しで1つのことに取り組む期間のことで、自分でやりたいことがある生徒や先生は1月の時点で応募し、その他の生徒がその中から1つ選んで参加します。4日間船で旅をしたり、ボートを作ったり、サーカス体験をしたり(私の2年目)、難民キャンプを訪れたり、山登りをしたり、など色んなものがあるのですが私たちはこのCASに入った時点でProject Weekは決まっていました。

1日目

1年間ずっと会ってきたメンバーなのでアイスブレークや導入などをすっ飛ばして即開始します。
いつもは生徒イベントでよく使われるホールが空き、やっとセットアップが開始できます。展示に使うボードの数を数え、広さの感覚を掴み、まずは全体のルートなどを考えてボードの配置位置のプランを立てます。そして午後にやっとボードの移動が終わりました。

ボードの配置プランを考える
設置プラン

まだあと3日もあるし、かなり1日で進んだ気でいましたがあとからそれは間違っていたと思い知ることになります。

2日目

まだボードを動かしただけの状態。今度は何かボードに載せていかないと、となるのですがどうやって載せるかはまだ誰も考えていませんでした。

すると今までも全体のボードなど考えてくれていたデザインが得意のメンバーが全員分のボードのデザインを考えてくれることに。しかもどのデザインもとても独創的で面白い!本当に私たちの神だと思いました。

ボードデザイン

ただ、もちろんその内容はそれぞれが自分の担当の部分で考えなければいけません。今までの数か月をリサーチに費やしたはずですが、これだけしかやってなかったの?と自分に驚くことになります。

結局その日は教室でのリサーチに費やし、ほとんど誰もボードに手を付けることはありませんでした。

3日目

明日完成しないといけないことに気付き、みなさすがに焦ってきます。しかも私は同じCASにいた親友に誘われ、イスラム教の断食にこの日挑戦することに。朝は3時半に起きて日の出前の食事を食べ、日が出ている間は一切食べることも水を飲むことも出来ません。

リサーチはほぼ終わっていたのですが、まずここでみんなで文字のフォントやスタイルを統一し、レイアウトを各自行います。そして午前中の最後にやっとプリントアウトをすることが出来ました。

断食に挑戦していた思わぬメリットとして、昼休み中も食べずに続けられるということがあり、一切中断せず作業を続けます。日本の旭日旗を赤い画用紙でボードの上に再現することになり、思ったよりも時間がかかりますがなんとか日本の展示はほぼ終えて1日を終えました。

完成した日本ボード

完全に私たちだけで考えて全て進めていくので担当教員が何をしているかというと、よく言えば安全管理と見守りですが、実質大量のプリントアウトに伴う印刷機からの往復と、学校の備品を探してくることなど、完全に雑用係です。

3日目終了の時点で黒い画用紙が足りなくなってしまい、息子さんのサッカーに送りに行くため一足早く帰った先生に画用紙の買い出しをお願いすることができ、それは本当に助かりました(笑)。

4日目

すぐに最終日が来てしまいました。私は朝6時半から自分の担当部分の作業を始めます。時間も無いけどここまで来るとみんなクオリティで一切妥協したくなく、しんどくなってきます。

なのでメンバーの誰かが持ってきたスピーカーでパーティー系音楽をガンガンにかけて無理やり盛り上げながらみんなで作業を続けます。

私はネイティブアメリカンの展示で伝統的な模様を画用紙に表現したく、なぜか白い模様を描くのではなく切り絵でやることに。当たり前なのですが死ぬほど時間がかかります。この日の終了予定は4時半だったところ、もちろん昼休憩はこの日も無しで2時半までを模様作りに費やすことに。

切り絵の模様づくり

そしてそのほかの内容を貼り、一応私の担当箇所は完成となりました。しかし全体としては全然終わっていないので、他の人の箇所を手伝ったり、装飾を行います。その次の日から春休みだったのでその日中にフライトがある人などが抜けていくのですが、最後まで一番頑張っていた5人ほどが残り午後6時に終了します。

完全に終わってはいなかったのですが、ミュージアムの公開は春休み後と決めていたのでもう今はこれで終わろう!と。

4日間、おそらく私たちほどのストレス下で私たちほど頭を酷使続けたProject Weekのグループは他には無いでしょう。ただこれほど1分1秒を濃密に使い続け、グループの中の絆が深まったProject Weekも他に無いと思います。

あの時の7人のメンバーとは2年生になってもよく笑いを入れてあの4日間の話をしましたし、「2度とやりたくないけど」という前置きがあった上で最終的には「私たちほど頑張ったProject Weekは他に無いよね。すごいよね私たち」という良き思い出になっています。

グランドオープン!

そして春休み後の月曜日、ミュージアムの確認をすると私が作ったネイティブアメリカンの模様が半分ぐらい取れている…!慌てて直し、全体でも残っていたところを完成させます。

ポスター

というのも、この日の午後にグランドオープンとしてのイベントを企画しており、生徒と教員を招待していました。なんとか間に合わせ、シャンパングラスに入れたオレンジジュースも用意して開始します。

オレンジジュースでもてなす

校長を始め、何人もの先生方が来てくださった上に生徒もチラホラと。私たちからこのミュージアムの簡単な説明、私たちが経てきた過程を話し、正式にオープン!

オープン!
ステップ2 文化の破壊 
立体的な展示も

工夫の凝らしたデザイン、参加型の展示、BGMの役割を兼ねたまとめビデオなど、今まで習得して来たことを可能な限り取り入れたミュージアム。とにかく大好評でした。

ステップ4 植民地の搾取
ウェールズの炭鉱ストライキについて
意見ボード「あなたの植民地支配の定義は?」
投票ボックス「植民地支配は必ず悪?」

そのまま1週間ミュージアムはそのままにしたのですが、生徒はもちろん、先生方からの絶賛には驚くほどでした。私たちの担当教員ではない別の歴史の先生から「ぜひ授業で使わせてほしい」と言われ、実際に授業時間内で生徒たちにじっくりと見学させて話し合ったそうです。

Neocolonialismであっても植民地支配であることには変わりない
ルートの最後にはcoloniserとして王座に座り、冠を被って地球を手玉に取る
王座からは植民地支配によって苦しむ多くの人に見つめられる

他の先生方からもメールで「植民地支配がどれほど植民地を破壊してしまうのかをきちんと伝えられている上で色んな視点を見せてとても考えさせられた」といった感謝の言葉も頂くことも。

びっくりしたのは、見に来てくれた学校の広報部の方から連絡があり、「ぜひメディアでも取り上げてもらいたい」とプレスリリースをすぐに書いてもらえたことです。自分たちよがりのものではなく、大人の目からも本当に良いものを作れたんだな、ととても嬉しかったです。

このミュージアム、そしてCASは1週間後の撤収作業をもって終了となりましたが、今でも博物館に行くとどうしてもキュレーター目線でどのように展示しているかに注目して見てしまいます。

卒業式後、2週間ロンドン観光をし、メジャーな美術館や博物館をたくさん回ったのですが、私の中で本当にすごい!と魅了されたのはImperial War Museum。

入場料無料なのに空間の使い方、展示の仕方がものすごく工夫されていて雰囲気作りも上手く、これを参考にまたミュージアム作りがしたくなりました(笑)。


日本人としての学び

もう1つ大きな収穫は日本人として自分の国が犯したことに初めてじっくりと触れる機会になったこと。日本にいて、日本の教科書から学んでいるとまさか日本が大罪国であるとは思いもしなかったのですが、世界ではごく普通の認識です。今回私が取り上げた韓国だけでなく、数多くの国に侵略し、大量の殺人を行い、搾取を繰り返した過去は取り消せません。

日本についてのリサーチの際、より多くの情報を得られる気がして日本語で検索すると、逆にほぼ一切植民地支配中の日本の行動は見つからないのです。韓国語などの支配された国の言語を使う訳でもなく、世界の共通語である英語で検索すると出てくる数々の日本の罪。

日本語だけで日本という島の中に一生居続けるのであるならば、確かに目を背け続けて一生を幸せに終えられるかもしれません。でもグローバル化の恩恵を受けたいとビジネスでも教育でもどんどん外向きになる今、日本の負の歴史こそ、もう避けてはいけない時代が来ていると思います。



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