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N2-パリ郊外外国人労働者寮で食べる西アフリカ料理

私は、西アフリカ料理が好きだ。西アフリカ料理は日本人の口にとても合う気がする。米と野菜と魚または肉が入った炊き込みご飯チェブ (魚だとチェブジェン、肉だとチェブヤムと名前が変わる)、オクラと肉と乾燥魚が入ったシチューを白米にかけて食べるソースゴンボなど、日本人に馴染みのある食材を使っているからだろう。

フランスには西アフリカからの移民がたくさんいるが、それはフランスの植民地の歴史に関係している。(植民地の話は堅苦しいのでまた今度。)

フランスでは西アフリカ料理は元々あまりメジャーな料理ではなかったが、ここ最近移民二世、三世達が「西アフリカ料理をおしゃれに食べられるように」と、オシャレな西アフリカ料理を出すレストランがパリに増えてきた。
最近、モリ・サコというシェフが西アフリカ料理と日本料理をミックスさせた料理を出すレストランを開いてミシュラン一つ星を獲得している。

が、今回は、そんなオシャレな西アフリカ料理ではなく、労働者としてフランスに来た人たちが食べている「普通」の料理を紹介したい。

パリのすぐ西側にある街、モントリュイ (Montreuil) はフランスのバマコ(マリの首都)と呼ばれるほどマリ人がたくさんいる。それはフランス初の外国人労働者を受け入れる独身寮が出来たのがこのモントリュイという街なことに関係している。
この街の市長は代々フランス共産党から当選している。なのでこの街は様々な分野での支援がある。それもこの街が外国人労働者が受け入れやすい環境を作っている一つだ。

私の働くNGOもこのモントリュイにあり、近くにある外国人労働者寮にあるちょっと怪しい食堂で時々昼ごはんを食べる。

紹介したい一つ目の寮は建物は1960年代に建てられた独身寮。入り口では年老いたアフリカ人達がお茶を飲んでいたりする。アフリカを旅したことがある人ならわかると思うが、まさにここはパリ郊外のアフリカなのだ。

中に入ると、10人ほどの女性たちがプラスチックの皿に料理を盛っている。その前に並ぶ20人近くの人たち。そして、1人の男性が大きなヨーグルトの容器をレジ代わりに現金を受け取っている。もちろん現金のみ、レシートはない。
一皿2.5€(現在のレート日本円で400円ほど)とかなり安い。
フランス語はほとんど聞こえてこない。聞こえてくるのはバンバラ語や、ソニンケ語といった西アフリカで話されている言葉ばかりだ。

上から、チェブヤム
真ん中は、足の脚の煮込み
ボウルは、オクラシチューに白米

私の働くNGOで保護されている青年達のほとんどが西アフリカ出身者であり、ここの寮のことを「Foyer (フォアイエ)」と呼び食堂として使っている。

が、ここは衛生管理があまりなっていなくて、時々食中毒を起こしたりしている。

二つ目の寮は、最近新しく見つけた穴場と呼んでもいいだろう。一つ目の寮と圧倒的に違うのは、この二つ目の寮がマリ人コミュニティがモントリュイ市長に直接志願書を出して建てられたものだということ、そして独身寮ではなくワンルーム以外にも2LDKや3LDKのアパートもあることだ。
数年前に建てられたのでまだ新しく綺麗だ。

そして、この寮の目玉は、一階にあるレストランだ。難民認定者や労働から離れてしまっていた人たちを積極的に雇っているレストランで、安く美味しいものが食べられると評判、だそうだ。
先月新しくやってきた上司からこのレストランの話を聞いて行ってみたのだが、なんと閉まっていた。
せっかく来たのに、とレストランの前をウロウロしていたら、知らないおじいさんに「どうしたの?」と話しかけられた。私はチェブジェン(炊き込みご飯)を食べに来た、レストランはやってないの?と聞くと、なんと「あーレストランね、経営難で先週潰れたよ」と返ってきたのだ。
私は普段お弁当を持ってきているが、この日はレストランに行こうと思って食べるものが無い。せっかくの昼休み、トボトボ帰るわけにもいかないのでおじいさんに、どこか食べれられるところはないかと聞いた。
すると、おじいさんが「この寮の3階に若者たちが料理を毎日作っているけど来るか?」と。
もちろん、行くことにした。

寮の中にあるエレベーターに乗り3階に着くと、米が入ったタッパーを持った若者にすれ違った。これは当たりだな、そう思いながらおじいさんの後ろをついて歩いた。

キッチンに入ると大きな鍋がいくつも並んでいた。3人の青年が料理をしていた。私を見てびっくりした様子だ。(そもそもアフリカ人以外誰も行かないようなところにアジア人、しかも女が来たらびっくりもされるであろう)おじいさんがバンバラ語で私を見ながら何か説明している。最初持ち帰ろうとも思ったが、アルミホイルしかないと言われ、その場で食べることにした。

大きな鍋が並ぶキッチン

メインメニューは二品、チェブジェンとマフェシチュー(ピーナツバターの煮込み)。あとはティラピアと鶏もものの唐揚げ、プランタンバナナを揚げたアロコがあるのみ。
みんなからシェフと呼ばれている青年に、マフェシチューを頼む。ここも一皿2.5€(日本円にして400円ほど)と破格だ。

キッチンの中にあるテーブルに座って注文を待っていると、次々といろんな人がタッパーや鍋を持ってやってくる。ここはその場で食べるというより持ち帰り専門だということがわかる。
ここももちろん、支払いは現金のみ。

そんなことを観察しているとすぐに料理が運ばれてきた。

マフェシチュー

西アフリカ料理は脂っこいことが多いのだが、ここの料理はあっさりしていた。美味しいよ、とシェフに言うと恥ずかしがりながら、ありがとうと返ってきた。
お金を払い、今度はタッパーを持ってくるよと言ってその場を後にした。

なかなかディープな昼休みだったな、と思いながらエレベーターに乗り下に降りると、行きには気づかなかったが小さな出店が出ていた。
西アフリカのスイーツ、デゲ(国によってはチャクリとも呼ぶ)が売っていた。
デゲは、飲むヨーグルトにミルという穀物が入ったもので、レシピによってはレーズンが入っていたりする。
食べ物と飲み物の間のようなデザートで、ペットボトルに入れて売っていることが多い。

デゲ(チャクリ)

寮の入り口に、案内してくれたおじいさんが座ってコーヒーを飲んでいたので、案内してくれてありがとう、また来ますと言った。おじいさんはニコッと笑い、またねあんたの顔は覚えたよ、と答えた。


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