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【終了しました】夏ピリカグランプリ2022、受賞者発表!

こんにちは!前回にも増して大盛況でした、「夏ピリカグランプリ2022」。
合計138作品の応募をいただきました。

冬と違い夏の開催は祝日もなく、しかも月末が締め切りということで、とてもお忙しい中の執筆になられたのではと想像いたします。本当にありがとうございます!

技術的にもすばらしい作品が多く、創作ジャンルも多種多様なひろがりを見せてくれた今回のテーマ、「かがみ」。

審査員も、ぎりぎりまで悩みました。

138通りの鋭利さ、不思議さ、温かさ。そして、妖しさと美しさ、残酷さのドラマがそこにありました。

ほんとに選考は難しかった。

でも、真剣に考えて考えて、決めました。

さっそく、発表いたします!!

■審査員個人賞
(9作・審査員五十音順)

👑染葉ゆか賞
刺したのは私/律子さん

ミステリー作品でも大人気の、いわゆる「どんでん返し」な物語。

読み手側からすれば、蒔かれる種を探すのも、その伏線が回収されていくのを感じるのもとても楽しいものですが、それを上手に表現しようと書き手側に立ってみると、なかなか一筋縄にはいかないものです。

特に、今回のように1,200字という短い文字数の中でそれを上手に表現するには、かなりの工夫が必要なように思います。

この作品を読んだとき、思わず「うまい…!」と言葉がこぼれてきました。

幅の狭い通路。後ろから後をつけてくる誰か。そこに良いスパイスとなってくるのが今回のお題でもある「鏡」の存在。

鏡を中心に展開されていくストーリーではないというのに、この物語には無くてはならない鏡の存在感。「防犯用ミラー」という着眼点に唸ってしまったのはもちろんですが、鏡を上手く取り入れたその世界観にぐっと惹き込まれてしまいました。

ちょっぴり怖くて、それでいて少し心がふわっとするような不思議な魅力溢れる物語の世界を皆さまにもぜひ楽しんで頂きたいです。素敵な作品を読ませていただき、ありがとうございました!

👑あめしき@02文庫賞
ルージュの伝言/とき子さん

 軽快なリズムで流れていた音楽が突然、止まる。世界から音が消えて静寂が満たす。LEDだから聞こえるはずのない、洗面のライトが発する音が煩いほど。

 文字の羅列である小説を読みながら、そんな感覚を味わった。
 それほど鮮やかに、「ルージュの伝言」は前半で作った空気をひっくり返してみせた。

 今回の夏ピリカグランプリは1200字のショートショート。なかなか起承転結を作ることが難しい文字数だ。面白そうな設定の物語が設定を説明するだけで終わったり、状況描写が足りずに情景が伝わらなかったり、物語が上手く展開せずに終わる作品もあったように思う。
 そのような中、本作は短い中に小説としての「展開の面白さ」が詰まっていた。

 小説の序盤は、「私」とその親友ウタの会話。
 内容はウタが彼氏と別れたという話で、決して明るいものではない。だがテンポの良い会話、繰り返し描かれるウタの笑顔、そして多くの人が知っているであろう「ルージュの伝言」の曲調も相まって、軽快な物語として進む。
 少ない文字数で雰囲気を作るのに、有名曲を題材に使ったことも効果的だった。ポップな青春小説を読んでいるような空気を、1000文字足らずでしっかりと作っていた。

 その上で、だ。
 後半のたった347文字で、空気ごとひっくり返した。
 物語を展開させるだけでも難しい文字数の中で、その作品が持つ空気すら変えることができるなんて。凄いと思ったし、何よりも面白かった。

 また、お題の消化という点でも素晴らしかった。やはりお題がある小説である以上、その作品の面白さの中心にお題が絡んでいることが、個人的には必要だと思う。その点でも、この作品は「鏡」が無ければ成り立たない展開に仕上げていた。

 面白い小説をありがとうございました。

👑geek賞
暮れ鏡/兄弟航路さん

これは手鏡を通じて家族のつながりを描いたものがたりである。

 母は、名家にあって古式ゆかしい妻としての立場を全うしてきたが、その夫である「僕」の父は、愛人の家で死んだ。
 父の死後、変わらず誇りを持って過ごす母は、身体が不自由になっても全く自律した個人であった。その母が父の墓参りをするという。これまでも母は墓参を重ねてきたのか、と思い至った「僕」は介助者として付き添うのだった。

 墓参りの道中、気を遣って父の話題は出さなかったのだが、目的地で母を車椅子に乗せた「僕」は、この言葉を聞く。

「その袋の中に鏡があるの。取って頂戴」

 ものがたりの構成として、ここで母は古式ゆかしい妻として自分の姿を確認し、夫の墓参りを淡々と済ませることで、どこまでも自律した意志の強い人だった、と終えることもできた。
 あるいは、手鏡を持ち出さず暗喩的に登場するカーブミラーを使えば「暮れ鏡」という題名に沿ったものがたりは成立し得る。

 書き手の選択は、そのいずれでもない。
 最後に「僕」の目線を加えたのである。

 母の言葉を聞いた「僕」は、その身繕いに初めて気づく。今日の母は、自律した日常の延長にいるのではなく、父に会うため念入りに準備をした姿なのだ。ここで、母へ思い入れのある「僕」から出た

「お母さん、今日は一段と奇麗だね」

という言葉は、思わず "口をついて出てしまった" ものだろう。「お母さん…」と出たら、その後を続けざるを得ない。それも、父親に似た癖のある早口の喋り方で。

母はちらりと僕を見て、恥ずかしそうに笑った。

 母は、父の特徴を最も受継いだ「僕」に、若き日の夫を見た。
 その母の反応を見た「僕」は、自分が父に似ていることを初めて肯定できたのではないか。恥ずかしそうに笑った母をみて「僕」も同じように笑ったに違いない。その表情は父そのものだっただろう。三人はものがたりのさいごで、手鏡を通じ家族としてつながったのだ。

 丁寧に積上げた母のイメージと最後の一文との対比が、読み手に強い印象を残す作品である。手鏡は、この場面を見事に演出した。

👑さわきゆり賞
オッサン/めーさん

まずは、いち読者として、めちゃめちゃ笑って読みました。

主人公が「小和田さんのミドリガメ」に似ているって!
しかもオッサン選手権、5部門もあるのに、
(さわき的には「哀愁部門」がツボでしたわ)
主人公はオッサンの天敵とされる「加齢臭部門」を極めようとしてるんですもの。
加齢臭って、操れるのかぁ。

第74回オッサン選手権(歴史あるコンテストなのね)で、見事グランプリに輝いた小和田さんと、準グランプリを獲得した主人公。
このふたりが、バスで日帰り旅行に行くなんて、どんなカホリを放ち どんな旅路になるのかと、わくわくしながら読み進めました。
オッサンを象徴する仕草で主人公を待っていた、小和田さんの胸ポケットには、彼には欠かせない、大切なアイテムが納められています。

そして、旅はまさかの急展開!
ピンチに陥った小和田さんは、キング・オブ・オッサンにふさわしい、究極の金言を放ちます。
嗚呼、小和田さん、あなた以上のオッサンを私は存じ上げませぬ。

読み終えた後、私は書き手として、ふと思ったんです。
「このお話、けたけた笑いながら読んだけど、書くのは超絶難しいぞ……」って。

◇◆◇

コメディって、すっっっっっごく難しいジャンルだと思います。
もともと、人を笑わせるって、技術が必要なこと。
落語家や漫才師、コメディアンなど、お笑い専門の技術職があるくらい、難しいんですよね。

そして、小説には、声色も仕草も、何もありません。
使えるものは、文字のみ。
構成力、展開力、文章力、個性、それ以外の何か……いろいろなものが備わっていないと、小説で読み手を笑わせることはできません。

めーさん、本当におもしろかった!
この「おもしろかった」に、めーさんの持っている「いろいろなもの」が、ぎゅっと凝縮されていました。
しかも、1,200字以内という、これまたとても難しい枠の中で。
素晴らしいな、と心から思います。

また、今回のピリカグランプリには「かがみ」という、欠かせないお題がありました。
姿を映す鏡、お手本とする鑑、ふたつの解釈があることば。
「オッサン」には、この両方が溶け込んでいます。
まさに、お題がある小説コンテストの「かがみ」ですね。

これほどおもしろい作品について、私が講評で長きを語るのは、無粋というもの。
この物語に、このヘッダー画像を選んだセンスが心底うらやましいぞ、ということだけ、最後に付け加えさせていただきますね。
では皆様、めーさんワールド、オッサンワールドで、どうぞ大笑いしてくださいませ!

👑紫乃賞
ちがうふたり、/吉田さん

2022年6月30日23:30、身が引き締まる。
締め切り間近に応募くださる方は、意外と多い。
そして、タイムリミット12分前。

「夏ピリカ」に、濡羽色ぬればいろの鳥が一羽、颯爽と舞い降りた。

    ・・・・・

「とりさんだ!」

見上げ、思わず叫んだ。
一羽のからすが、とっても優しそうだったから。
そうしたら、わたしに気がついてくれたの。

「おげんきですか」

嬉しくなって挨拶したわ。礼儀は大切でしょ?
絶対に伝わると思ったの。
そしたらね、羽根を広げてくれたの。

「おおきい!!」

わたしも負けたくなくて、真似したわ。
見て見て!からすさん!私だってできるわよ!

大きな音。
世界が回って、お尻が痛い。
痛いよお、怖いよお。
「かあ、かあ」
「かあ、かあ、かあ」
からすさんたちの鳴き声が聞こえた。あれ?

「ねぇ。おしゃべりしてたの?」

からすさんが、近くに来てくれた。
だから、黒ダイヤのような瞳を覗き込んでみたの。
そしたら、からすさんたら、目をそらして、そしてポッケから飛び出た小箱を突いた。

「これ……たからものなんだ」

わたしの鏡、ちょっぴり割れちゃった。
今度は、その鏡を覗き込む。
半分、わたし、半分、からすさん。
ふふふっ、楽しいね!

「まもってくれたんだね」

ありがとう、からすさん。
ねえ、もっと遊ばない?
わたしと一緒に帰ろうよ!

え?行っちゃうの?
ねえ、またいつか逢える?

    ・・・・・

1200文字という世界に向き合えば向き合うほど、書き手は、その難しさを思い知らされる。
「自分が伝えたいこと」と「文字数」との戦い。
成功させるのに肝心なのは、お題を意識した念入りなプロットの練り込みと、その構成だと私は思う。

「とりさんだ!」

少女の短い叫びの導入は見事。読者をぐっと引き寄せる。
そして物語は、その後も、主として、少女の一言と、鴉の独白、の繰り返しで進んでいく。

途中の鴉同士の会話、大詰めの鴉の心の大きなうねり、ともにその表現力・構成力は圧巻。

そして、少女が大切にしていたのが「鏡」。
その鏡にひびが入り、その破れ目の左右に映る鴉と少女との対比。
そこからの、

鏡に映る自分が人間だったら。
鏡に映るお前が鴉だったら。

この熱い想い。
お題「鏡」の取り込み方もまた、オリジナリティに溢れ、持つ力は十二分である。

タイトル「ちがうふたり、」の読点「、」が含む、鴉と少女の今後を想像させる余韻。
そして、

あぁ、きっとこれが。愛おしいってやつなんだな。

この結びの言霊に、私は涙した。

吉田さん、素晴らしい1197文字をありがとうございました。
これからも、魂を込めた文章で羽ばたいていただきたいと、私は切に願います。

👑つる・るるる賞
鏡の国の父/ぱんだごろごろさん

幽霊に出会うシチュエーションといえば、自宅か廃墟か学校かと思っていた。
そっか、職場に出ることもあるよね、仕事中に出てしまったらどうするんだろう。
しかも現れたのが自分の父親だったら……。

ぱんだごろごろさんの『鏡の国の父』は、百貨店で働く郁美のもとに亡くなった父が現れる話。
郁美はリーダーの佐原に事情を説明し、
「はい、鏡がありますから。となりの紳士服売場の鏡を動かせば、何とかなります」
と合わせ鏡を作って父を鏡の中へと送り返す。

合わせ鏡を通って来るって、なんだか天国からふぁ~っと降りてくるよりも「郁美に会いに行くぞ!」って足取りが感じられていいなぁ。
職場に来てしまうのはたしかに郁美にとってはちょっと迷惑かもしれないけれど……。

それにしても父を帰らせようとする郁美の話を聞く佐原の冷静さも、いかにも百貨店のベテラン店員って感じ。

「三上さん、あなた、さっき、鏡を動かすとか言っていたけれど、それってどうすることなの」
「それで、お父様は、無事にお帰りになったの」

郁美の突拍子もない言葉をそのまま受け止めてくれて、いい上司だなぁ。
これならお父さんも安心して遊びに来れるね(仕事中にくるのはやめてほしいけど)。

父想いで誠実な郁美と、娘を見守る父と、頼もしいリーダー佐原。
登場人物みんながやさしくて、あたたかな気持ちになる。


「死してなお娘に会いに来る、ちょっと疎ましいけれど優しいお父さん」
郁美視点でほほえましく読んでいた物語は、後半で佐原の視点に切り替わる。
すると、それまで見ていた世界がぐらりと揺れる。

自分の近しい人が亡くなった人。
身近な人を亡くした人と、仕事をする人。
郁美と同じ境遇だったら、佐原と同じ状況に置かれたら。
深く深く自分の中に潜り込んでいきたくなるような余韻を残して、物語は終わる。
ここから二人はどうするんだろう、どうなるんだろう。
一歩間違えば、郁美まで合わせ鏡の向こう側に行ってしまいそうな危うさすら感じるんですけど……。

「二人は、きらきらしい売り場の、至る所にある、鏡を見つめた」

最後の一文で描写される売り場の明るさが、最初とは全然違った風景に見えてきて、鏡の眩しさに泣きそうになった。

👑猫田雲丹賞
鏡の国の亜里沙/枝折さん

全138作品の中でもっとも展開に
惹きつけられたのが「鏡の国の亜里沙」です。

「幼い時から彼女を見守ってきたからか、私は彼女が愛おしくて仕方がない」

冒頭、現実世界に住む自身への
深い愛情を語る亜里沙。
鏡の国からの無償の愛が紡がれると思いきや
物語を読み進める内、読者は徐々に
違和感を覚えます。

あくまで愛の物語なのに、
その愛は狂気を孕んでいるのです。
四肢の端から身体の芯まで
徐々に浸食されていく、
そんな不気味さがとても心地良い。

短い文字数にも関わらず淀みの無い展開が
じわっと滲む狂気を引き立て、魅了されます。

「鏡」と「異世界」
ありがちとも言える組み合わせにここまで
引き込まれるのは、確かな文章力と構成力の証。

作者の卓越した力量には感服するあまりです。

また、結末はSNSに囚われる
現代人のメタファーとも読み取れます。

現実世界の亜里沙は果たして
幸せなのでしょうか。
読者は自分に置き換えて考えずにいられません。

夏にぴったりな作品でした。

👑ピリカ賞
太陽と月のエチュード/樹立夏さん

なんて美しい作品だろう、と私は、まず文章の美しさに心を捕らわれた。

今回の138作品のなかでは、強いインパクトを残すタイプの作品ではないかもしれない。

大胆なストーリー展開や洒脱な会話、刺激的な作品は他に山ほどあった。
だが私は、審査中一度もこの作品から目が離せなかったのだ。

心を閉ざしピアノを弾くハル。彼女のテクニックは超絶であるが、その音色には感情が入っていない。

ハルが弾くのはベートーヴェンの「月光」第三章。
ピアノ曲には詳しくない私でも知っている、難易度の高い曲。この選曲にもハルの心の闇が感じられる。

ガチガチにテクニックで固め、一瞬たりとも感情を洩らさないような弾き方をするハルに、律は言う。

「同じ月でもさ、俺、こっちのほうが好き」

律がドビュッシーの「月の光」を弾く、この場面がとても好きだ。
否定はせず、別の選択肢をそっと差し出す律の人間的な大きさを感じさせる場面だ。

心が闇の中にあるとき、私も多弁になる。人に隙を見せないためにテクニックに走り、理論武装してしまう。
音楽も、人とのコミュニケーションも根っこは同じなのかもしれない。

エチュードとは、練習曲を意味する。

そう、このふたりにとって、今はまだ手合わせの過程なのだ。

割れた鏡に自分を映し続けていたハルが、まっすぐに自分を見れるようになる日も近いだろうか。


いま、リストの「愛の夢」を聴きながらこの文章を書いている。

私は吹奏楽をやっていたが、ピアノの世界は無知である。
そんな私が書く講評が、果たして樹さんを讃える文章としてふさわしいのかはわからない。
だが、この作品に心を揺さぶられた一人の読者の感想として素直に書かせていただいた。

太陽の光の下、ハルが奏でる「愛の夢」を待ち望んで、この文章の結びとしたい。

👑Marmalade賞
化粧/ひよこ初心者さん

まず最初に書かせていただきたいことがあります。今回、琴線に触れた作品を選びたい、とお伝えしていました。みなさんの作品を読み進めながら、どれも素晴らしい作品で、心が震えることがこんなにあるのかと驚いたほどです。読ませていただいて、本当にどうもありがとうございました。

個人賞は、これに加えて、瑞々しい作品を選ばせていただきたいと思っておりました。このひよこ初心者さんの作品は、その視点で選ばせていただきました。

三面鏡を開いた主人公が出会うのは、そばかす、というコンプレックスに囚われている自分自身。それをかき消すために、母親の化粧道具に手を伸ばす彼女に母親が投げかけたのは


「ひどい顔」

 背後からの声に思わず肩が跳ねる。

 眉間に皺を寄せた母が、部屋の電気を煌々とつけた。化粧落としと洗顔を私の手にねじ込む。

「顔、洗ってきなさい」

こんな冷やっとする言葉でした。
果たしてどうなることやらと読んでいるほうは戦々恐々です。母娘の軋みが何気なく描かれていく中で、思いがけずも母親の差し伸べた手は娘への手でもあり、同じ女同士としてのものでもありました。作者、ひよこ初心者さんは、二人の関係を通して、ほんの僅かな間に変化のきざしを描きだします。

誰しも大なり小なりコンプレックスを抱えています。複雑な構成ではなく、どちらかといえば、日常の一場面を切り取った作品は、現実のものであり、誰かのものであり、私のものである。なにより、1200文字という制限の中で、一文字一文字を効果的に使って細やかに描かれていました。一作を通して、日常のひとかけらを希望にかえていくその作者の瞳からみずみずしさが生まれてくるような思いでした。

ひよこと初心者というダブルでぴよぴよマークの筆名でありながら、十分な筆力を魅せてくれて、頼もしく感じました。これからもますます伸びやかに書き続けてくださいますように。

ところで、そばかすとほくろに悩んでいる方って多いと思います。私の身近にもいます。けれど、このふたつって、欧米では個性的で魅力的でセクシーなんですって。だから、治療で消しちゃうなんてもったいない!と聞いたことがあります。さらに、私の知っている方で、ずっとお化粧で隠してきたそばかすを、小さな息子さんに「ママかわいいのにどうして隠しちゃうの?」といわれてメイクしなくなったという方も。あなたが「ダメポイント」だと思っているそこは、もしかしたら、「ステキポイント」かもしれません。あ、わたしもそうね。うふふ。


以上9作品には、いぬいゆうたさんの朗読が副賞として贈られます↓こちらから



おめでとうございます!!

■すまスパ賞(10作品)


審査員全員による投票制で、審査も大盛り上がりとなりました。
選ばれた映えある10作品はこちら!

🎖️父の幽霊/豆千さん

■ 講評 紫乃

「ピンポーン」

早朝からドアベルが鳴る。
今日は土曜日だ。
寝室から眠い目を擦りつつ、ドアホンに応答する。

「豆千さん、お届けものです」

ん? ヤマト運輸?
Amazonかな?
何も頼んだ覚えはないんだけどな。
あ、妻が「マルセイバターサンド」をコッソリお取り寄せしたのかな?
そんなことを思いながら、玄関ドアを開ける。

「ピリカさまより、すまスパ賞をお預かりしてきましたっ!
豆千さん、おめでとうございます🌹」

( ゚д゚)ハッ!
今日、7月16日は「夏ピリカ」の発表日じゃないか!

・・・・・

鏡の中、ひと月前に死んだ父が映っていた。

この出だしから始まる、豆千ワールド。
鏡に映った父親の幽霊は、

「部屋の片付けを、あと黒猫……」

という謎の言葉を残す。
ここまでの序盤、無駄な言葉ひとつなくじわりじわりと読者を引き込む。

そして、主人公である息子と読者は同じペースで謎解きへと静かに進む。
家の背景を提示した後の、

7月16日(土) 受け取り
7月23日(土) ○○

ここから、物語はテンポよく動き出す。
そして、

「ああ、そういうことか」

と、読み手もほぼ同時に思うのだ。
また、最後にもう一度「鏡」に映らぬ父をもってきての

きっと成仏できたのだろう。

との結びも秀逸。

2022年7月23日の、土用の丑の日をうまく使った、食通の豆千さんならではの見事な展開!

文章力・構成力・展開力、に磨きがかかり、前回の「マルセイバターサンド」に続き、非常に楽しませていただいた。

素晴らしい作品でした。

しかし、「夏ピリカ」の結果発表日までを織り込むとは、さすがですっ。
降参(笑)

🎖️Foget Me Not/橘鶫さん

■講評 つる・るるる

誰かの日記に吸い込まれたり。
物語の登場人物に呼びかけられて、本の世界に飛び込んだり。

「紙に書かれた文字に引き寄せられる感覚」は、本が好きな人にとっては、実はなじみ深いものなのかもしれない。

橘鶫さんの『Forget Me Not』も、そんな紙を通して別世界を覗く物語のひとつである。
「鏡」と「鑑」、そう書かれた二枚の紙を近づけると生まれる別世界。
そこに消えてしまったかもしれないシュウと、シュウの恋人だったチドリと、シュウの友人のヒバリ。

「ミラーのことを、昔はカガミって言っていたらしいよ。」
「ああ、古語か。でも俺は耳にしたこともない。チドリは物知りだな。」

たったこれだけの二人の会話が、私たちをはるか遠い未来に連れていく。

チドリは「鏡」と「鑑」が意図的に消された背景を謎解きのようにヒバリに聞かせ、ヒバリは言葉少なにそこに潜むチドリの意思を確認しようとする。
そして最後に明かされる、ヒバリの想い。

この字数でこの密度、なんなの!?と読み終えてからもしばらくドキドキが収まらなかった。
「鏡」と「鑑」のあわいにどんな世界が広がっているのかも、シュウが本当にいるのかもわからない。けれど、きっと二人とも行ってしまう。
抑制のきいた筆致と、言葉以上に行動で語るタイプの登場人物たち。
シーンの切り取り方もとにかくストイックで、だからこそ見せたい部分が鮮やかに浮かび上がってくる。そんな作品だった。
物語はチドリとヒバリ、それぞれの秘めた決意が物語をずいっと動かしていく予感とともに1200字を迎え、その先は読者にゆだねられる。
わー、もっともっと読んでいたかったのに!!

ぽっかりと空白に取り残された私はふわふわした頭のまま、「鏡」「鑑」と二枚の紙に書いてみる。

愛しい人が別世界に行ってしまったとしたら、追う?追わない?

そっと近づけながら、気持ちが徐々に切羽詰まっていくのを感じる。
二つの文字がどんどん近づいていく。

そこがどんな世界なのかはわからないけれど。でも、あなたがいるなら。

「鏡」と「鑑」に挟まれた空間が、ゆらりと歪んだ気がした。

🎖️星とハンス/りみっとさん

■講評 geek

 身内を亡くし、毎日をひとり過ごすハンス。日々過ごしているとムシャクシャすることもある。そんなとき彼は、草原で寝っ転がって星をながめるのだ。こんなことを夢見ながら。

北斗七星が頭上に来ると、自分に幸せのかけらが降り注がれる…

 そんな彼のところにやってきたのは、狼だった。ハンスは狼に言う。

「僕を食べに来たの?」

 寄る辺ない気持ちで星をながめていたハンスの声は、それと意識しなくても、あきらめのような捨て鉢のような響きがしただろう。「食べたきゃ食べればいいじゃないか」というような。それだけでなく孤独な少年のもつ「ぼくに声をかけてくれたんだね」という、はにかむような響きも混じっている。
 書き手がハンスを丁寧に描写したことで、この一言がさまざまな響きを含むことになり、登場人物が立体的に立ち上がってくる。

 ふらり現れた一匹狼は、ハンスの声の響きにとけ込んだ感情を敏感に感じ取ったに違いない。だから、狼はハンスと一緒に星を見上げた。

星が1つ流れた。

「あ…」

ハンスと狼は同時に声をあげた。

 このとき、ハンスと狼の心が交差した。狼は星の流れた方向に走っていき、星の好きな少年のために拾ってきたのだ、星を。
 狼が星だと思ったそれは、小花の絵があしらわれた小さな鏡だった。狼は言う。

「星は食えないし、面白くもない。帰るよ。」

 ハンスと狼のように、価値観の違う孤独な者どうしがお互いを認めることで、物事が思いもしない展開をみせる。世の中の不思議はこんなところにあるのかもしれない、と書き手が言っているようにも思える。
 この出会いがあったから、流れ星となった星は鏡と結びついた。そのあと、鏡は思いもしない形でハンスのもとにやってきて、幸せのかけらと結びつく。そして、幸せのかけらは、もともとハンスが夢見て星と結びつけていたものだ。
 星は鏡に、鏡は幸せのかけらに、幸せのかけらは星に。
 これら3つがやわらかな調和をみせてものがたりは終わる。あたたかな余韻を残して。
 ものがたりを完成させるために書き手は、ハンスとは価値観の異なる狼を登場させ、ものがたりの道具として鏡を効果的に使うことに成功した。このものがたりはこれにとどまらず、ハンスの心躍る未来を予感させる点でも秀作である。

🎖️ツケ払い、ニャー/あいこうしょうたさん

■講評 さわきゆり

日本語には、美しい言葉、やさしい言葉が多々ありますよね。
「情けは人の為ならず」も、そのひとつ。
「他人へ渡した親切は、巡り巡って、やがて自分に返ってくるんだよ」ということを、こんなに短い言葉で表せるとは、日本語って本当にブラボー!

                                   ◇◆◇

「ツケ払い、ニャー」は、心がふんわり、やわらかく温まる物語です。
私、この作品を読み終えたとき、涙が出ました。

定食屋の子供の視線で語られる、1,200文字の世界。
店を営むおやじさんは、営業時間が終わった後、お金に困っている方々に、無料でまかない飯をふるまっていました。
「タダ飯じゃない。ツケだよ、ツケ」と言いながら。

まかない飯を食べていたひとりが、茂みで「ニャー」と鳴いてウケを狙う、お笑い芸人志望の「ヤス」。
おやじさんは「どんな時でも人を笑わそうとするのは芸人の鑑だな」と言いながら、ヤスにまかない飯を手渡すのです。
でも、その行為は、語り部の子供にとって、気持ちの良いものではありませんでした。

ウチも別に裕福じゃないのに、いつも人のために優しさを分けてあげて。そして、いつも人から騙されて。
バカみたい。

そして10年後、定食屋に崖っぷちのピンチが訪れます。
ネタバレ防止のため、ここでは、その詳しい内容には触れません。
でも、一言だけヒントを書かせていただきます。
「情けは人の為ならず」

◇◆◇

おやじさんは「ツケだよ、ツケ」と言いつつも、実際にそのツケが支払われることなど、露ほども期待してはいなかったと思います。
そうしたいから、するだけのこと。
ただのやさしさ。
でも、世の中に、やさしさに勝る魅力はないと、私はいつも思うんです。

人を騙すのは、確かに人です。
でも、人を助けることができるのも、人だけなんですよね。
「ツケ払い、ニャー」は、そのことを再認識させてくれる、素晴らしい物語です。
人という生き物って、いいもんですね。

🎖️視線の先/新下慧さん

■講評 染葉 ゆか

山形から東京の高校に転校した初日から、僕の視線の先は彼女にあった。

そんな彼女が覗き込んでいるのは、折り畳み式の手鏡。

なんだか甘酸っぱい青春の1ページを想像したくもなりますが、物語を読み進めていくと、それは単なる私の願望にすぎなかったとすぐに思い知らされました。

高校という舞台とは相反するダークなストーリー設定。テーマである「鏡」を軸に展開されていく、彼女と鏡の秘密。文章から伝わるなんとも言えない緊張感が私たちを物語の世界に惹き込んでくれます。

何より、ラスト部分で読み手側に結末を想像させる余韻のようなものが、この物語の魅力をより強く引き立たせているように感じました。最後の一文を読んだとき、なんだか妙にぞくっとしてしまって、思わず作品を読み返してしまったほど。

皆さまもぜひ、緊張感溢れる物語をお楽しみください!素敵な作品を読ませて頂きありがとうございました。

🎖️湖の化け物/納豆ご飯さん

■講評 Marmalade

とにかく気持ちの良い作品です。

湖に住む化け物、湖に映る醜い自分の姿を見ながら、自分にがっかりする毎日。そう、鏡は湖の湖面。その姿のせいで、人に貶められ恐れられて。大きな体に宿るのは、ごくあたりまえの傷つきやすい心なのに。そんな風に始まっていくこの物語の主人公、化け物にターニングポイントが訪れます。それは少年アユムが発したひとこと。そして、彼女は自分の思いを告白するという勇気で、そのきっかけをつかみます。

ここからは物語をぜひ読んで欲しいのですが、おとぎ話のようでありながら、今の世の中にきちんとマッチさせてある部分がユーモアたっぷりで、この話が地に足つけている現実感をもたらしています。そこを融合させることができた納豆ご飯さんの筆力を強く感じながら、読み進めるほどに心が軽やかになっていくのを感じました。

作者は化け物の気持ちそのものにはあまり触れてはいません。変貌をとげるのは容姿の描写を中心にしていますが、その裏側にもたらされた心の変化が見え隠れするのを読み手は十分に感じ取っていける、そんな骨組みのしっかりした作品でした。

誰もが、自分の姿を選んで生まれてくることはできません。だからこそ、必要なものがあります。化け物から感じるつやつやとした希望、きれいかきれいじゃないか、という表面的なもの以上に、私は私のままで堂々と生きていける、そんな喜びを感じる秀逸な終わり方でした。湖面という鏡が映し出していたのは、湖底まで深く届く思いなのかもしれません。

最後にこれだけは書いておきたいのですが、アユムのお母さんのいけずな感じもそりゃもっともなのです。ごくごく人間らしいその人が、なんだかんだ言いながらも、めちゃくちゃ協力してる!ところに、エゴと背中合わせの優しさを感じられたこともすてきでしたよ。

納豆ご飯さん、とても素敵なお話を届けてくださってありがとうございました。これからも楽しみにしております。

🎖️みにくいちくびのこ/おだんごさん                

■講評 ピリカ

私はこちら側の人間だった。そのままの乳首を慈しめる側の人間だった。

若い主人公が鏡と対峙することで「ありのままの私」を肯定する物語。
簡単なようで、私は50年近く生きてきたにも関わらず、難しいと感じている。

人が他者と関わり、比較し比較され、誰かから価値をつけられること。
誰でも物心ついた頃から遭遇する、ある意味共通のテーマだ。

おだんごさんは、誰もがあえて文章にしないような、見過ごしがちな本質の部分を、物語にするのが上手い書き手だと思う。

「あのさ、乳首がブスなんだよね」

まずもって、この冒頭がインパクトがあった。そしてタイトル。
【みにくいあひるのこ】を連想させつつ、ちゃんとあひるのおもちゃがいそうな銭湯を舞台に選んでいるところもニクイ。

ちょっと見、自然体。

丸腰ですよ、と見せかけて実はコートの下にたくさんの必殺アイテムを隠し持っている方だと想像する。

あくまでも想像です、あしからず。

主人公のあこは、アイドルグループのメンバーでありながら、コアメンバーとは遠いところにいる。21歳の若いあこが、自らの立場を分析する思考プロセスが、とても自然に文章化されていて、非常にわかりやすい。

乳首をブスと言われたことで、銭湯中のいろんな乳首を観察するあこ。そして、冒頭引用したつぶやきに繋がるのだ。

いいじゃないか、乳首がブスだって。
じゃあ美しい乳首ってなんだ?そもそも誰が美しいと決めるのか。
自分が悪くない、と思えればそれでいいじゃないか。
一生誰かの美しさの基準に合わせて生きていくのはしんどい。自分にYESを出せる力こそ大事だ。この作品のメッセージはそこにあるのではないかと私は思っている。


この作品を読んで、私も久々鏡に裸身をさらしてみた。

うん、美しくはないが、歴史が感じられて悪くないじゃないか。

「うん、そうだよ!悪くないよ!」とおだんごさんの明るいエールが聞こえるような、力強い作品だった。

🎖️アンドロギュノス/若林明良さん

■講評 猫田雲丹

「天が白む。
 死神は来なかった。」

アレンとアデル
王室に生まれ、禁断の愛を抱く双子の兄妹。

神をも恐れぬふたりの愛が、
限られた文字数の中で丁寧に描かれていきます。

近親愛という禁忌的なテーマにも関わらず、
タイトルへと帰結するまでの美しい流れ。

鏡という題を両性具有へと昇華させ、
シェイクスピアの引用で物語の悲劇性を匂わす
唯一無二な世界観。

その独自性は候補作品の中でも
ひときわ大きな存在感を放っていました。
作者の秀逸な発想力、表現力に脱帽です。

展開が加速したと思いきや不意に訪れる結末。
そこにぶつ切り感が無いのは、
作者の確かな手腕によるもの。

最期にふたりの身に降りかかった事象。
それは神の呪いなのか、それとも祝福なのか。

鏡に映った彼らの姿が目に焼き付くような、
力強い読後感が残ります。
ふたりは新たな姿を受け入れられたのか
思いを馳せずにはいられません。

テーマを踏まえながらも作者の
世界観が巧みに表現される、
素晴らしい名作でした。

🎖️ミラーリング・インフェルノ / めろさん

■講評  あめしき@02文庫

 まさかお題の「鏡」をこんな形で使ってくるなんて!
 それが本作を読んだ第一声だ。多くの応募作が物質としての「鏡」が出てくる物語である中、全く違う発想で作られたこの作品が、磨き抜かれた鏡のように輝くのは当然のことだろう。

 本作では「ミラーリング」なるスポーツ?が登場する。ペアで行い、パートナーと鏡のように行動や反応、発言などを一致させる。芸術点や意外性も考慮される採点競技のようだ。
 この時点で、もう、面白いに決まっている。なんだその競技!と物語に引き込まれる。

 そのような設定の面白さの上で、物語が動き出す。主人公の私はどうやら、この競技のトッププレイヤーのようだ。パートナーとの軽快な会話を中心に据えながら、ミラーリング・チャンピオンシップの準決勝から、決勝へと進む。
 その展開も捻りが効いていて、とても楽しい。魅力的な冒頭で惹きつけられた読者は、この楽しい物語の波に流されるままになるしかない。どんどん上がっていくテンションにつられて、一瞬で読み切ってしまった。

 また、ミラーリングという競技でお題を満たしながら、随所に「かがみ」に絡めたネタを放り込んでくる。それを見つける度にニヤニヤしてしまう。お題がある物語の投稿として、これは鑑となる姿勢であろう。

 とにかく楽しい物語。そして読者をファンにしてしまう、魅力的が詰まった作品だった。今回のピリカグランプリが、この物語が評価される大会だったことが嬉しい。そんな気持ちになれる作品をありがとうございました。

🎖️鏡の向こうは透明/koedananafushiさん

■講評 geek

少女と池との関係に関する掌編。

 ある程度考える力がつきながら、自我と外の世界との明確な区別がついていない年齢の少女だと、こういうことを考えるかもしれない、と思わせる。

 意地悪な男子に髪留めを池に捨てられたショックを、想像力の豊かさで回避しようとした少女は、こう考えた。

『あぁ、水の中は透明だもの。私の髪留めは鏡の水面を通して透明の世界の物と交換されたのね。』

 ものがたりに少女を登場させたのは、「池にものを落として失くす」ことを「透明のものと交換した」と倒錯して解釈する設定を活かすためであり、必然だったと思わせる。

 「透明のもの」は少女の想像力の産物であり、いくらでも美しくなる。現実の見た目より美しく、現実の手触りよりなめらかで、現実のものより所有感を満たす。この感覚が増幅していく過程は、独りきりの閉じた世界で生きる危うさをも描いているように思える。少女の周りにいる男子、お母さん、先生、いずれの登場人物も、少女からは遠いところにいて、少女の考えていることを理解するようには思えない。この設定がものがたりの中だけのものか、と考えたときに、書き手の目線の鋭さを感じる。

 教室で詰問され、男子にほんとうのことを暴露された少女はあくまでも自分の感覚に真っ直ぐである。

「先生っ!!私の物は盗られてませんっ!!透明の世界の物と交換しただけですっ!!」

そう叫ぶと、私は教室を飛び出した。

もっとはやくこうするべきだった。

どうすべきだったのか。

「私も透明になりたい」

 この考えは、これまでに周りのものを「透明のもの」と交換してきた”実績”を自分に転用しただけであり、この願望にリアリティがある。それは「死にたい」という感覚ではなく「消えてしまいたい」という消極的な感覚ともやや異なる。悩みやしがらみから解放された透明な存在を想像すると、大人でも魅入られるようなところがある。
 しかし大人は、透明なものの所有願望をエスカレートさせ続けた彼女の行き着いた結果をみても、少女の考えと行動が容易に結びつくことを理解しないだろう。大人は多くの場合、大人になるプロセスで、生と死との間に高い壁を築く経験をするからである。大人になるプロセスとは、他人の世界に触れることで、現実と、願望や想像との間に隔たりがあることを実感する過程である。

 この作品は、幼さから若さへの移行期にある少女ならではの感覚をうまく抽出して、独り閉じた世界の思考がどういうものであるかを浮き彫りにした。
 ショートショートの秀作である。


以上、19作品!

受賞者のみなさま、おめでとうございます!

最後になりましたが、今回の夏ピリカグランプリ2022、たくさんの方の応援の上になりたっていることを忘れてはいけません。

有料記事を買っていただいた方、

サポートをいただいた方。

ご自分の記事でグランプリを紹介してくださった方。

そして何より、

ご参加いただいた138人のみなさまのお陰です!

私たち運営への励ましや、他のエントリー作品への温かいコメント、
新たな交流も生まれていましたね。私たちまで心がほっこりいたしました。

本当に、夏ピリカグランプリ2022に心を寄せていただき、ありがとうございました。

また、この舞台でみなさんとお会いできるのを楽しみにしてます。

運営ならびに審査員一同、心より御礼申し上げます。

最高の夏をありがとう!!


ピリカグランプリの賞金に充てさせていただきます。 お気持ち、ありがとうございます!