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アンドロギュノス/夏ピリカ応募

アレンとアデルは双子の兄妹として十五年前、王室で生まれた。ふたりの見た目は瓜二つであった。時を経るにつれ、ますますそっくりに、そして美しく成長した。互いの性のしるしを除いては。

ふたりはたびたび鏡の前に並んで遊んだ。

「私がお兄さまで、お兄さまが私みたいね」
「裸になればばれるさ」
「ふふ」

世話係が遊び相手を連れてきても、すぐにふたりきりになってしまう。

「ねえお兄さま。ロミオとジュリエットを読んでくださらない?」

アデルが草の庭に寝転びながら、アレンを見上げる。 

「はは、またか。よく飽きないな」

「だって、お兄さまの朗読を何度でも聴きたいもの」


My only love sprung from my only hate!
Too early seen unknown, and known too late!
Prodigious birth of love it is to me,
That I must love a loathed enemy.

私の唯一の愛は、私の唯一の憎しみから生まれました。
早すぎて知らず、遅すぎて知らず
愛の天才的な誕生が私にはある。
憎むべき敵を愛さねばならぬとは。

名言書庫


「彼らは幸せよ。だって、他人同士ですもの」

アデルが長い睫毛を伏せる。

「お兄さま。あの台詞を頂戴」


thus with a kiss I die.


朗読がやんだ。そばに護衛が立っている。
ふたりは眼差しを交わし、葡萄の樹に隠れるふりをして、口づける。


アデルに隣国の王子との縁談が舞い込んだ。

「お断りします。私には愛している人がいます」
父王は溜息をついた。
「誰だね。それは」

アデルは口を噤んでしまう。兄だと言えるわけがない。父母を同じくする近親相姦は神の怒りを買い絶命する。来世はなく、悲しい虫となり永劫、地獄を這いずることとなる。

「お兄さまと一緒になれないなら、死んだ方がましよ」

アデルは泣きぬれながらアレンの胸に顔を埋めた。

「アデル、お前を愛している。世界中の誰よりも……。お前を行かせたくない」

「ああ、お兄さま……!」

もつれるように寝台に倒れ込んだ。アデルの白くやわらかい胸にくちびるを這わせる。アデルが小さく声を立てる。

だがこれ以上は……

「いいのよ」

動きを止めたアレンの波打つ髪を、アデルはやさしく撫でる。

「私たちはきっと、過去世でひとつだったの。だから、元通りになって当然なのよ」


声が上擦る。
さあ、死よ。来たらば来たれ。
これが罪であるものか。
繊月が中天に架かる。
ふたりは快楽けらくの底へと堕ちてゆく。


天が白む。
死神は来なかった。

「アデル」
「お兄さま」

返事はあるも、姿が見えない。その声は、身の内から聴こえる気がする。どこへ?起き上がった拍子に敷布が落ちた。胸は豊かにふくらみ、その下には猛々しいしるし――

急いで鏡を見た。そこには世にも美しい両性具有アンドロギュノスの姿があった。



(1200字)

夏ピリカグランプリへの応募をいたします。
よろしくお願いいたします。