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ノスタルジーと安心感|懐かしい音楽を聴く意義

ビジネスの名言などを見ていると、過去から学ぶことは多いが、あくまでも大切なのは未来であり「過去は振り返らない」という強固な姿勢が見られます。

ビル・ゲイツは「問題は未来だ。だから私は、過去を振り返らない。」と言い、松下幸之助は「どんなに悔いても過去は変わらない。」と言います。これが次々と社会変革をもたらす企業を作り上げた経営者の姿勢なのだと思います。

しかし、人生の中心にビジネスを置くことは一般人には難しく、どうしても過去を振り返ってノスタルジーに浸ってしまうこともあるはずです。

僕も基本的には未来に焦点を当てて生きていきたいと本気で思っており、過去は振り返りたくありません。

それでも、身体に染みついていることがあると、時々どうしても過去が想起されてしまうことがあります。

「おふくろの味」や「プルースト効果」と言う表現があるように、味覚によって過去の思い出が想起されることもあれば、香りの様に嗅覚から懐かしい場面が想起されることもあるでしょう。

僕にとっては、最も思い出が想起されるのは聴覚であり音楽です。特に若い頃に何度も聞いた音楽や自分自身が演奏していた曲は、脳内にこびりついてしまいなかなか頭から離れません。

散歩をしている時やお酒を飲んでいる時など、特に何をしたわけでもないのに、若い頃に聴いた曲を頭の中で再生していることがよくあるのです。それが歌であったり、ベースラインであったり、ギターリフであったり、それはその時によって異なります。

未来志向である理想と過去を想起させる音楽を、自分のなかでどう折り合いを付ければよいのか、これは非常に難しいことだと思います。

しかし、懐かしい過去を思い出すことは、時に安心感を与えてくれるものでもあります。その音楽を聴くだけで、若い頃に仲間と一緒にいた時の安心感を取り戻せているような感覚になることができるのです。

現代思想家の内田樹は大瀧詠一の熱心なファンであり、自身も含めた熱心な大瀧詠一ファンのことを「ナイアガラー」と呼んでいます(大瀧詠一のプライベートレーベルが「ナイアガラ・レーベル」という)

そのナイアガラーの特徴のひとつを過去のブログでこう語っています。

どこで知り合っても「私、ナイアガラーなんです」とカミングアウトすればたちまち百年来の知己となることができる。

内田樹の研究室:Back to 1960s

この様に若い頃に熱中していた音楽のことを共有できる仲間に対しては、一瞬にして「百年来の知己」かのような安心感や信頼感を持つことができる、そういった側面があるのです。

ビジネスを推し進めるような忙しく責任の多い日常を過ごしていると、時には孤独感に苛まれてしまったり、猜疑心が強くなったりすることもあるはずです。

そんな時にふと若い頃に熱中した音楽を聴いてノスタルジーに浸る瞬間を過ごすことができれば、そういった辛い状況から一瞬でも身を守ることに繋がるかもしれません。

一瞬にして懐かしい過去を想起させてくれる音楽には、やはり不思議な力が秘められているように思います。

人間はそこまで強いものではないからこそ、時には安心できる記憶にすがってみてもいいのではないでしょうか。

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