いずしんぷるべすと?
営業時間が終わった後の友人の饂飩屋には賑わいの残香があった。入るなり友人はこちらを見ると笑顔になり、「真帆さん久しぶり。又。綺麗になったんじゃないの。」と置きにいった挨拶をくれた。妻の真帆は当然といった態で、何故か自分が恥ずかしくなっていると、友人は意に介さず実はさぁと続けた。うちに新しいデザイナーが入ったんだよ。紹介するよと、厨房に声をかけた。彼の饂飩屋では職人さんをデザイナーと呼ぶのだ。暫くして厨房から顔を出したのは、意外にもとても小柄で栗鼠を想起させる美しい人だった。驚いたでしょ?と悪戯な笑顔を溢れさせる友人に、こんな綺麗な人がと素直に驚いた事を告げると、謙虚な彼女はとんでもありませんと慎ましくも恐縮していた。ちょっとさ彼女の饂飩食べてみてよと勧めてくれる友人に、真帆は「私、普通の饂飩が好きなんだよねぇ。」と無神経な発言をした。変わり饂飩で有名な友人の店で、その発言はと気をやった時、「そうですよねっ。私も同感です!」その日、洋三は何度も予想を外す事になった。普通の饂飩は驚くほど美味だった。
〈掲載…2017年10月 週刊粧業〉
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