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ビートフロムソウル

 黄ばんだ壁紙、しかも少し角が捲れあがっている。巨大な丸見えの換気扇には、中華料理屋の床の様な油がこびり付いていた。急誂えに囲われた小部屋のドアに、ホームセンターで買ったと思しき白い樹脂プレート。「応接室」と書かれたドアを開けた時から、洋三は嫌な予感がしていた。
 サラリーマンをしながらバンドを続ける青年の葛藤という、解り易いテーマの小説のネタになればと、知人からバンドをしながらサラリーを稼ぐ若手社員を紹介して貰う事となり、音楽音痴の洋三にとって救いの神だと悦び勇んで来たのだが、
「という訳で僕はドラムに出逢ったんすよ。ドラムって他の楽器と違って練習が独特で、なんかこぅソウルで敲くっていうか、元々自分の体にあるビートを聴くっていうか。あぁ心臓の事です、だから出来るというよりは気づく感じなんすよねぇ。」
 判らない。徹底的に判らない。僕なんかにも出来るんすかねぇと、相手に興味が無いことを悟らせない為に聞いた質問に、彼は、
「出来るっしょ。ソウル在りそうやし。」
 ドラマーには私のソウルが視えるらしい。


〈掲載…2019年12月2日 週刊粧業〉

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