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新海誠の映画を彩る音楽

映画にとって音楽というのは時として何よりも重要な要素になり得る。ある場面ではいかなる出演者よりいかなるシーンより音楽が重要になる場合がある。

映画と音楽が非常に密接であり監督は自らとぴったり合う音楽家を見つけられるかが自分の映画が成功するか否かにかかっている様にも思える。映画監督と音楽家、例えばフェデリコ・フェリーニとニーノ・ロータ、スティーブン・スピルバーグとジョン・ウィリアムズ、そして我国と言うなれば宮崎駿と久石譲である。私は今回、新海誠の音楽について語る。

新海誠の映画音楽を担当したのは商業映画デビュー作の『星の声』から四作目の『星を追う子供』までを天門氏、『言の葉の庭』を柏大輔氏、『君の名は。』、『天気の子』をRADWIMPSが担当している。合計三組の音楽家が担当している訳であるが音楽生の統一感としては決してバラつきがない。

天門氏と新海誠タックでの到達点は『秒速5センチメートル』であると思っている。

その中でも予告編に使われている『思い出は遠くの日々』という曲はあまりにも素晴らしく私は映画史の中でも取り分け優れた映画音楽ではあるまいか、と思っている訳である。まず題名の『思い出は遠くの日々』である。こちらの題名は一体どちらが考案したのであろうか。天門氏であろうか、はたまた新海誠であろうか。いずれにせよこのタイトルは余りにも美しすぎる。読んで各々の胸中に刻み込まれた記憶を掻き立てるのである。その衝撃たるや世界一短い小説と言われているヘミングウェイ の『売ります。赤ん坊の靴。未使用』に匹敵するものがある。この短い言葉でここまで深い事を考えさせらるというのはそうあるものではない。

さて音楽自体も大変に優れている。哀愁を帯びた切ないメロディがリフレインし転調する。音楽というのは数学同様世界共通言語である。外国人が果たしてこれを聴いてどういった感想をもつかは解りかねるが然し皆郷愁を覚えるだろう。この曲を聴いて私がまず抱いたのは後悔である。次いで懺悔である。あゝ、何故に私はあの時、あの道を選ばずにいたのだろう。と。いった具合である。その公開や懺悔は映画の主人公である遠野くんや澄田さんが抱く心情とリンクするのである。

2013年に公開された短編映画『言の葉の庭』は靴職人の夢を追うタカオと心に傷を抱いた女教師ユキノ。二人の年齢を超えたラブストーリーである。この映画音楽のみ柏大輔氏が担当している。『言の葉の庭』のブルーレイにはサウンドトラックがついてくる。長くそれのみでしか聴けなかったがこの間、新海誠監督作品の音楽がサブスク解禁された際、本作品のサントラも解禁された。

然しこの曲たちは『言の葉の庭』を制作するにあたってアレンジされた楽曲である。原作にあたる曲は同じく柏大輔が2011年にリリースしたアルバム『88』の数曲が原曲となっている。残念ながらそちらはサブスクにはなかった。私は『88』を以前購入したが素晴らしいアルバムなので買って損はないのである。

この『言の葉の庭』のサウンドも素晴らしい。雨が印象的に描かれる本作である。音楽も聴いただけで雨を想起させるものとなっている。いや、それは映画を観たのちの感想かもしれない。然し、そうだとしてもこのサントラはすごく細い。繊細で美しい曲である。天門氏にはない素晴らしさ、言うなれば繊細だが然しダイナミックさがある。 

新海誠は3度目の長編映画『君の名は。』で言わずと知れたロックバンド、RADWIMPSに音楽を任せた。その音楽と共に映画は特大ヒットし現時点で新海誠監督作品史上最も興行的に優れたヒット作となった。

この映画の歌唱のある音楽4曲も特大ヒットしあの2016年はどこに行っても『スパークル』や『前前前世』が流れていたものである。私はずいぶん長い間(と言っても2ヶ月程)この映画のインスト曲は違う人間が創っていると思ったがどうやら他のインスト曲もRADWIMPSが作曲しているのである。

歌唱のついた曲の素晴らしさについては改めて私が語るまでもないと思うから割愛する。このサントラの魅力はインスト曲でもある。天門や柏大輔の様な哀愁を帯びた曲もあり、従来になかった様な疾走感のある曲もあり、トリップ感満載の曲もあり。アルバム単体として聴いても統一感がありこれまた秀作である。まさかロックバンドがここまでできるとは思っていなかった。彼らの才能に脱帽である。

天門、柏大輔、RADWIMPSどの作曲家も素晴らしい才能をそれぞれの新海誠作品で適切に発揮している。それぞれの映画にそれぞれの音楽が流れる必然性がありまさに作曲家と映画監督が素晴らしく結びついた例である。

次の新海誠作品(おそらく傾向として三年おきであるので2022年)は一体どのような物語であるのか。また、一体誰が音楽を担当するのであろうか。そういえば天門氏が先日長く勤めていた会社を退社し新海誠のいるCoMix Wave Filmsに所属したそうだ。次の作品、まだどのようになるかはわからないがこれからの動向に注目である。


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