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エレファントカシマシの歴史 Vol.11 『”宮本、待ってたぞ” ”宮本、ドーンと行けや”』

ポニーキャニオン期最終作、初めて本格的に機材を導入し本作の手法を予期させるようなアルバム『愛と夢』は下記のリンクから。

さて今作はレコード会社が東芝EMIに変わり初のアルバムである。その名も『good morning』である。ポーキャニオン期はエレカシ はEPICソニー期とは違って殆どの曲がラブソングであった。古参のファンは少なからずそんなエレカシ に少し幻滅しただろう。然しまたラブソングを書いたからこそエレファントカシマ氏という本物の才能が世間に認められた要因である。宮本自身もそのことについて些かの違和感を感じていただろう。ロックシンガーである筈なのに愛を歌っているのはどうなのか?と何度も煩悶しただろう。その苦悩の果てに生まれたのは問題作『good morning』である。この曲は全曲打ち込みでメンバーは殆ど参加しておらず全て宮本が手掛けたのである。故にソロアルバムと表現しても差し支えがないような内容である。その収録曲はどれも過激で異常なほどにハイテンションで近寄る人間を全て蹴落とすような勢いがある。

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このアルバムのポスターには『東京の空』の歌詞カードのように宮本自身の檄文が記載されている。それからもわかるようにこのアルバムにかけた想いは強くこのアルバムによって本気で大革命を起こそうとした。『目に障る奴はとりあえず埋めよう』『豚に真珠だ貴様らに聴かせる歌など無くなった』『太陽の下、おぼろげなるまま右往左往であくびして死ね』と世間に叫んでいた宮本浩次が帰ってきたのである。おそらくポーキャニオン期にファンになった人間は一旦離れていっただろう。アルバムは2000年4月26日発売。シングル『ガストロンジャー/soul rescue』は1992年12月8日、『so many people/sweet memory』は2000年1月26日、『コールアンドレスポンス/武蔵野』は2000年4月26日発売。

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檄文全文

Ladies and Gentlemen!! Good morning!!  
"俺(宮本)は音楽が武器たりえることをはじめて確信した!!"
シングル"ガストロンジャー"売り上げ五万枚。(これが多いのか少ないのか、正直俺にはわからない。)俺はしかし、枚数云々よりも
人々のロックミュージックに対する強い期待と渇望、そして激しい想いをこのシングルによって知ることになった。やや演歌じみるが、
俺にはこういう声が聞こえてきたのだよ。"宮本、待ってたぞ。" "宮本、ドーンと行けや。"と。どうやらロックの原初エネルギーである野性と破綻こそが、我々を救い前進させてくれる武器であることをある人々はとっくの昔から知っていたらしい。
"俺は音楽が武器たりえることをはじめて確信した!"
俺達は良くも悪くも常に音楽界の常識を覆してきた。
Ladies and Gentlemen!
まぁ聴いてくれ俺達の新作 "good morning" やや間の抜けたタイトルの全12曲。しかし、これが最良最高の形で音楽界の常識を逸脱していることを感じとっていただけよう。  
 俺はこう自賛してこの文章を締めるだろう。

 孤高にして普遍的。
 過激にして包容力有り。
 最新にして懐かしい。
 そして、最強のロックスピリッツ。
 それが、エレファントカシマシ。 すなわち俺だ。

  都内の茶店にて 宮本浩次

1.ガストロンジャー

アルバムで唯一エレカシメンバー全員が参加している楽曲。歌唱部分が殆どなく宮本のハイスピードな演説で捲し立てられ曲が進んで行く。宮本が生まれ落ちた高度経済成長期の日本から始まり現在まで宮本が抱える疑問や日本の問題、個人の問題までもが語られている。ライブでは宮本の言葉が様々に変化する。歌詞が過激な事からNHKでは放送禁止になった。

2.眠れない夜

宮本一人の打ち込みによって成立した楽曲。人間の発言やらお偉い政治家に向けた歌であろう。歴史と伝統という言葉が用いられている。

3.ゴッドファーザー

この曲も宮本一人によるもの。宮本の愛の手が異常にハイテンションである。

4.good morning

表題曲にして宮本のが全てを手掛けた楽曲。このアルバムで最もハイテンションである。異常なほどハイテンションな故薬物疑惑が出てもおかしくない程訳の分からないことを言っている。『朝まで俺マッシュマロフワフワで地球上』『朝まで俺真っ白いよクリスティーヌ思考てしね』云々。この曲はちょうど宮本が運転免許を取り首都高をポルシェでとんでもないスピードで走っていた頃のものであるので途中暴走族のクラクションのような音が聞こえる。今の宮本がどのようにして歌うのか是非聞いてみたい。

5.武蔵野

このアルバム唯一のラブソング。然しながらどこか達観している。一歩引いて愛し合う二人を見ているような楽曲であり宮本お得意の風景描写が歌詞にたくさん入っており風景が浮かんでくる。簡単なコード進行でありながらも実にメロディアスで綺麗である。

6.精神暗黒街

エレカシ では珍しく英語を多用している楽曲である。然しながら歌詞の意味が分からない。『いつでもhigh。どこでもhigh。』という歌詞は初めて聞いた時宮本の目を見開いた顔面が浮かんだ。

7. 情熱の揺れるまなざし

この曲は後半部分の韻を踏んだ歌詞が素晴らしくて何度も繰り返し聞いている。西洋にいつまでも憧れ続ける自分も含めた日本人をハイテンションながらも冷静に批判している。

8.I am happy

この曲も『ガストロンジャー』よりかはメロディがあるが言葉を詰め込めるだけ詰め込んでいる。権力者に向けた宮本の率直な気持ちを吐露している。そして自らの時代が必ず到来する事を歌っている。この曲は直截的に「頑張りましょう」という言葉が出てきている。

9.生存者は今日も笑う

ギターの演奏がなんともカッコ良い。宮本が聞き取れないレベルで喋っているのがなんとも印象的である。

10.so many people

ライブの定番曲であるがいつもはシングル盤の演奏を行う。宮本の相当の自信がある楽曲。この曲は一番歌詞が本アルバムの中で一番難解である。そして哲学的である。

11.Ladies and Gentlemen

宮本が『レディースアンドジェントルマン』と叫ぶわずか14秒の曲である。

12.コールアンドレスポンス

本アルバム最後はこのハイテンションアルバムにふさわしい楽曲でありか楽曲であもある。宮本のはりさけんばかりの歌声が終始響く。そして宮本の語りはやはり素晴らしい。下らない人間達に対する挑戦状のような歌である。

かくしてハイテンションアルバム『good morning』は終わる。このアルバムをイアホンして大音量で流しながら街を歩くと何か湧き立ち瞳孔が開きキマることができる。私はエレカシ史上の中でこのアルバムと後の『俺の道』は破綻と成立のギリギリを絶妙なバランスで攻めている素晴らしいアルバムであると思う。この二枚のアルバムは私がまだ到達し得ない心持ちを疑似体験させてくれる。このアルバムの時の宮本はEPICソニー期の宮本が再び降臨したように各地のライブではすこぶる機嫌が悪かったそう。更に過激だったそう。見てみたかった。然し宮本なら五十を過ぎた今でもそのようなテンションになる日が来るかの知れない。その日を待ち望みながら、今日はこの辺で終わりたいと思う。

さて次回は『ライフ』小林武史が楽曲に全面的に参加しているアルバムで『good morning』の後とは思えない優しい灰色のアルバム。ご期待ください。




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