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【イベントレポート】タスク・ベースの言語指導法ワークショップ

8月5日(土)に開催された、英語教員向けの「タスク・ベースの言語指導法ワークショップ」のイベントレポートです。


  • 別の環境で教えている先生どうしで、情報交換や交流を行うことができて貴重な機会だった

  • 生徒・学生の立場でタスクを使った授業を、ふだん教える側の自分自身が体験することで、気づきや学びが多くあった

  • タスクを使った授業について、教科書の著者から直接説明を受けて理解が深まった

参加後のアンケートでは、上記のような感想が多数寄せられ、満足度の高いワークショップとなりました。


TryとReflectionを交互に行った、3時間半超のワークショップ

タスクを使った英語教科書『タスクで教室から世界へ[ブック1] Getting Things Done —Tasks for Connecting the Classroom with the Real World』、『同[ブック2]、その基となったタスクのアイデア集『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』の著者陣が登壇し、14時から17時40分まで休憩をはさんで開催されました。

●登壇者
Paul Wicking先生(名城大学)、小林真実先生(名古屋大学)、田村祐先生(関西大学)、松村昌紀先生(名城大学)、加藤由崇先生(中部大学)
●運営
横山 友里先生(中京大学)

今回参加された先生たちは、教えている場所が大学から小学校まで様々な約20名。「タスクを使った授業に興味はあるけれど、よく知らない」という方が多数。

0部 アイスブレイクとタスク実践 (Try)

まずはタスクを体験してみる
 参加者が5つのグループに分かれた後、さっそくPaul Wicking先生によるアイスブレイク・タスクが始まりました。

アイスブレイクにぴったりのタスクを実際に試してみる

教科書『タスクで教室から世界へ[ブック1] Getting Things Done —Tasks for Connecting the Classroom with the Real World』及び、アイデア集『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』に掲載されているタスクを体験します。

教科書『タスクで教室から世界へ Getting Things Done —Tasks for Connecting the Classroom with the Real World Book1』p.34

SE1〈クラスメイトとの共通点をみつける〉
活動形態 6人程度/レベル A1以上/所要時間 15分程度
概要と活動の目標 ○互いのことをまだよく知らない学習者が、自分たちの間の興味深い共通点をできるだけ多く見つける。
[準備と手順]
①6人程度の学習者のグループを作り、各グループで1人の進行役を決める。
②グループのメンバーの間に存在する共通点を、設定した時間内に出来るだけ多く見つけるように伝える。共通点はグループ内の少なくとも2人以上に当てはまることとする。
③終了時間になったら活動を止め、発見できた共通点についてそれぞれのグループに報告させる

『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』p.86

※教科書『タスクで教室から世界へ Getting Things Done 』とアイデア集『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』に掲載されているタスクは同じ形式で分類されています。

1部 ワークショップ趣旨説明 (Reflection)

タスクベースの授業を考える、とは
アイスブレイクを終え、会場はすっかり和やかな雰囲気に。続いて小林真実先生のファシリテートでアイスブレイクの感想や、難しかったこと、楽しかったことなどを共有。
実際に授業で使っている参加者からは、学生の立場を体験してみて発見した感想が寄せられました。時間内で対話を深めるか、共通点を数多く上げることを優先するのか、等々。どちらのグループも非常に盛り上がっていました。

小林先生から、タスクベースの授業を考えるとは、「言語を使いながら学び」、「学習の過程そのものを楽しむこと」、さらに「教室内での学びが社会での言語使用に繋がっている実感を持たせること」という話があり、続けて今回のワークショップ実現に至るまでの趣旨説明がありました。

2部 タスク実践 (Try)

続いて、田村祐先生が登壇し、さらに2つのタスクを実際に体験しました。

教科書『タスクで教室から世界へ Getting Things Done —Tasks for Connecting the Classroom with the Real World Book1』p.18


教科書『タスクで教室から世界へ Getting Things Done —Tasks for Connecting the Classroom with the Real World Book1』p.84

CI3〈説明を聞いて国旗を特定する〉
活動形態 ペア/レベル A1以上/所要時間 20分程度
概要と活動の目標 ○ペアになった学習者の 1 人が複数の国 旗のうち任意の 1 つを説明し、もう 1 人はどの国旗のことが言われているのか特定する。
[準備と手順]
①国旗が並べられたワークシートを学習者の人数分用意し、全員に配布する。
②学習者のペアを作り、1 人が自分の選んだ国旗を説明して、もう 1 人は述べられているのがどの国旗かを当てるように言う。答えは The third from the top/bottom, the fifth from the right/left, far left, far right などの英語で述べさせるか、あるいは解答者がワークシート上の国旗を指さすようにしてもよい。1 つに正解できたらペアの学習者には役割を交代させ、制限時間まで同じ手順をくり返す。
③終了時間になったら活動を止め、その時点までに最も多くの国旗を特定できたのがどのペアかを確認する。

『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』p.48

ペアワークは実際の授業さながら(?)に盛り上がり、にぎやか過ぎて講師の話が届かない場面も。
スコアが良かったペアに、そのコツを聞いたり、回答の確認方法の意見を尋ねたり。タスクの進め方と授業時間の兼ね合いのアイデア、逆にタスクから発展したアイデアなどが参加者から上がりました。実際の授業での時間配分のイメージを念頭においた質問も多くあり、いま行った体験から具体的に使い方をイメージする参加者の様子もみられました。


3部 タスクを基盤とした指導法とは(Reflection)

2つのタスクを体験したあとに、そもそも「タスク」と呼ばれているものとはどんなものなのか、松村昌紀先生による3つの要件の講義がありました。

『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』

「タスク」かどうかの見極め、グレーゾーンについても言及。タスクを授業で扱うための知識を深めます。
タスクを使った授業がうまくいかないときの工夫(一度日本語で同じことを行うなど)や、授業の成功とは、計画が消化できて完了した、あるいは生徒が満足することだが、タスクをうまく使えば、先生の想定以上の成果がおこる、など。タスクの要件定義については、『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』知識編でも解説されています。

4部 タスク・ベースの授業展開の課題と解決策 グループワーク (Try)

授業を想定した場合の課題や方法を考える
席替えを経て、グループごとに指定されたタスクを使った授業について意見交換タイム。加藤由崇先生が担当します。
これまで登壇した著者陣も各テーブルに加わり、実際に授業を行うことを想定した場合の課題や方法など活発な議論が交わされました。

5部 ディスカッション「アイデア・意見交換」 (Reflection)

議論した内容やアイデアを共有し、さらに意見交換する
各グループで白熱した議論が続き、延長した時間も足りないくらいでしたが、全体での意見交換が最後に行われました。

校種の違いによる授業内で配慮すべき点についての意見、著者陣へ質問や、評価方法の相談、高校の先生から大学の先生への質問など、タスクを中心に様々な意見・コメントが寄せられ、ワークショップは盛況のうち終了しました。


関連情報

今回のワークショップで取り上げた、タスクを使った授業のためのアイデア集とそれを基につくられた教科書です。

【アイデアとマテリアル集】

目次
本書の背景と構成、活用方法
第1部 知識編
タスクの基礎知識
1. タスクの要件
2. タスクのタイプ
3. タスクと認知プロセス
4. タスクの難易度調整と活動のオプション
5. 授業へのタスクの位置づけとタスク・シラバスへの展望

第2部 タスクのアイデアとマテリアル
Part A情報伝達 Conveying Information [CI]
CI 1  Picture Reproduction 説明を聞いて絵を再現する
CI 2  Spot the Difference 2つの絵の間の相違を特定する
CI 3  Fantastic Flags 説明を聞いて国旗を特定する
CI 4  Daily Scenes 行為が行われている場所を特定する
CI 5  Put a Name to the Desk 机の所有者を当てる
CI 6  Get Your Story Straight 2つの物語の間の違いを指摘する
CI 7  The Truth about Me 事実と虚偽の情報を区別する
CI 8  Lye through Your Teeth 相手の嘘を見抜く
CI 9  Who Are They? 絵の中の人物の名前を特定する
CI 10 After the Quake 状況の変化を予測する
CI 11 What's the Word? 説明を聞いて単語を推測する

Part B情報合成 Synthesizing Elements [SE]
SE 1  Search for Something in Common クラスメイトとの共通点を見つける
SE 2  Put the Pictures in Order 絵を正しい順に並べる
SE 3  Put the Story in Order 文章を正しい順に並べる
SE 4  Arrange a Meeting 予定を調整する
SE 5  Catch the Criminal 犯人を推測する

Part Cナレーション Narrating Stories [NS]
NS 1  Storytelling: Pictures 一連の絵で表現されたストーリーの展開を説明する
NS 2  Storytelling: Videos ストーリーの展開をリアル・タイムで説明する

Part D問題解決 Solving Problems [SP]
SP 1  Find the Odd One Out 仲間外れを探す
SP 2  Figure Out the Puzzle パズルの答えを考える
SP 3  Make Up a Story 物語の一部から前後の展開を想像する
SP 4  Recognize the Process 文章が何を説明したものかを見抜く
SP 5  Follow Instructions 手順にしたがって折り紙作品を完成させる
SP 6  Complete the Story 文章の見えない部分を補う
SP 7  Get a Different Perspective 2つの文章を比較する

Part E意思決定 Making Decisions [MD]
MD 1  Selecting/Ranking: Deserted Island 無人島での生活に必要なものを決める
MD 2  Selecting/Ranking: Amazing Alumni 表彰すべき卒業生を決める
MD 3  Selecting/Ranking: Love Match 理想のパートナーを見つける
MD 4  Selecting/Ranking: Group Trip グループ旅行の宿泊場所を決める
MD 5  Creative Thinking: Super Schools 学校の改善点を考える
MD 6  Creative Thinking: Top Timetable 理想の時間割を作る
MD 7  Creative Thinking: Mad Inventions 与えられた単語から着想して新しい装置を発明する
MD 8  Categorizing: Group Members 適切な基準を考えて物や人を分類する
MD 9 Advising: Agony Aunt 悩み相談に対して解決策を提示する

第3部 活動成功の秘訣
1. ペアやグループの編成
2. タスクの活動形態
3. タスクの選定および自作
4. 学習者への指示
5. タスクの準備と計画
6. タスクの展開
7. 活動のフォロー・アップ
8. タスクを用いた活動の評価

巻末付録
第2部解答例
言語表現一覧

【教科書】


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