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【書評】 『実務で役立つ世界各国の英文契約ガイドブック』 アンダーソン・毛利・友常法律事務所

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タイトル画像は株式会社商事法務の公式サイトよりお借りしました。
出典:https://www.shojihomu.co.jp/publication?publicationId=8236381

四大(五大)法律事務所の一つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所が2019年4月に発売した、世界各国の法制度のサマリーと条約(ウィーン条約とニューヨーク条約)の加盟状況を記した実務本です。

収録国数は17ヵ国(アメリカ・イギリス・シンガポール・インド・ブラジル・メキシコ・フランス・ドイツ・ロシア・トルコ・中国・タイ・ベトナム・インドネシア・韓国・マレーシア・フィリピン)にも及び、終盤にASEANにおけるライセンス契約と国際仲裁・国際調停に関する近似の動向をまとめたトピックスがまとまっています。

2019年6月頃に購入しましたが積んでしまい、最近(2020年11月頃)ようやく通読しました。

通読した上で感想を述べるとすれば、この本は、法務が読む本として有用だと思います。

そもそも17ヵ国にもわたって契約にフォーカスして詳説した実務本は今のところ本書だけですし、内容としても、顧問弁護士・現地法人のジェネラル・カウンセルやコーポレート・カウンセルに相談する前に、知っておくべき最低限の前提知識として、十分な内容のサマリーが入っていると思います。

ほか、外国弁護士事務所の表敬訪問などで接待することになった際など、会話の前提として知っておくべきその国の成り立ちや弁護士資格を取得するまでの道のりなども記載されており、国際法務パーソンが備えるべき常識的な要素が詰まっています。

ただ、2020年の現在から考えると(本書はおそらく2018年頃に執筆されたものと思われる)、法改正などにより一部の情報に古くなっている箇所があり、少し注意が必要です。
(これは本という媒体である以上避けられませんし、しょうがないのですが。)

古い情報の例としては、中国企業と締結するライセンス契約における保証責任が挙げられます。

従前は、中国企業に対し日本からライセンスを行う場合、この本に記載されているように、ランセンサー(ライセンスを許諾する日本企業)はライセンシー(ライセンスの許諾を受ける会社、この場合においては中国企業)に対して、①ライセンス権原の保証②技術の完全性の保証という2つの保証責任を負うこととされていました。

しかしながら、2019年3月18日付で改正された新技術輸出入管理条例によりこれらの制限は撤廃され、中国企業にライセンス許諾を行なったとしても、日本企業が保証責任を負わされることはなくなりました。
(参考:BUSINESS LAWYERS - 中国、輸出入管理条例改正 技術ライセンス契約の内容への影響とは? https://www.businesslawyers.jp/articles/557

なお、これらの保証責任の義務に関する回避策として、中国に現地法人を有する企業であれば、日本法人とその現地法人との間でいったんライセンス契約を締結し、その現地法人からさらに他の中国企業に対しサブライセンスを行うというスキームで保証責任を回避する(保証責任が課されるのは外国企業のみのため、中国国内企業同士のライセンスとして契約を成立させ義務を免れる)のが一般的なスキームであったと記憶していますが、ここらへんの記載が一切ないのは少し残念でした。
(アンダーソンとしてはそもそもこのスキームでは保証責任を回避できないという立場なのかもしれませんが、そうなのであればそう記載してくれた方が嬉しかったです。)

本書の主な使い方としては、新人法務部員に通読させて国際案件に関する前提知識を植え付ける、国際案件が発生するたびにその国の項目をざっと流し読みし、契約書ドラフト案の背景にある意図を読み解く一助とする、等々の使い方が向いていると思います。

難しいのは、大きめのメーカーなどであれば、すでに国際案件に精通した人間が何人もいるはずで、その人たちに直接教えを乞う方がいろいろ効率的な場面も多いと思いますし(知識の平均化・同期化という意味でも)、逆にそういった(十分に法務経験を積んでいる)人間がいない会社はそもそも17ヵ国を相手に契約などする機会があるはずもないので(国際案件が発生してもせいぜいアメリカなどの特定国でしょう)、そう考えると使いどころは結構限定的という気はします。
(特定国との契約や折衝に関するトピックであれば、より詳しく丁寧な本がたくさんあるでしょうし。)

いずれにせよ、自分のような経験の浅い法務人にとっては、あらかじめ各国のイメージを掴んでおくという意味でも非常に有用な内容が多く、読み応えのある優良本でした。

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