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こだち
雨が降っている。
汗をかくママチャリ。
霞んだ道路を見つめる威張った高級車。
周期的なそよ風が、ぼくの背中を押した。
自然に誘惑されるがまま、トンネルをくぐる。
何度か歩道橋へ向かって、走りながら渡った。
ぴしゃり。
ぱしゃり。
濡れた葉っぱの踏まれる音がする。
とても痛々しい音。
ぼくも踏まれないように慎重に歩くようにした。
ぱしゃん......
音が消えた。
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眠る横断歩道。
たのしそうなカラスの群れと行き違う。
並木はこそこそ内緒話をしている。
“たからもの”はここに隠されているのか。
どこだろう...
我が者顔で、コンパスのように一周する。
すっかり辺りの木は枯れ果てていた。
なんだ。何もないじゃないか。
怒りがこみ上げてくる。
「こっちへこい。」
霧に包まれた草原の先から声が聞こえた。
道はないが、しょうがなく進んだ。
苛立ちはまだおさまらない。
枝の切れ端が足に当たってちくちくする。
前も後ろも白で何も見えなくなった。
「わしらは、どんな悩みも解決する、
とっっっても親切な“こだち”だよ!」
・・・。
「...あれま?きょうはわししか起きとらんのか。」
・・・はぁ。
「そこのきみ!わしの声が聞こえるんだろ」
・・・別に。たからものはどこ。
「ああ、君も”ハヤトチリ“くんか。たからものはここにはないよ。」
・・・いいから、はやく在り処をおしえてくれ。あんたと長話するためにここへ来たのではない。
「“たからもの”を手に入れて、何がしたいんだい?」
何って…一生ぼくのものさ。まずはみんなに自慢するつもりだ。
「その“たからもの”は君よりもすごいのかい?」
ああ。そうに決まっているさ!
「うむ。”たからもの“を見つける方法を教えてあげよう。」
「たからものになるんだよ。まずは君自身が。」
ドーーーーーーーーーーーーーーーン
近くで落雷の音が響いた。
息をのんで、酸素を吸った途端、
巨大な雨粒の滝がぼくの身体を叩き続けた。
うずくまって怯えた。
このまま帰れずに水に溶けていってしまうのではないかと勘ぐった。
ぼくは、雨にすら負けてしまうのか、いや。
まだ終わりたくない。
___もっと、強くならないと。
豪雨はやっとおさまった。
視界が鮮明になると、
さっき声の聞こえた方向へ、ぼくはとっさに振り向いた。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/123265737/picture_pc_8da18a1bb4b9cd0e346f4cf500912eb2.png?width=1200)
あの木は、大胆不敵な表情を浮かべていた。
こだちに囲まれる、
ぼくの身体はどの木よりも幼くみえた。
幕開けのチャイムが鳴る。
近くの木陰に、光り輝くブルーシートが。
ぼくは鼻歌を歌いながら、切り株に腰掛けた。
愛のしずくがぽつり。
きょうはここで暮らそう。
さんろくのこだちは
どれも良いかおりだ。
あの木のふりでもしてみよう。
しゅくしゅくと
立派にそだつように。
おわり。
あとがき
青葉市子さんの歌を聴いていたら、ちょっぴり詩のような小説を書いてみたくなりました。写真は世田谷にある砧公園内にて撮影したものです。美術館もあって、すごく落ち着いた雰囲気の公園です。
ぼくの寄稿が、明日12/3(日)、「コミティア」という漫画展示即売会で販売予定の合同誌「absolute IDEA」に紹介されるようです。
当日は一般の方でもカタログ(1500円)を購入すれば誰でも入れるので、ぜひ足を運んでみてください。
詳細はこちら↓
では、また!
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