見出し画像

空気清浄機が支配する世界

今回降り立った所は、空気清浄機が支配する世界らしい。煉瓦造りの街並みに、済んだ空気が気持ちいい。馬やロバのような生き物が荷物を運び、井戸から汲んだ水を女たちが運んでいる。

ふと街を見渡してみると、遠くの方に白い建造物が見えた。聞くと、あれはこの国で1番大きな街の中心部にある空気清浄機なんだそうだ。

もちろんこの街にも、空気清浄機があるというので、案内してもらうと、地球でいえば八メートルはあるであろう大きさだった。辺りにはそよ風程度の風が吹いており、この街の済んだ空気はこれが作り出しているのだと説明を受けた。

案内してくれた街人と別れ、今日の宿を探しながら中心街を歩いていると、何やら男の声が聞こえる。声の方へ行ってみると、若い男たちが言い合いをしていた。1人の男が声を張り上げ、拳をふりかざしたその瞬間、私たちの間を強い風が通り抜けた。風というより、大きな分厚い壁が通ったような感覚だった。よほど大きな風がだったのだろう。

風がおさまった後、人々は何もなかったかのように各々の目的へと戻っていった。私は拳を振りかざした彼に、何が起こったのか聞いてみた。

「見た通りだよ。怒りを清浄されたのさ」

怒りを清浄された?どうやらここでは、感情すらも清浄されるらしい。素晴らしい世界ではないか。争いのない世界を実現しているなんて!

旅の傍ら、腰を据える場所を探している私にとって、ここは有力な候補になり得るだろう。引き続き宿を求めて歩いていると、ありふれた形のパンが並ぶ屋台を見つけた。そういえばまだ、ここの食べ物を食べていない。試しにひとつ買ってみることにした。特に感動はないが、普通に美味い。そのパン屋の店主が、ニコニコと話しかけてきた。
「旅の人、ここは初めてかな?それなら、試しにあの酒場へ言ってごらん。面白いものが見られるから」
面白いもの、その言葉に惹かれて、酒場へと向かう。酒場に足を踏み入れた瞬間に、若い男の声が聞こえた。
「この街の在り方は間違っている!今こそ声を上げる時だ!」
どうやら若き革命家たちの集まりのようだ。不思議な静けさの中で話し合いが行われている。それに、気付けば酒場特有の喧騒がない。近くで飲んでいる人に革命家たちのことを尋ねると、
「熱すぎる空気や、大人数の盛り上がりは清浄されちまうんだ。あんた旅人だろ?1度経験してみろよ。熱い想いが清浄され、冷めていく自分の気持ちをさ」

*こちらの記事は投げ銭式となっております。いただいたサポートは活動資金にさせていただきます。面白い!と思っていただけたのであれば、ポチっとお願いします。有料ゾーンには、ちょっとした小話を書いております。美樹

ここから先は

827字

¥ 100

いつもお読み頂きありがとうございます。頂いたサポートは活動資金やメンバーを楽しくさせること使わせていただきます。