好きなことを仕事にして休職するまでの話#4 建築への情熱再燃|高専中編
救いの週1授業
人生最大の「好きなこと」に対し、嫌悪感を抱くようになった頃。
当時の私にとって唯一楽しいと思える授業があった。
それは「造形」と呼ばれるもので、間伐材(木の角材)で家具を作る授業だった。
この授業の目的は、家具を作る過程のなかで、より人体に関わる身近な寸法感覚を知ること、造形物の制作過程や仕組みを知ることだった。
歴史上偉大な建築家たちも、建築物だけでなく数多くの家具を残している。
当時の私にとって、その授業はまさに救いの時間だった。建築と近すぎず遠すぎず、完全には離れていない距離で関われる時間。
まるでマンネリ気味の恋人同士が取る行動のようだが、とにかく私にはこの時間が心の支えだった。
自分で家具を設計し、1/30サイズの模型で試作して、実際に作る。工具を使って木材を切ったり、やすりがけして塗装したり…
設計とはちがった形で向き合う「ものづくり」が楽しかった。
そして授業自体は製作だけでは終わらず、秋に行われる町イベントに作品を出展し、地域の方にプレゼントするまでがゴールだった。
イベント当日は自分の家具に興味を持ってくれた方に、自分の考えやこだわり、使い方やメリットをプレゼンした。さながら某テレビ通販の販売員のごとく、凄まじい熱量で。
「これかわいいね、すごく欲しい」「使いやすそう」
そういった声をもらうたび、自分自身を褒めてもらえたような、今の自分を認めてもらえたような、そんな気持ちでいっぱいになった。
引き取り手が決まって直接手渡した時は、つい泣きそうになってしまって、鼻の奥がツンとした。
「ああ、私やっぱりものづくりが大好きだ」
私はこの授業を終えたとき、自分の「好き」の原点を思い出すことができた。
建築への思い、再燃
「設計以外でのアプローチなら、まだ私は建築を好きかも知れない」
そう思った私は授業とは別で、個人的にロゴデザインコンペに挑戦することにした。
そのコンペは高専のデザインコンペティション、通称デザコンの大会ロゴを製作するものだった。デザコン本選のサブコンペとして開催され、当日会場で来場者投票によって採用案を決定する。見事1位となり採用されれば、今後の大会でのグッズやポスター、HPにも実用されるとのことだった。
コンペの助言は恩師S先生にお願いした。
設計に意欲的になれない私は、このコンペに関われば何か変わるんじゃないか、と期待していた。
提出締切の3週前くらいにS先生に参加意思を表明し、毎日放課後の教室で手書き案を書き直しては、手書きメモの写真をメールで送ってアドバイスをもらった。
提出締め切り目前、ロゴデザインのプレゼン資料が完成した。
数ヶ月ぶりに「これは私が作ったものだ」と、自信を持って言える何かを作ることができた。
コンペの結果は2位だった。
だが不思議と悔しさはなかった。結果がどうであれ「私の作品が1番だ」と本気で思えた。
後から関係者に聞いた話だと、何十件もあった応募作品のうち、最優秀者と私の作品の評価は僅差だったらしく、他作品とは投票数で大きな差をつけていたのだそうだ。
うーん…今思い出すと、やっぱりちょっと悔しいかも知れない。笑
でも当時は間違いなく、悔しさ以上の嬉しさがあった。
「まだ私には熱中できる何かがある、自分の作品を好きになれる」という事実が嬉しかったのだ。
このコンペでの経験は、残りの高専生活2年を過ごすにあたり、大きな支えとお守りになってくれた。
今でも「あの時挑戦してよかった」と心から思っている。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?