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NHK 戦慄の記録「インパール」再放送を見て

1,はじめに

変な党が国会をざわつかせているが(NHK から国民なんちゃら党)、一方私はNHKまだまだ捨てたもんじゃない、なかなかいい番組作ってるね、と時折感心して見ている今日このごろなのである。
さて、これから書くのは「戦争」についての記事である。今更ながらの太平洋戦争の記事など、今の若いみなさんは興味もないだろうし、まず読まないだろうから、ていうか読まなくていいから、おじさん、この記事の結論を先に言っちゃおうと思う。

戦争はいけない。絶対してはいけない。

何故なのか?
答えはいくつもあるのだけれど、今回、同じテーマで新旧の番組を見て、比較して分かったのは「戦争と軍隊は、兵隊を虫けらにしてしまう」ということだった。
ここでいう兵隊=下級兵士とは、徴兵で戦争に行った市民、つまり75年前の私であり、あなたであるからである。私とあなたが徴兵葉書一枚で、戦場に連れ出され、虫けらのごとく戦わさせられるからなのである。これから語る番組はそれを含意している。

2,NHKのドキュメンタリー番組

お盆前後のNHKは面白かった。終戦記念日を一つのメルクマル(節目)として、太平洋戦争を中心としたドキュメンタリー番組が数多く放送されるからだ。そのなか幾つか逃して、それでも4番組を観ることができた。

幻の巨大空母「信濃」
昭和天皇は何を語ったのか、拝謁記
激闘ガダルカナル 悲劇の指揮官
そして
「戦慄の記録 インパール作戦 完全版」
2017年版の再放送である。

下で触れる、同じインパール作戦をテーマにした1994年6月13日、NHKのドキュメンタリー番組
ドキュメント太平洋戦争、4,責任なき戦場
がyoutubeに挙げられている。

ここでは、新旧ふたつの番組を比較することで学習できた、私なりの、ある一つの到達点を報告したいと思う。

3、戦慄の記録「インパール作戦」2017年版の再放送を見て

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「(インパール戦で、)確かに将校や下士官は死んでいない、死んだのは兵隊や軍属が多いのだ。敵ではなく日本の軍人をこれだけ殺したら(それだけの激しい戦闘をしたら)(インパールは)取れ、作戦は成功するとした軍の上層部(なのだ)」
そんなメモをノートに残した斉藤博圀少尉は、時が過ぎ、介護を受ける老爺ろうやになったいま、こう話す。
「悔しいけれど、兵隊(下級兵士)に対する考えはそんなもんです。(その内実を)知っちゃったら辛いです」そういいながら、老いた少尉は泣き出すのである。

NHKが2017年制作放映したこの番組「戦慄の記録 インパール作戦」は放映後大きな反響を得た。今回見たのはその再放送である。この番組の特徴は、数少ないインパール従軍兵士へのおそらくは最後となるであろうインタビュー、そして現地の老ビルマ人への聞き取り、を通して太平洋戦争最大の無謀な作戦といわれたインパール攻略を振り返っている。
死んだ兵士の数は、作戦途上ではなくむしろ作戦が中止され撤退の時にこそ多かった事実、そこでは死んだ兵隊の肉を切り取り食とした衝撃的な話など含め、死因のほとんどは広い意味での餓死(餓死そのものと飢餓が原因の病死)であった事を示していたのも注視される。とりわけ私が驚愕したのは、後半で斉藤博圀元少尉が記録した、達筆な記述のノートが紹介され、老爺となった彼にインタビューをした部分だ。斎藤老人はまだしっかり話すことができていた。

彼はビルマ第15軍司令部、牟田口司令官付の少尉だった。
作戦途中、日々、詳密に記録した司令官たちの会話。「何千人殺せば敵地が取れる」と、それは敵兵の数かと思ったら、味方の兵を示していた司令官たちの会話。また後日、自らも、死線をさまよいながら敗走していく道すがらで見た、街道沿いに、死んでいく兵隊たちの惨めで凄惨な姿を、克明に達筆に記録しつづけていたのだ。
「よくみつけたなあ、あまりみたくない」と語る斉藤さん。

そして番組のエンディングでは、「国家の指導者層の理念に疑いを抱く・望みなき戦を戦う・世にこれほどの非惨事があろうか」と、彼が記録しづけたノートから引用した一文を紹介し、番組は終わる

ジャーナリストの古谷経衡は1994年放映の番組「責任なき戦場ビルマインパール」の方が、作戦の無意味さ全体を理解しやすいと語っていた。
私は今回、改めてyoutubeに残されている以前の番組を見た。
確かに古谷のアドバイス通りに作戦の全体像は1994年版のほうが理解しやすい。そして面白いことに、当時まだ元気だった、中佐や少佐達が番組のインタビューに応じているのだ。補給のないままに行軍した失敗などを、しかも饒舌に、語っていたが、私たちが生きている今現在の「視線」「視点」で見ると、揚々としてテレビに語る彼ら指揮官たちこそが、本来責めを負うべき者であり、厳しい縦社会であった軍隊の弊害と言える、上官への過度の忖度のあまり態度を曖昧にし、多くの兵隊を死地に追いやったのではないかとの想像に難くない。まあ佐官たちがテレビの前に登場しただけでも、責任と贖罪の意識があってのことなのだろうが。
でも私は、寧ろこの斉藤少尉の克明なノートを探し当て紹介したという意味においても、下級将校、下士官、兵士の視線の高さで、全編を作り上げているというその一点で、2017年度版を重要視したいと思う。前もってインパール作戦の基本知識を入れておくのは必要なのだけれど。

5,まとめ

私は思うのだ。
軍隊の殆どの司令官たちがいかに下級兵士の命に対する責任など、これっぽっちも持ち合わせてはいなかったという、戦争と軍隊に対する憤りを「悔しい」と語り「泣き出す」元少尉のこの気持ちを、私たち市民はしっかりと心に刻みこまなくてはいけない。
戦争と軍隊は下級兵士を虫けらにしてしまう。
ここから言えるのはこうだ。今生きている我々市民は、つまり市井に生きる一般人たる私たちは、過去を学習し知識を得て、目前にあるその時の時流に流されず、謬見に惑わされず、出来事「モノ」の裏に隠れている「コト」をしっかりととらえて、自分で判断していかなければならないと言うことだ。眼光紙背に徹する、だ。