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自分の心が動いたものを、素直に作っていきたい。【吹きガラス作家:藤井友梨香】

世界中がマスクなしに生活していた終わりの頃。わたしと同じカメラを持つ、ひとりのおねえさまとお友達になった。

直接お会いしたのはたった3回。でもその度に、わたしの心のなかでちょっと迷子になってしまっている本音を、ぽろりと吐き出させてくれる。そして極め付けには「sanmariちゃんなら大丈夫」と励ましてくれる大好きな大好きなおねえさま。

昨年の個展の前に彼女のインタビューをさせていただいたのだけれども、お互いバタバタしてしまっていて。すっかり公開のタイミングを失ってしまっていたところ、「今年の個展の時期がやってきたよ」とお知らせをいただいた。

温めていた大切な大切なこの記事を公開させていただくのは、きっと、今なのだろう。そんなことを考えながら。

【以下、インタビュー記事】

繊細で透明感のある作品を世に送り出す、吹きガラス作家の藤井友梨香さん。爽やかな笑顔で、でも力強く「体育会なんです」と語る友梨香さん。「吹きガラス」という技法に「有線七宝」を組み合わせる彼女独自の世界観には、「好き」がたくさんつまっていました。(以下、藤井友梨香)

▪️好きなことを仕事にしたいと思い、進学しました。画像1

私がガラスと出会ったのは、高校生のとき。進路を考えていたタイミングで、万華鏡の本に出会ったのがきっかけです。万華鏡の筒の部分をガラスで作る職人さんの姿を見て、「私、ガラスが好きだな」と思って。好きなことを仕事にしたい、そう思って女子美術大学のガラスコースに進学しました。

▪️吹きガラスの魔法のようなパワーに魅了されました。


吹きガラスって、本当に難しいんです。その上、「ついていけなくなると脱落する」みたいな体育会系のノリがあって。だから、そういう雰囲気が無理だなっていう人は、大学1年生の間に別の技法に移っていきます。

でも私は、その難しさに逆に惹かれたんです。中・高と体育会系の部活動をしていたこともあってか、体育会系のノリには慣れていたんですよね。難しからこそ「絶対にできるようになりたい!」って思ったんです。

溶けたガラスって本当にすごいんですよね。パワーがあって。初めて吹きガラスの現場に行って、溶けてるガラスを見たときに、本当に「魔法みたい」と思ったんです。溶けながらオレンジ色に光っているその様子にすごい感動して。難しいけれど、それを扱えるようになりたいっていう思いが強くなったんですよね。ただ、万華鏡の制作となると数学的要素が強くなってしまいます。数学が苦手なのと、吹きガラスの魅力にハマったことが重なって、吹きガラス作家として歩むことにしました。

▪️作家人生で極めていきたいと思える技法が「ガラス胎有線七宝」だったんです。


大学卒業後は、工房やガラス工芸の最先端アメリカへの留学を通して吹きガラスの技術を磨いていったという友梨香さん。現在取り組まれている「ガラス胎有線七宝」の元となる七宝焼きとの出会いも、万華鏡のときと同じくたまたま手に取った本がきっかけでした。

七宝焼は銅の生地に銀線とか金線とかで模様を残すというのが一般的な技法なんです。本に載っている写真のガラスを見ると、七宝の表現がすごくガラス質であることに気づいたんです。一般的には銅に施す技法だけれど、ガラス生地にも施すことができるのでは?と思って実験を始めました。

「有線七宝」では、細かい模様を出すために、金線をピンセットで曲げながらガラスにつけていくんです。これが本当に細かい作業なんですけれど。もともとこういう細かい作業が好きなんですよね。確かに難しかったけれど、これからの長い人生を考えた時に今習得して、今習得できたらずっとそれをやっていけるから、今は焦らずにやろうっていう気持ちで試行錯誤を続けました。


▪️「有線七宝」は自分が極めていこうと思える技法です。


でも、やり始めると全然できなくて何度も失敗したんです。結局、習得には約3年かかりました。

まず、ガラスに対して金属は不純物なんです。だから、ガラスに金属を焼きつけようとするとヒビが入ってしまったり、思い通りの色が入らなかったりするんです。試行錯誤をしていた期間は、自分の思うような表情を出せなくて……。焼き付ける温度を変えてみたりいろんな種類の銅線を使ってみたりと、取り憑かれたかのように実験を重ねました。とにかく、あの日々は必死でしたね。

でもやっぱり、作家として生きていくとなると自分の武器じゃないんですけど、強みを持たないと生き残れないんですよね。「ガラス作家」って一括りにしていうとたくさんいて。人と同じことをしていても、埋もれてしまうんです。

「吹きガラス」という技法と有線七宝を組み合わせた作品を作っているのは、今のところ私が知る限りは他にいないんです。だから、「有線七宝」という自分が極めていこうと思える技法に出会えたことは、大変だけれど有難かったなと思っています。

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▪️人が表現するものって、健康的な気持ちから生まれてくるものの方がいいなって気づきました。


2018年に、やっと「ガラス胎有線七宝」の作品で個展を開くことができたんです。ただ、必死さから焦る気持ちが先走るようになって、作品作りを楽しめなくなってしまいました。バランスを崩してしまっていたんですよね。

その頃の私は、作品作りに集中するため家にWi-Fiも引かず、家族以外ともコミュニケーションをとらない生活をしていたんです。静かに集中するために周りの余計な情報を入らないようにして、変に惑わされたくないというか、変な影響を受けたくないというのがすごくあったんですよね。まるで、セルフ自粛モードです。

でも、そんな自分ではいけないと思って昨秋の個展終了後、純粋な旅行目的でウズベキスタンを訪れたんです。そこでの経験があまりにも感動的だったので、noteに旅行記を書いてみました。

でも、いざ文章にしようと思うと難しいんですよね。他の人はウズベキスタンでどのようなことを感じたのだろうと思って検索した時に出会ったのが、古性のちさんの記事でした。

彼女が撮ったモスクの写真を見た私は「なんでちゃんと写真撮らなかったんだろう」と思ったんです。私、ウズベキスタンにはiPhoneしか持っていっていなかったんですよね。写真を撮るのは好きだったんですけど、ガラス以外のことをする暇があるんだったらガラス作らなきゃという、私の全てをガラスに捧げていないといけないような気がしていて。

そんな中のちさんのモスクの前で女の子がスカートを翻している写真を見て、彼女がその空間自体を楽しんで撮っているのがすごい伝わってきたんです。人が表現するものって、そういう喜びとか、なんかもっと健康的な気持ちから生まれているもののほうが気持ちがいいなって気づくきっかけになりました。

▪️感覚が気持ちいい状態でいると、できたものの伸びやかさが変わったように感じています。


のちさんの記事を見てから、ガラス以外のことももっとちゃんとできるようにならないと、ガラス作家をずっと続けていくのは無理だなって思うようになりました。

そこで、カメラで写真を撮ることを始めたんです。ウズベキスタンで写真を撮ればよかったなという後悔が残ったので。撮ることを仕事にしたいというよりは、自分の内側からの欲求に素直になることにしようと思ったんです。実際にカメラを持って、自分の「やりたい」に素直になると、普段の生活でも出会うものががらっと変わりました。

私は逗子に住んでいるんです。以前までの私だったら駅まで行くのも最短ルートを選んでいました。でも、「こっちの道のほうが気持ちよさそうだから、こっちの道通ろう」と自分の欲求に素直に歩いてみると、今までに出会うことのできなかった植物に出会えるんですよね。

そうやって生活を変えていく中で、ガラスを吹いたり絵付けをすることが楽しいと感じるようになってきました。

吹きガラスって、体を使って作るものなんです。だから、感覚が気持ちいい状態でいると、疲れている状態で吹くものって結構違っていて。できたものの形の伸びやかさが、変わったように感じています。

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▪️自分の心が動いたものを素直に作品にしていきたい。


ガラスには、つい植物を描いてしまいます。今年の春自粛期間だったっていうのもあって、家の周りを散歩していたんですけど、山野草がすごく綺麗で。家の裏が森なんです。そこの森に行って、今まで見たことなかった山野草とかを見て感動して、それを描きたいって、内側からの衝動だったんですね。そういうものを素直にやっていきたいなと思っていて。今は植物が多いけど、これから色んな所を旅できるようになったら、旅先で出会ったものになるかもしれないし、自分の心が動いたものを素直に。

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✳︎オンライン個展✳︎

2021.5.15 sat. - 5.23 sun
藤井友梨香 展 「やまうたう」

Profile

藤井友梨香
1986年 山口県生まれ神奈川県育ち
2008年 女子美術大学 ガラスコース卒業
2008年 彩グラススタジオ勤務 (~10')
2010年 富山ガラス工房勤務 (~13')
2014年   シアトルにて Steffen Dam 氏 アシスタントカナダにてNaoko Takenouchi氏 アシスタント
2015年   個人にて製作活動を開始

interviewer:伊佐知美 camera:安永明日香伊佐知美






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