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いつかわたしたちもプリンセスに〜『リトルマーメイド』鑑賞記〜

コンテンツの消費と共感というのは切っても切れない間柄だと思う。どんな主題であれ、もし自分だったらと置き換えて感情移入することで、より深く思考を巡らせられるし、それがまた楽しい。

そんなわけで、実写版『リトルマーメイド』を鑑賞しながら考えたのはやっぱり、ハリーベイリーという黒人女性がアリエルを演じ切ったということ。そもそも、彼女の起用理由が圧倒的な歌唱力や演技力といった実力だったということ。

リトルマーメイドは、吹奏楽経験者にはお馴染みの音楽たちばかり。世界観を表現できるよう、演奏する機会が訪れるたびに何度も見返したアニメで。

その主人公アリエルといえば、幼い頃に憧れたプリンセスのひとり。ふわっふわの赤毛にパッチリとした青い目の白人の人魚。童話アンデルセンのどこにもアリエルの人種なんて書いていなかったけれども、アリエルといえばやっぱりあのアニメキャラクター。

だから、実写版のキャストが発表されたときは、世の中がどよめいたようにわたしもなんだか不思議な気持ちになった。彼女を否定するわけでも、肯定するわけでもなく、そういう可能性もあったのかと。

かといってそこまで熱烈なディズニーファンでもないので、わたしの中では動画配信されたらそのタイミングで観ようのリストに入っていた。先週までは。

ところがどっこい。先週末に聴きに行った吹奏楽の定期演奏会でリトルマーメイドメドレーを聴いて、その翌日に劇場の音響でミッションインポッシブルを鑑賞してしまったわたしは「リトルマーメイドも、劇場の音響で楽しみたい!」となってしまったので、劇場へ。関東って、映画館たくさんあるから観たいタイミングで観たい映画が上映されているの本当に最高。

しかも、字幕上映。(洋画、公開終盤になると吹き替えばかりになりがち)

で、鑑賞しながらディズニー映画の醍醐味であるヒロインの歌唱力に圧倒されながら135分。やっぱり今回も劇場が明るくなって一番に出てきた言葉は「音がよかった……」でしかなかった。

ハリーベイリーの歌声、最高だった。本当に彼女は、アリエルだった。とにかくずっと圧倒されていたのだけれども、最後の最後にアリエルとエリックが旅に出るときに陸の人々と海の人々がそれぞれわーっと集まったでしょう。あのシーンで、いろんな人種のいろんな性別の人魚が出てきたシーンが鳥肌ものだった。

先に書いたように、原作のアンデルセン物語に人魚の人種について記載はない。そもそも人魚なんて誰も見たことがないのだから、今のところ想像上のキャラクターでしかない。だから、白人かもしれないし黒人かもしれないし黄色人種かもしれない。一重かもしれないし二重かもしれないし、さらっさらの髪の毛かもしれないしゴワゴワのドレッドかもしれない。そんなの、誰もわからない。

つまり、オーディションで選ばれるべきアリエル像は、歌唱力演技力の高い女性子どもたちに夢を与えられる存在であること。だったのではないかと思う。

そういう意味では、彼女の歌唱力と演技力は素晴らしかったし、黒人のプリンセスが誕生することによってこれからを生きる子どもたちが「プリンセス」というワードを見て連想できる女性像がグッと広がった。黒人のプリンセスって、やっぱり圧倒的に少ないから。有色人種の子どもたちが「わたしもプリンセスになれる」と思える作品がひとつでも増えることって希望なんじゃないかなって。

というのも。わたしには、聴覚障害があって補聴器を装用していて、時と場合によっては手話で思考することもある。聴覚障害者というだけでも少数なのに、手話を思考の言語に使う人はまたさらに少ない。

そんなわたしたちにとって、手話を使う女の子がヒロインになった『オレンジデイズ』や補聴器をつけた女の子がヒロインだったアニメ『聲の形』は衝撃だった。補聴器をつけていても、手話をしていても、物語の登場人物に、ヒロインになっても良いのだというのは希望だった。

あれから、女優や俳優になりたいという聴覚障害者の数は同年代や後輩たちを中心にぐっと増えたように感じる。確かに、聴覚障害者を起用するのは黒人を起用するのとは訳が違って、通訳が必要になったり音声での発信に限界があったりする。

でも、日本の映画やドラマに海外のキャストが登場する際には、当たり前のように通訳がつくし、彼らが母国語で演じる際には字幕がつくなどの工夫があるわけで。だから、聴覚障害者を起用する際にも同じことをすればいいじゃんと思うのだけれども現実としてはなかなかこちらは進んでいない。

男性の役は男性が、女性の役は女性が演じるように、聴覚障害者の役は聴覚障害者が演じた方が自然なのになとは常日頃から思っているけれども。

だからこそ、圧倒的歌唱力と演技力と子どもたちに夢を与えられる存在として黒人のプリンセスが声高らかに歌い、いろんな人種の人魚たちがエンドを飾るリトルマーメイドは、わたしの心をグッと掴んだ。これを見て、プリンセスへの憧れをもつ有色人種の子どもたちが増えるだろう。

その子どもたちが大人になる数十年後、わたしたちのプリンセス像はきっと少しずつ多様化し、いつか耳のキコエナイプリンセスだって誕生するかもしれない。そんな未来にわくわくできる、素敵な映画体験だった。

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