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2021.10.10 鴻雁来(こうがんきたる)ーちょっとした心配りを積み重ねていきたいー

体調を崩して2ヶ月もお稽古をお休みしていたというのに、今日も外は30度近い暑さだった。

わたしがお稽古をお休みしていた約2ヶ月の間、季節も移り変わるのをお休みしてしまっていたのだろか。そうちょっぴり心配してしまうような青空の中、お稽古場に向かった。

玄関の引き戸を開けて、気持ち大きめの声で「こんにちは」と声を掛ける。今日は日曜日だから、先生の旦那様も御在宅。

「すこし痩せたんじゃないの?」なんて心配してくれる人がいること、そこにいてホッとできる人がいることって本当に幸せだなぁと、つい顔が綻ぶ。旦那様に「あとでお茶をお持ちしますね」と伝えると「おいしく点てられるかな?」なんておちょくられるのもまたこそばゆい。

昼間はまだまだ「暑い」という言葉がぴったりのような気もするけれど、カレンダーはもう10月。お点前も今日は夏のものをひとつと冬のものをひとつ。

お茶というと年がら年中シャカシャカと茶筅を動かしているだけのように見えるけれども、夏は風炉、冬は炉でお湯を沸かす。風炉よりも炉の方がお客様に近くて大きなお釜を使うから、部屋中があったかくなる。

その場が涼しくなったり暖かくなったり、お客様にとって居心地の良い空間を作るためのほんの小さな工夫が、あちこちに散りばめられている。ボーッとしていたら多分気付かないんだろうな…なんて思っちゃうくらい些細な違いだけれども、誰かが気を遣ってくれているからこそ無意識に居心地が良いことってたくさんあると思う。

そういえば、わたしの職場にはカラー印刷機が一台だけある。職員が20人もいない小さな部署だから人数に対して相応な台数だと思うんだけれど、時間帯によってはだいぶ混み合う。

先日、やっと資料が出来上がって「よし!印刷するぞ‼︎」と思って印刷ボタンをクリックして足取り軽く印刷機の前に向かったら、わたしの直前に100枚ちょっとの印刷が始まったらしくなかなかわたしの資料が出てこなくて、しょんぼりした。

「先越されてしまった……」と肩を落としていたら、わたしの次に印刷ボタンをクリックした上司が「あっ……」と言って呆然としていた。わたしもその上司もA4サイズたった一枚の資料だったこともあって、顔を見合わせて苦笑していた。

印刷機の使用について特に決まりはないんだけれど、今の部署もその前も大量の印刷やケント紙みたいな良い紙を使って印刷するときはその直前に「今から〇〇の印刷します!」って声を掛けるのが暗黙の了解みたいになっている。印刷を急いでいる人は「先に一枚印刷させてください!」とお願いするし、そうでなくても(あと数分は印刷機が使えないんだな)となんとなく心の準備ができるような気がしている。

だからわたしも、大量の印刷をしたり特別な紙を使ったりする前に一言「今から〇〇の印刷をします!」とその場にいる人に声を掛けるようにしていた。今回もわたしの聞こえないところで「〇〇の印刷します!」のひと声があったのかな……とも思うけどなんだか悔しい。

カラー印刷機のこともそうだけど「こうしなければならない!」と決まりがなくても、「それをするとみんなが気持ちよくなれるひと工夫」って、この世界にはたくさんあるような気がしている。

お茶も一応お点前はあるけれど、何か順番を抜かしてしまったときは「気づいたときにそっとその動作を加えれば良いのよ。心を使ってもらっているとお客様が感じられることが大切なんだから」と先生はよくおっしゃる。

その昔、お茶室は戦の合間にホッと一息いれるような場所でもあったそうだ。だからこそ余計にお客様が「よい時間だったな」と心をホクホクとさせて帰れるようなちょっとしたひと工夫が積みかさなって、今のようにたくさんのお点前ができたのかな……なんてことに想いを馳せる。

来月は、はじめてお茶会を主催する予定になっている。お休みもしていたしこれから仕事も忙しくなってくるところだけれど、「こうしないと!」と根を詰めないで、気持ちよく過ごせるひと工夫をたくさん探していきたいところ。

お稽古が終わって旦那様にお茶を差し上げて外に出ると、ゴーッという音が聞こえてきた。頭上に大きな飛行機が飛んでいた。

昼間は、まだまだ夏みたいな空だななんて思っていたけれど、夕方の空はとっても淡くて秋らしくなっていた。ひんやりとした風が吹いてきて、思わず腕をさすって小さく身震いをした。

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