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産業精神保健学会誌「職場のアルコール問題の解決」の読みどころ(JES通信【vol.184】2024.7.10.ドクター米沢のミニコラムより)

 アルコールの話が続いて恐縮です。当社のメルマガ、JES通信にも今回のアルコール特集を紹介したコラムを掲載しましたので転載します。 

 すでにご案内しましたように、米沢が編集委員を務める日本産業精神保健学会の学会誌「産業精神保健」第32巻2号に、特集「職場のアルコール問題の解決」が掲載されました。本特集は米沢と当社スーパーバイザー春日未歩子が編集責任として関わりましたので、今回は各論文の読みどころをご紹介します。
 アルコール依存症は、かつてはアル中(慢性アルコール中毒)と呼ばれ、精神医学の古い教科書には本人の性格的な問題と書かれていました。その後の研究でアルコール依存症は飲酒を続けることで病状が悪化していく、進行性の脳神経の病であることがわかってきました。多量飲酒を続ければ誰でもなる可能性があるのです。進行度によって対応が異なってくるため、アルコールに問題がある人は「アルコール使用障害」と広く捉え、柔軟に対応する考え方に変わってきました。本特集はそのような視点から、アルコール問題を作り出さない健康的な職場文化の醸成や予防教育、多量飲酒者への早期発見・早期介入、そして依存症者の早期治療や治療後のフォローまで視野に入れた論考で組み立てられています。

▼特集 職場のアルコール問題の解決


1.特集にあたって(米沢 宏, 春日 未歩子)

 運送業など一部の業種を除けば、飲酒が職場全体の問題として捉えられることはまだまだ少ないと言えます。しかし今やアルコール問題は「健康経営優良法人」調査票の項目に入るなど、産業界の注目が高まってきています。産業革命から始まった職場のアルコール問題の歴史と職場でどのような問題が起きうるのかを解説しました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_161/_pdf/-char/ja

2.アルコール使用症の概念の変遷と現状,今後求められるアプローチへ
(湯本 洋介)

 湯本先生には本特集の総論部分を執筆いただきました。アルコール使用症の概念の変遷、「自己治療仮説」の紹介、現在の診断基準、200を超えるアルコールによる疾患や怪我、世界の状況と日本の現状、そして問題解決の鍵となるブリーフインターベンション(日本ではSBIRTSが有名)についても解説いただきました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_165/_pdf/-char/ja

3.アルコール代謝と健康障害(横山 顕)
 横山先生にはアルコールが引き起こす多種多様な健康障害を、日本人のアルコール代謝能力の特徴も含め解説いただきました。日本人の約半数はアルコール代謝が弱い遺伝子を持ち、飲酒すると顔が赤くなります。遺伝子検査で自分の体質を知り、根拠に基づいた飲み方を考えるアプローチは、今後、健康経営の施策の一つになり得ると考えております。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_171/_pdf/-char/ja

4.アルコール問題に対するハームリダクションアプローチ―職場での応用―(高野 歩)
 高野先生には近年注目を集めるハームリダクションの考え方を紹介いただきました。すでに述べたようにアルコール使用障害の進行度は人によってさまざまなので、個々人の特性や環境に合わせてハーム(害、悪影響)を最小限にするという考え方が産業現場では必要ではないかと考え、執筆をお願いした次第です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_178/_pdf/-char/ja

5.職場のアルコール問題と予防教育(田中 完)
 田中先生は専属産業医として職場のアルコール問題に熱心に取り組んでこられました。現在は神栖産業医トレーニングセンターで後進の指導に当たられていますが、田中先生が職場のアルコール問題をどのように捉えてきたか、またその問題の解消のために試みられた対応の工夫などを解説いただきました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_184/_pdf/-char/ja

6.職場で使える!アルコール使用障害の予防のための簡易介入プログラム
(角南 隆史)

 肥前精神医療センター杠岳文先生のグループは、20年以上前から職域や地域におけるアルコール問題の早期介入プログラムHAPPYなどを開発されてきました。今回は角南先生に、スクリーニングテストAUDIT (Alcohol Use Disorders Identification Test)をはじめとする簡易介入プログラム・ツールを紹介いただきました。ほとんどがWeb経由で自由に利用できますので、ぜひ産業現場でご活用ください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_190/_pdf/-char/ja

7.アルコール使用障害への動機づけ面接によるアプローチ(北田 雅子)8.産業保健職が行う減酒指導(米沢 宏)
 アルコール問題に限らず健康指導の面接では、従業員が問題の改善をためらい、課題を実行しないことが少なくありません。「問題を改善した方がいい」という思いと、「今のままが楽だ」という思いがせめぎ合っているためと考えられますが、そのような人に関わる際に大きな助けとなる動機づけ面接について、北田先生に解説をお願いしました。それを受けて産業保健職が行える簡易な減酒指導を米沢が解説しました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_197/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_203/_pdf/-char/ja

9.内科で行うアルコール低減外来の実際,および健康に配慮した飲酒に関するガイドラインについて(吉本 尚)
 内科医はアルコール問題の対応に長年苦慮してきました。「禁酒しないと命に関わりますよ」と忠告しても飲酒が止まらないのです。吉本先生には筑波大学附属病院の総合診療科「飲酒量低減外来」の活動を紹介いただきました。吉本先生は厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の委員でもあるため、その解説もお願いしました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_210/_pdf/-char/ja

10.アルコール使用障害に対する専門外来治療(倉持 穣)
 アルコール問題は一般の精神科や心療内科では十分に対応できません。必ずアルコール専門機関を紹介していただきたいのですが、倉持先生にはアルコール外来でどのようなアプローチを行っているのか解説をお願いしました。一人ひとりの患者さんに実に丁寧に向き合い、さまざまなパターンを想定して対応される様子がわかると思います。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_216/_pdf/-char/ja

11.アルコール使用障害の入院治療と職場連携(垣渕 洋一)
 最後に垣渕先生に入院治療の解説をお願いしました。入院の適応や導入の仕方、入院中のプログラムや患者さんの変化の様子、自助グループの重要性についても述べられています。また、入院中から病院と職場が連絡を取り合い、職場復帰に向けた準備を話し合っていくことは、職場の安心感につながるのではないでしょうか。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjomh/32/2/32_223/_pdf/-char/ja

 今回の特集が職場のアルコール問題に取り組む産業保健職や人事労務の方々の一助となることを願ってやみません。

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