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「災害の夏」を乗り切ろう(JES通信【vol.168】2023.8.10.ドクター米沢のミニコラムより)


1.熱中症に注意!

●7月は過去125年で一番暑かった!!

 とんでもない暑さが続いておりますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。今年7月の平均気温は過去125年で最も高かったそうです(資料1)。国連のグテーレス事務総長は、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が来た」(資料2)と声明を発表しました。消防庁の「夏期における熱中症による救急搬送人員の調査」によると(資料3)、令和5年7月24日から30日の間に全国で救急搬送された方は11,765人で、前年同時期の6,679人の1.8倍となっています。

●熱中症の応急処置

 熱中症の応急処置は、環境省のフローチャートがわかりやすいと思います(資料4)。熱中症を疑う症状があったら、呼びかけに応えるか、自力で水分を摂取できるか、水分を摂取して症状がよくなるか、という3段階で判断します。軽症であれば涼しい場所に移動し、体を冷やしてください。可能であればバスタブに氷水をはって全身を冷やすのがお勧めです。屋外で倒れている場合は水道水を体にかけ続けてください。冷却ジェルシートは気持ちが良いですが、熱は下がらないので熱中症対策には使えません(資料5)。

●熱中症予防は体温を上げないこと

 熱中症対策で最も望まれるのは、暑い場所に行かないことです!屋内であればエアコンなどで涼しくし、ともかく「体温を上げない」ことです。しかし多くの方は通勤・通学など、暑い屋外で一定時間過ごすことが避けられません。日傘や帽子などで太陽の光を直接浴びないようにしてください。通気性がよく吸湿性・速乾性のある衣服を選び、保冷剤や冷たいタオルを持ち歩くのもよいでしょう。ちなみに私は数年前に「日傘男子」デビューしました。

●水分補給

 熱中症では脱水が起こるので、水分補給も重要です。外出が多い方や運動時の水分補給は経口補水液をお勧めします。屋内での日常生活では普通の水で大丈夫です。喉が渇いたら飲むのではなく、屋外なら15分に1回、屋内なら30分に1回くらいのペースで口にすることをお勧めします。熱中症なんて大したことないと思うかもしれませんが、毎年数百人が亡くなっています。ここ数年、厚生労働省(資料6資料7)、日本気象協会(資料8)、環境省(資料9)、日本赤十字社(資料10)など、公的機関からの情報が充実してきました。ぜひご確認ください。

2.コロナはどうなっているか

●熱中症?実はコロナ…

 先月も記しましたが、今年の5月以降、感染者数は増え続けています(資料11)。救急外来・発熱外来の医師の話では、「熱中症になった」と受診する人の中に、コロナの人がけっこういるそうです。発熱だけでは区別がつきませんが、熱中症で咽頭痛や咳、鼻水が出ることはありません。自己判断せず、受診・検査して適切な治療を受けましょう。

●マスクで熱中症や酸欠にはなりません!

 夏のマスクは暑苦しいものです。3年前には、「熱中症予防のために屋外ではマスクを外しましょう」と私も呼びかけました。しかし最新の研究ではマスクで熱中症や酸素欠乏にはならないことがわかっています(資料12資料13)。人との距離が取れない場合や(密接)、人がたくさん集まる場所(密集)では、屋外でもマスクをつけると安心です。立体型のマスクや冷たく感じる不織布マスクなどを利用して、少しでも不快感を減らしましょう。 

●風邪症状が出たら出勤しない

 「熱くらいで仕事を休むな!」のような「昭和の言葉」はコロナ禍で過去のものになったかと思いきや復活したようで、まだ感染力のある人が職場に出てくるようになりました。今のような流行期の風邪症状はまずコロナを疑って自宅待機し、できれば検査して感染の有無を確認しましょう。

●「症状あるが抗原検査は陰性」の場合は2日後に再検査

 風邪症状が出たので自宅で抗原検査をしたら陰性だった。コロナじゃなかったので出社した、という話もよく聞くようになりました。しかし感染初期にはまだウイルス量が少なく、抗原検査は陰性に出ることがあります。陰性だったら2日後に再検査してください。2度目の検査も陰性なのにまだ症状が続いていたら、念のために自宅待機を続け、さらに2日後に検査して陰性なら、コロナではないと判断し行動して大丈夫だと思います。

●抗原検査陽性が出たら結果を撮影しておく

 抗原検査で陽性が出たら、日付を記したメモとともに検査結果をスマホで撮影して保管してください。後に後遺症が出た場合、感染したことの証明になる可能性があります。業務に伴って感染した場合は労災になりますが、5類移行後は医療機関の証明がないと労災の認定がおりません。労災の可能性がある場合は必ず受診してください。

●感染したらいつまで待機するのか

 5類移行後、感染時は法的な外出制限はありませんが、厚生労働省は発症日を0日として5日目までの外出自粛と10日間のマスク着用を推奨しています(資料14)。万全を期すならば、5日目朝と6日目朝に抗原検査を行い、2日連続陰性を確認して外出を再開するのが望ましいと考えます。抗原検査陽性の間は他人にうつす可能性があると考えてください。

●濃厚接触者になったら

 友人知人と集まった後、感染者が出たと連絡があったらどうしたらよいでしょうか。連絡時点で何も症状がないか、症状が軽い場合は抗原検査を実施しましょう。検査が陰性だったら念のためマスクをつけて行動し、2日後に再検査してください。それも陰性だったら、さらに2日後にもう1回検査を行って陰性を確認し、通常の生活に戻って大丈夫だと思います。
 
 人の動きが活発になり、コロナにかからないで済むのは難しくなってきましたが、妥当な対策を取っていれば、かかっても軽く済み、後遺症を抱えるリスクも低くなります。三密(密集、密接、密閉)回避、換気、手洗い、適度なマスク使用などの基本的な対策を上手に続け、集団感染による職場のマンパワー不足のリスクを皆で低めましょう。

資料

1)https://digital.asahi.com/articles/ASR814K4PR7XULLI009.html
2)https://digital.asahi.com/articles/ASR7X2Q37R7XUHBI006.html
3)https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r5/heatstroke_sokuhouti_20230724.pdf
4)https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_checksheet.php
5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7c0e628d2c73b28fe50a5644fb480545a5acafce
6)https://neccyusho.mhlw.go.jp/
7)https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/index.html
8)https://www.netsuzero.jp/
9)https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_pr.php
10)https://www.jrc.or.jp/study/safety/fever/
11)https://moderna-epi-report.jp/
12)https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/19417381211028212
13)https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0247414
14)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001093929.pdf

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