見出し画像

モヤる力 – ネガティブ・ケイパビリティとは何か(2024年度第2回産業OD勉強会)

 2024年度の第2回産業オープンダイアローグ勉強会を6月27日にオンライン開催しました。参加者は5名でした。


▼なぜネガティブ・ケイパビリティを取り上げたか

 今回はネガティブ・ケイパビリティ (negative capability。以下NCと略) を取り上げました。2022年度の第5回研究会(2022.12.15)で、副所長の春日がタンザニアに滞在した経験から、NCの重要性について言及しています。当研究会が取り組んでいるオープンダイアローグの7原則の1つに、「不確実性への耐性」というものがありますが、これはNCと同じものと考えており、NCについて掘り下げる意義があると考えたわけです。同時に7月23日のセミナーの準備も兼ねていました。

▼ネガティブ・ケイパビリティとは

 NCの定訳はまだありません。負の状況に耐える力とか、性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力、あるいは、どうにも答えの出ない、どうにも対処のしようのない事態に耐える能力などと説明されています。今回の勉強会の準備は以下の2つの書物に目を通しながら進めました。

<図1>

<図2>

 NCがタイトル、またはサブタイトルになっている書籍はすでに数冊出ていますが、帚木さんの本がおそらく最初でしょうか。この本をきっかけにネットのコラム記事が書かれるようになったようです。ちなみに私がNCに気づいたのは2020年、コロナ禍が始まって間もなくの頃だったようです。当時、コロナという得体の知れない感染症に対し、NCという心の持ちようは意義あるものだったと思います。

▼キーツとビオン

 NCは詩人キーツ(1795〜1821)が提示し、のちに精神分析医のビオン(1897-1979)が精神分析の分野でその重要性を提唱したことで徐々に知られるようになりました。
キーツは1817年、弟たちにあてた手紙の中で、シェイクスピアが持っていた能力、そして詩人に必要な能力としてNCに言及しています。ちなみに文学の世界では、すでに昭和初期から詩人キーツを取り上げる中でNCに言及されています
ビオンが初めてNCに言及したのは1970年刊の「注意と解釈」だそうで、73歳の時ということになります。いつキーツの記述を見つけたのかはわかりませんでした。帚木さんは1970年代に「米国精神医学雑誌」に載った、「共感に向けて。不思議さの活用」という論文でNCを知り、ここまで心を揺さぶられた論考は古希に至った今日までないと語っています。

▼保留状態維持力

 帚木さんの本を読み進めると同時に、今年6月に出版された、日本マンパワーの田中会長の書籍も読み進めました。昨年末に私のところに取材に来られた方です。田中さんによると、文学、芸術、宗教、マインドフルネス、哲学、社会構成主義、水平思考と垂直思考、軍事戦略、ビジネスなど、さまざまな分野でNC的なものが見られるとのことです。書籍の第5章は私も含めた10名のインタビューがまとめられていて、第6章でその分析がなされていました。興味ある方はぜひ書籍に目を通してみてください。ちなみに田中さんはNCのことを「保留状態維持力」と呼んでいます。なかなかいい訳ではないかと思います。

▼モヤモヤできる力、モヤる力

 勉強会ではこんな話を提供し、後半はそれぞれが思うところを言葉にしていきました。モヤモヤすることいっぱいあるよね〜とか、私が今モヤモヤしてるのは〜とか、モヤモヤを聞いてほしいんだよね〜など、モヤモヤについての会話が続きました。そうするうちに、「あ、そうか、NCとはモヤモヤできる力ってことか!」と気づきました。モヤモヤできる力。略してモヤる力…。田中さんの高尚な訳に比べるといかにも俗っぽくて申し訳ないです。

▼速い脳と遅い脳

 私はコロナ禍でNCに注目したと書きました。コロナ禍におけるリスクコミュニケーションについて、学会発表や論文発表をしましたし、noteにも書きました。情報を発信する側と受け取る側双方に問題があってトラブルが起こると考えています。受け取る側の問題を考えていくと、人間の認知機能は速い脳と遅い脳という2つの側面があって、NCというのは突き詰めれば遅い脳をもっと使えということではないかという思いに今回たどり着いた次第です。
 7月23日のセミナーの報告noteではこの辺をもう少し細かく書いてみようと思います。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?