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夜中の電車で娘とふたり、ヘトヘトな私に、おじさんが……

その日は、2人とも疲れきっていた。

先日は、 友人親子と久しぶりの都会でのお出掛けがあり、娘5歳と私はすっかり帰りが遅くなってしまったのだ。
1日、近い年の子と遊べて娘も楽しそうだし、私も楽しかった。帰りたくないと娘は走り回り、テンションマックスのまま友人と別れた。

だが、電車で帰らなければならない母と娘、そこから先が長い。都会からは乗り換えもあり、うちにつくのはいつもなら夢の中にいるはずの真夜中。
こんな夜中に電車に乗るなんて何年ぶりだろう。しかも今回は子連れ。
かつての私なら、そんな親子を見たら、あららと思ったことだろうな。
ヘトヘト、後悔、罪悪感、申し訳なさ、いろんな感情がまざりあっていた。

なんとか乗り換えの駅までたどり着き、ホームで電車を待っていると、ずっとテンションがあ高かった娘が、とうとう抱っこ抱っこと叫び始めた。
「ごめんね、もう眠いよね、いつもなら寝てる時間だもんね」

娘を抱き上げながら、呟く。本当はもう5歳、なるべく抱っこしたくない。ベビーカーなしで18キロ+荷物は辛い。でも、娘も1日たくさん歩いて走っていたのを知っているから……甘えて顔を寄せる娘をヨイショと抱きなおす。

「こんな小さな子をこんな時間まで出歩かせて」


そんな声が聞こえた気がして、それは確かに空耳のはずなのに、いや、空耳なのに、近くのおじさんにそっと目をやる。

ヒゲ豊かで恰幅のよい、ハリー・ポッターに出てきそうなおじさんは、しかめっ面だ。
こんな夜に駅で、娘がうるさくてすみません。

もし今、怒鳴られたり、キレられたら、娘を守れるだろうか……。この時間、呑んできている人もいるからと思うと、ドキドキする。

なるべく小さくなりながら待っていると、ようやく電車が滑り込んできた。そこそこ混んでる……。

ドアがあくと、おじさんが先に乗り込んだ。覚悟を決めて乗るも、空いている席は並びの二つだけ、その一つにもう既にそのおじさんが座ろうとしている。抱っこで立つしかないか……。

と思ったら、おじさん、こちらを振り返って手招きするではないか。

どういうこと!?幅的にも、抱っこのまま、隣に座る勇気はなかった。戸惑う私に、再度手招きするおじさん。

こわごわ近づくと、おじさんはフワッと立った。空いた2席を指差し、そのまま無言で去っていっていった。お礼を言うも、頷くだけで。

娘と私と二人ですわる。娘は私の膝にもたれ掛かってスヤスヤ寝始める。限界だった腕がしびれている。
涙が出そうなほどありがたい。

おじさんのお陰でその後は、最寄駅まで快適に帰ることができた。

もしや、あのおじさんは神様なんじゃないか?
あの豊かなヒゲといい、神様かサンタクロースか、そんな風貌に見えてきた。
キレられたらどうしようなどと思っていてすみません。

もし、怒られたり、怒られなくても少しでもいやがられたりしたら、きっと私の心はおれただろう。友人との楽しかった思い出も、後悔してしまったかもしれない。
でも、無言の温かさに包まれたその瞬間から、それまで、罪悪感でネガティブに傾いていた今日のお出掛けが、楽しかった日になった。
遅くなったことは、後悔ではなくひとつの反省としてとらえられるし、何より丸1日を肯定してもらえたような気持ちになれたのだ。

やっぱり神様なのか。
あんなに恰幅のいい方だったのに、娘を座らせたりしている短時間に、いつの間にか、姿を消していた。
別の車両にうつってしまったのか……。

それとも、やっぱり神様だったに違いない。

でも、世の中、そんな優しい神様達が実は沢山いるのかもしれない。


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