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『ペルソナ5』はなぜヒットしたのか

2010年代後半は国産ゲームのルネッサンス期だったと、私は勝手に思っている。2017年に発売されたペルソナ5はその中でも特に成功したタイトルだった。それまで最も売れていたペルソナ4の売上77万本を大きく超える320万本を売り、何より海外でも高く評価された。Metacriticsを見るとオリジナル版が93点完全版が95点である。

個人的にも非常に楽しませてもらった作品なので、なぜこの作品がヒットしたのか、本質的にはこのゲームの面白さがどういうところにあるのかを考察してみたい。

一貫したジュブナイルさ

ペルソナ5は明示的にジュブナイル作品であるとしている。確かに、主人公が高校生の集団であるという以上に、この作品はティーンエイジャー的である。というのもこのゲームのメインストーリーは、悪人の精神世界に入っていってその「認知の歪み」を取り除き、その人物を「改心」させるということに主眼を置いている。

このゲームで対峙している問題というのは詰まるところ人間関係上の悩みであるのだ。人間関係に悩み、他者の心を変えるというのは未熟なファンタジーでありながら十代の願望としてはリアリティがある。高校生より年下であればこのような悩みは希薄であり、逆に20代になると他人を変えることはできないという事実を受け入れられるようになるので、このような主題は成立しないだろう。

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何が言いたいかというと、本作はその表層的な部分、すなわち学園モノという設定以上にゲームで向き合う課題がジュブナイル的なのだ。これが日常パートとダンジョンパートという対極の要素に一貫性を与えている。

交差する日常パートとダンジョンパート

このゲームはデートシミュ+ダンジョンクローラーという二つの要素を備えている。前半はいわゆる日常パートで、限られた時間を様々なインタラクションに投資してそこにあるイベントを楽しむのだが、より重要なのがそれらのイベントがダンジョンクローリングのパートに能力値として明確に反映されるという点である。

ソーシャルシミュ系のゲームは、基本的にイベントを見るためにイベントををこなすことで物語が進行する。一方でダンジョンクローリングはバトルの成果が経験値という形で能力の向上が発生し、それが次のバトルに繋がる、という構造をとっている。イベントとバトルの両方の要素を含むJRPGでもそれはお同じで、例えばFFシリーズをとっても、バトルの経験値はバトルのために消費され、イベントの進行は次のイベントに繋がるのみである。

その点でペルソナシリーズが巧みなのは、現実世界でのソーシャルシミュ、つまりイベントと会話の選択肢のみで構成されたパートの成果が、ダンジョンクローリングにも影響を与える点である。ある一人のヒロインと親密度を深めることによって、デートや交際に発展することができるだけではなく、新しいスキルが発現したり、特定の技の性能が上がったり、ペルソナが進化したりと、バトルを有利に進めることができるようになるのだ。

この特徴により単調になりやすい日常パートに明確な目標が与えられ、クリアまでプレイヤーの興味を引きつけることができている。

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ツボを抑えたマップ設計

オープンワールド全盛期のなか、ほとんどののAAA作品はオープンワールドか、FFR、TLoUのようなワイドリニアを採用している。そうした作品と比較すると、フィールドの面積で言えば最も狭い方に入るだろう。しかしペルソナ5が優れているのは、その「小さな」マップを大きく感じさせることに成功しているという点だ。

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ペルソナ5の舞台は言うまでもなく東京であり、この街は点と線でできた都市だ。渋谷や上野、大手町などの小さな拠点が点在し、その間を走るメトロやJRなどの導線で構成されている。例えば京都やNYのような、面として認識できる都市とは本質的に異なる。

そう言う意味で、ペルソナ5で取り入れている、小さなマップの間を記号的に移動するという世界の構成は、極めて的を得たものなのだ。アサシンクリードのような広大なオープンワールドで東京を再現し、日本橋から新宿まで移動できたら楽しいだろうが東京の高校生の日常を再現することはできない。

アニメ文法の国際化

ここまではペルソナ5のヒットの要因として主にコンテンツの良質さを上げてきたが、海外でヒットした要因としてはアニメ文化の国際化を指摘するべきだろう。アニメの海外輸出はCrunchyrollなどを媒介として2010年代に急速に進んだ。特に近年はNETFLIXやAMAZONPrimeなどの動画サブスクリプションサービスの隆盛によって、海外一般的な(わざわざ海賊版サイトを探したり、数万円もする円盤を買わない)消費者も日本のアニメにアクセスできるようになった。

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ペルソナの絵はライトなものとは言えやはりアニメ絵であり、15年前の国外市場であればナーディなものとしてスティグマを押されるようなコンテンツである。しかし、そうした表現やストーリー展開にアレルギーのない消費者が育ったことは今回のペルソナ5のヒットに大きく貢献したことは間違いないだろう。

終わり

ペルソナ5は、質的にもここ20年最高のJRPGの一つであり、またそれにふさわしい評価を得た。国産ゲームはこの5年で息を吹き返したように。次の世代でも勢いのあるタイトルが生まれることを願う。

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