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砂明利雅
2023年5月6日 03:43
宮廷の中庭は広く、芝生が広がり、背の低い木や黄色と白の花などが植えられている花壇があった。端の方には小さな池があり、水面には蓮の葉がいくつも浮かんでいるのが見えた。それらが陽光を受けて輝く様子は美しく、まるで絵画のようであった。その中央には芝が禿げて土が見えている地面があり、王子はそこで待ち構えていた。どうやらそこが戦う場所のようだ。その周りには男たちが何人か集まって立ち話をしていたが、私と菊花
2023年5月10日 03:03
髪を下ろした菊花様も、なかなかに可憐なのだが。花の油を馴染ませた、菊花様の髪を梳きながらそう思う。さらさらとした感触が心地良い。十歳でまだ幼気な菊花様の髪は潤っていた。油は不要なのではとも思う。十分にしなやかだし、花の香りがなくたって構わないだろう。だって、こんなに……。つい見つめてしまうのは、菊花様の髪を上げて見える、うなじ。そこにできた空間は、彼女の暖かさ、潤い、芳しさが詰まっている。そこか
2023年5月24日 04:22
いつの間にか激しくなっていた雨の音を聞きながら、菊花様の口から語られる真実に耳を傾けた。「母は玉英や鈴香と同じように王宮で働く使用人でしたが、父上……王陛下のお目に留まって、側女として召し上げようとされました。ですが、高貴な出自の王妃はそれを認めませんでした」 平民が王族に召し上げられるという話は聞かなくはない。だが王妃がそれに反意を示したとなると話は別ということだろうか。「母が側女となる
2023年5月28日 10:55
雨音の中でも、扉越しにも、それは聞こえていた。菊花様のすすり泣く声。とても、その扉を叩けるような状態ではなかった。どんな顔をして会えばいいというのだ。菊花様は、傷ついているに違いないのに。菊花様の部屋の前で、扉を背にして座り込んだまま、動けずにいた。 どうしよう。どうしたらいいんだ。頭の中で言葉がぐるぐると渦巻く。謝るしかない。いや、謝ったって許されないかもしれない。取り返しのつかない失敗をし