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『下午のまち銭湯』⑯薬師湯(向島)

スカイツリーから一番近い銭湯


二月某日。

2012年に完成して、すっかり東京の名所に定着している東京スカイツリー。誰の発案でこのスカイツリーを押上に建設しようとしたのかは定かではないのだけれど、ぼくはナイス判断だと言いたい。

変に都心めいたところに造らずに、下町ゾーンに鎮座したことによってこのスカイツリーからは人情を感じる。東京タワーなんかよりずっとずっと人間くさいとぼくは思う。なんかちょっと懐かしく親しみやすい気分になるんだ。


下町といえば銭湯文化。東京の銭湯巡りをしているとスカイツリーを見上げながらというシチュエーションが多い。スカイツリーと自分の位置関係を見ながら目的の銭湯のおおよその場所を把握するなんてこともある。スカイツリーを取り囲むようにたくさんの銭湯がまだ生き残っている。これから東京の銭湯を巡りたいなんて奇特な人がいたらまずはスカイツリー周辺の銭湯から攻めていけば間違いはないような気がする。


スカイツリーから一番近くにある銭湯。薬師湯。東京銭湯の熱心なファンならその名を目にしたことがある人は多いのではないかと思う。ぼくがこの銭湯を初めて知ったのは、東上野の寿湯に行った時だった。場内の掲示物にその名前を見つけた。その後鶯谷の萩の湯に行った時にもその名前を見つけた。寿湯、萩の湯、薬師湯。かの有名な東京銭湯3兄弟が経営している銭湯。それぞれが独立した形態にはなっているものの兄弟だけに連帯もある。経営者が兄弟というだけでなく銭湯自体も兄弟といった感じだ。

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寿湯
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萩の湯

薬師湯の場所は本当にスカイツリーのおひざ元。駅を降りて銭湯に向かうと、本当に真下からスカイツリーを見上げながらの道すがらになる。やっぱり近くで見ると大きい。でもなんか偉そうじゃないんだよね。5分もかからないうちに薬師湯に着く。

薬師湯

破風造りの寿湯やビルディング銭湯の萩の湯とはちがって街の中にしっぽり収納されている銭湯。二つの銭湯に比べれば見た目はだいぶおとなしい。暖簾をくぐるとすぐに下駄箱がある。札はプラスチックの松竹鍵。ロビーに入ると販促物がいろいろあってとてもにぎやか。奥には遊具とかカウンターなんかもある。通りに面したガラスから日光が入り込んでロビーは明るい。雰囲気がいい。改装前の錦糸町の黄金湯がこんな感じの雰囲気だったかな。このアングラな感じがすき。

フロント番台で入浴料を支払い脱衣場にはいる。こじんまりとしていて奥に洗濯機がある。ロッカーは赤褐色色の年季が入ったものでシリンダー式のカギがついてる。BGMは演歌がかかっている。

かららら~

引き戸を開けて入場。寿湯や萩の湯は大規模な多機能銭湯だったけれど、この薬師湯は街銭湯。コンパクトな敷地を目いっぱい使った浴場。浴槽は右中壁に沿って縦に二つ設置されている。右側にはカランが横列に23個設置されている。浴槽の奥の方にシャワーとサウナがあってその向こうにも部屋がある。

引き戸の脇には桶があってこれがケロリン。やっぱりまち銭湯にはこの黄色い桶だよなぁ。カランのお湯は軟水を使っているとの表記がある。ほかの銭湯でもたまにこの軟水アピールがあったりするんだけどぼくはそんなに繊細ではないので正直よくわからないんだよね。なんかふわっとした感じになるってことで。

ごしごしと体と頭を洗って浴槽に向かう。浴槽は向かって左側が主浴槽バイブラが入っている。右側が少し小さい浴槽で深風呂2つのジェットバスが設置されている。

この薬師湯。名前に薬という字が入っているということでか薬湯に力を入れている。毎日日替わりで様々な薬湯を入れてくれている。銭湯の日替わり湯は名ばかりで実際は毎日同じ入浴剤を入れてるというのが結構定番なんだけどここは毎日違う。しかもとてもユニークな企画と連動したものになっている。この時はオリンピックが開催中ということもあって「お湯リンピック」というイベント湯をやっていた。世界各国のご当地湯に一か月入れるという。なんじゃそりゃと思うがオーストラリアはコアラということでユーカリの入浴剤カナダメープルシロップの入浴剤みたいな感じで現地の温泉とかではない。

この日は2月14日。バレンタインデーだった。ガーナの湯。チョコレートの入浴剤だ。チョコといってもドロッとしたものではなくうっすら茶色になっている感じ。中に入ってみるとなんとな~く甘い香りがするようなしないような…

浴槽の後ろの中壁にはタイル絵が描かれている。どっかの南国の島のビーチが描かれている。そしてこの薬師湯の特徴はそのタイルにペタペタと張りまくられている読み物の数である。これが雑誌の印刷とかじゃなくオリジナルの文章なんだ。これは寿湯と萩の湯にも張られていて、三銭湯の浴場でしか読むことができないマガジンになっているんだ。

このマガジンがなかなかぶっ飛んでいる。まず目に飛び込んでくるのは、ガキ刑事のようなガリガリ君のような印象的なキャラが主人公の「セイントセントー」という漫画。寿湯で初めてこの漫画を読んだ時も独特なセンスだな思ったんだけど、ここで読んだのもなかなか。内容はあの越中詩郎を題材にしたものすごくニッチな作品だった。その横には「セントープロレス」というこっちは文字だけの読み物があって結構な長文が描かれていたけれど、ようするに「UWF最強」みたいな内容だった。これ女湯の方もおんなじ内容のが貼られてるのかな?女の人わかんないよね。どんな感じで読んでるんだろう(笑)

ものすごいプロレス愛に満ち溢れている記事をじっくり読んでいたら長湯になってしまい体がだいぶ火照ってしまった。シャワーの奥の部屋に水風呂があるらしい。そっちに行く。奥部屋に入ると縦長のなかなか広い浴槽がある。奥の方で天井から水がどぼどぼ落ちてきている。うたせ水。中に浸かる。温度は冷たすぎず個人的にはちょうどだけどサウナーにはちょっとぬるめかも。奥に行ってうたせ水を頭からかぶる。気持ちいい。

もう一度浴場に戻って今度は深風呂に浸かる。こっちのが主浴槽より温度が低い。この浴槽もチョコレート湯。座風呂のジェットバスが設置されている。どれどれと味わう。やさしいジェット。多分これくらいが普通なんだろうけど街銭湯のジェットバスに慣れてしまうと何だか物足りない。感覚が麻痺してる。

主浴槽に戻って、壁の読み物を眺める。1ヶ月の薬湯のスケジュールがはってある。は〜毎日違う入浴剤入れるなんて凄いななどと「お湯リンピック」の日程をみていると、「中国」のところが酢豚湯になっている。とても気になる・・・どんな湯なのだろう?

銭湯全体が一つの雑誌という感じだ。あえてこの時代に活字というのも良い。こういった文化大好きだ。

湯から上がって脱衣場に戻る。脱衣場の机の上には読み物のバックナンバーなんかもあった。三銭湯の中ではここが一番まち銭湯感がある。

暖簾をくぐり外に出ると、そこには煙突代わりに聳え立つスカイツリー。ほんとに近いなぁ。なんでも徒歩1分26秒なのだとか。中途半端だなと思ったら「イイフロ」ということらしい。おあとがよろしいようで。

銭湯の詳細


『薬師湯』[所在地]東京都墨田区向島[最寄り駅]東武スカイツリーライン『とうきょうスカイツリー駅』徒歩2分(正確には1分26秒)[営業時間]15:30~26:00 [定休日]月曜[入浴料]480円[サウナ]200円[ドライヤー]10円

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