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イギリスのイースターに思う「世界人権宣言」

イースター(復活祭)の週末

少し前のことですが、先日の4月9日はイースター(復活祭)の日曜日でした。キリスト教の国では、この日の前後がお休みで「長い週末」の国が多いです。イギリスはその前の金曜日から月曜日まで4日間お休み。
金曜日――Good Friday(祝)、
土曜日
日曜日――Easter Sunday,
月曜日――Easter Bank Holiday(祝)
という感じ。
この間、いろんなものがスローダウンします。例えば、私は休み前に届くはずの荷物3つを待っていましたが、全部火曜日以降まで届きませんでした。そんなことはこの国ではザラですけど。

イギリスのイースターに欠かせない「ホット・クロスバンズ」

イギリスでイースターには、大きな卵型のチョコレート(イースターエッグ)が至る所で売られます。そして、ホット・クロスバンズ(Hot cross buns)。これはレーズンやオレンジビールなどのドライフルーツが入って、ミックススパイスの香りがする小型のパンです。そしてパンの上の面に十字架が入っています。キリストの十字架の象徴ですね。これを半分にスライスして、トーストしてバターをつけて食べるのが一般的みたいです。

周知のようにイギリスは食文化がいまいちで、あまりおいしいものがないですけど、これはおいしいですよ。そしてイースターだけでなく、1年中スーパーなどで売られています。

私、中学生のころNHKのラジオ英会話を聞いてたんですが、毎週マザーグースの歌の紹介があったんですね。その一つがHot cross bundsっていう歌でした。楽しいメロディーで簡単な歌詞なので、すぐ覚えられます。そしてそのずっとのちに、留学で初めてイギリスに来てスーパーで実物を見た時に、「ああ、これがあのホットクロスバンズか!」と静かな感動をおぼえました。


長崎のキリシタン殉教の歴史

十字架といえば、私、今年の1月に長崎でキリシタンの歴史を見てきました。豊臣秀吉に始まったキリスト教禁制時代。たくさんの人がその信仰のために迫害され殉教しましたね。その最初は1597年、司祭、修道士、信徒の26人が京都から長崎まで歩いて移動させられて、長崎駅のすぐ近くにある「西坂」で十字架刑に処せられた、いわゆる「二十六聖人」です。

この殉教から250年以上たって日本が開国した後、二十六聖人のために捧げられたのが、観光名所の一つになっている「大浦天主堂」ですね。1597年以降も西坂ではキリシタンの処刑が行われ、600人くらいがこの丘で殉教したということです。

また私は長崎市から北上して、人口約3万人の平戸市にも行ってきました。キリスト教日本伝来は1549年、フランシスコ・ザビエルが鹿児島に上陸して始まりました。その翌年、ザビエルは平戸に行き布教活動を進め多くの人が改宗したので、平戸でも禁教時代は多くの人が殉教。特に、平戸西部の生月島には多くの犠牲者の話があります。

例えば島の中ほどの丘に十字架が建っているのですが、これは黒瀬の丘殉教地と呼ばれる場所で、生月で最初の殉教者となったガスパル(洗礼名)西玄可が斬首された場所です。またこの近くで妻子も斬首され、ここはガスパル様 と呼ばれています。

そしてこの丘から、中江ノ島という無人島が見えます。ここは、禁制時代、潜伏キリシタンの処刑場だったところです。そして今も潜伏時代の信仰を続ける「カクレキリシタン」の聖地でもあります。

今は静かな美しい海と島を丘から眺めながら、当時のことを考え、キリシタンの人々の信仰に圧倒される思いでした。

世界に見られる信仰に基づく迫害

今、日本では憲法20条によって「信教の自由」が保障されています。だからこんな迫害は絶対に許されない。

ああ、よかったな・・・とは思いましたが、世界に目を向けると、当時の日本と同じように、信仰が理由で迫害されている人は今でもたくさんいるわけです。

米国務省が定期的に発表している「信仰の自由に関する国際報告書」には、宗教に関する迫害や深刻な差別のゆえに、国を離れて難民となる人が多いと指摘しています。そして、アフガニスタン、ミャンマー、中国、エリトリア、インドなどの、多くの例が挙げられています。

例えば、インドではヒンドゥー教至上主義のモディ政権のもと、少数派のキリスト教徒が多数派のヒンズー教徒らに攻撃される例が相次いで、2021年の件数は前年より7割以上増えたそうです。

国連も取り組んでいる

そういう宗教に基づく差別や迫害という人権問題に対して、国連の人権機関もいろんな取り組みをしてきました。

その一つは日本も長年理事国を務めている人権理事会が「宗教または信条の自由に関する特別報告者」という独立の専門家を任命しており、その専門家は各国の宗教の自由に関する問題を調査し、提言を行っています。

「特別報告者」は世界でトップレベルの筋金入りの専門家で、45のテーマと14の国に関してそれぞれ任命されています。重要な役割を果たしているので「国連人権機関の王冠に載せる宝石」と言われているんですよ。詳しくは是非『武器としての国際人権』の2章をご覧くださいね。

世界人権宣言

その専門家たちの提言の基準となっているが「国際人権基準」で、その大元が「世界人権宣言」です。
 
そして、世界人権宣言18条は「宗教または信条の自由」を保障して次のように規定しています。

すべて人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する。この権利は、宗教又は信念を変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して、公的に又は私的に、布教、行事、礼拝及び儀式によって宗教又は信念を表明する自由を含む。
 
今の日本では、当たり前のようなことですが、世界ではまだまだ思想や宗教の自由が守られず、迫害されている人が多くいます。日本だって、キリスト教禁制時代を思えば、遠い国のことではないですね。
 
今年のイースターは、ホット・クロスバンズを食べ、改めて世界人権宣言18条に思いをはせながら過ごしました。

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