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『さよーならまたいつか!』

 何年ぶりだろう、大学の先輩(女性)と再会した。再会という言葉よりも、見かけたという表現が合ってると思う。名前はしっとりとした女性の印象をもたせる響きだけど、本人は常に動き回っている活発な少年という感じで、いつも好奇心に満ち溢れている人だった。化粧っ気はないけど、アイラインを引いたように目の輪郭がはっきりとしていて、くりっとした瞳が印象的だった。

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 先輩を見かけたのはたまに行くスーパーで、レジの会計中に、ふと隣のレジに目を向けた時に気づいた。「◯◯◯さん!」、心の中でパッと名前が出てきた。だけど、10年以上の時間が経っている。もしかしたら人違いかもしれない。声をかけようか躊躇した。 

その女性は先に会計を済ませ、3人の子どもを連れて、レジ横に設置してあるレンジで弁当を温めるために立ち止まっていた。私は会計が終わるまでの間、横目でチラチラと女性を見ては、記憶の中の先輩と照らし合わせる。少し痩せたように見えるけど、小柄で化粧っ気がなく、染髪もしていない。あのくりっとした瞳は遠目からでも分かる。Tシャツとジーパンのラフな格好も当時と変わらない。女性の特徴や雰囲気は記憶の中の先輩とそのまんまだ。あとは声さえ聞こえれば…。

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 先輩はハスキーボイスだった。あの声が聞けたら、もっと確信が持てるはずだ。店員が商品を一つ一つスキャンさせてる横で、私は耳を澄ませる。でも遠すぎてはっきりとは聞こえない。女性は弁当を温め終わり、私の前を通り過ぎる。

わぁ、すごく似ている!でも、なんだか自信がない。声を掛ける勇気もまだ沸かない。もうだめか…そう思った瞬間、私の後ろに回った女性の子どもがとある果物を指差し、女性に話しかけた。

そして聞こえてきた。
「すげぇー!」の声。
あ…先輩だ。

「すげぇー!」は先輩の口癖だった。そしてあのハスキーボイス。
変わらないなぁ…と、懐かしさが一気にこみ上げる。話しかけたいと思った。元気ですかー!っと声をかけなきゃと思った。だけど、丁度店員が合計金額を伝えてくる。そうだ、私は今お会計中だった。自分の中で、支払いをしなきゃいけない焦りと、声をかけたい衝動の板挟みであたふたしてしまう。

 結局、私は支払いを優先し、先輩親子は出口に向かっていった(後ろには会計待ちの列が出来てたし…とぶつぶつ言い訳モード)。急いで出口に向かうも、もう姿は見えなかった。

次のチャンスにかけるか…と、今後の期待を胸に帰宅した。

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 その後、通りがてらそのスーパーに寄ったけど、先輩には会えず、期待してはがっかりな気持ちを感じること2回。そして、再会のチャンスはさらに遠のいてしまった。そのスーパーが閉店することになったのだ。閉店を知らせるチラシを店頭で見た私は、「縁があれば、また会えるよね。」とつぶやく。

 先輩とは、大学時代とある街で一緒に過ごした仲だった。初めての土地、初めての一人暮らし、新しい環境でワクワクとドキドキを共有した。同郷ということもあり、気も合った。お互いの家にお泊りしたり、日帰り旅行もした。先輩の真っすぐな性格が好きだった。そんな懐かしい思い出を反芻し、昔話や近況を報告をしたかったなぁと、しみじみしながら先輩の笑顔も思い出す。

そして、次に会えたら、躊躇なく声をかけようと誓う。声をかけるために必要な、少しの勇気はもう持ち合わせている。「元気ですかー!」と、笑顔で話しかけよう。よし!、と心に決めてスーパーを去った。

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 そんな別れを自分の中で済ませ、夕飯作りをしていると、米津玄師の『さよーならまたいつか!』がYouTubeから流れてきた。
なんだこの爽やかでポップなメロディーにのせたさよならの伝え方は!、と惹き込まれる。ぁあ、さっきの別れにぴったりなフレーズだよ、と思いながら口ずさむ。

 先輩、さよーならまたいつか!お元気で!
手を振りながらピースサインをする私と、遠ざかる親子が目に浮かんだ。






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