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(中) バックパッカー料理人 第14便

⑤Fäviken
ファミリーミール...


今日のまかないの担当は誰だ?
レストランで働く上で楽しみのひとつでもあり、試練のひとつでもあるまかない。
僕らがレストランで過ごす時間は、家にいるよりもずっと長い。
だからか、まかないはファミリーミールと呼ばれたりもする。

ここファヴィケンは火曜から土曜までの営業の1週間、毎日15:30がまかないの時間。
30名から35名分用意する。
まかないの担当は毎日ローテションで入れ替わり、前の週の土曜までに次の1週間分のメニューをシェフに提出しなければならなかった。
まかない担当者だけ仕込みのために、AM5:00に朝の仕込みチームと、またはもっと早くベーカリーのシェフとAM3:00からキッチンに入ることを許される。でも、それはまかないの仕込みのためだけで、レストランの営業の仕込みをすることはもちろん禁止だ。
ファヴィケンも今まで僕が働いてきた日本以外の他の国のレストランと同じく
メインディッシュ(プロテイン)・炭水化物(米orパンor芋or豆類)・温野菜・サラダ・デザートで構成される。
週初めの火曜と金曜はスーシェフのマティアの担当。水曜は他のスタッフが週替わりでつくる。
そんな中。マティアは毎回、もう1人のスーシェフでスタジエの世話役もしているジークと仕込みチームの部門シェフをしているマティアスと組んで凝った料理をする、めっちゃ料理好きの料理バカだ。そして、僕らが安心して(笑)おいしく食べれるまかないを作ってくれる。
あるときは映画レミーのおいしいレストランに出てきた、煮込んだベースの上にスライスした野菜をきれいに盛り付け火を入れたラタトゥイユ

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あるときは、魚のパイ包

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そしてまたあるときは、イタリアの伝統的な料理をトラディショナルな食べ方でっと、テーブルに厚手の大きい紙を敷いたと思ったら、その上に殻つきのままの魚介と野菜を煮込んだ料理をぶちまけ、手で食べろという豪快な漁師料理をやることもあった

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マティアはとにかく熱くユーモアに溢れ、毎回楽しませてくれるいい友人であり料理人だ。


オーナーシェフのマグナスが店にいるときのまかないは緊張感が高まる。まかないのクオリティはもちろんのこと。どの店でも当然のことだが、1番許されないのは時間に間に合わないこと。時間に間に合わないと、もれなくシェフマグナスの大暴れが始まります(笑)
そうなったら、その日の営業の雰囲気は最悪になってしまう。そうならないために毎日全員で協力し、どんなことをしても時間までに料理全てを3階のテーブルにセットする。
15:30にはカトラリーやお皿と料理の他に、グラスの8分目まで注がれたお水(注ぐお水の量までも決められている)。そして牛乳の入った瓶、ビネガーと塩胡椒のミル、それとダイニングのテーブルの配置が書かれた紙がセットされる。まず、全員が席についた時点で、紙に書かれたのと同じテーブルの配置が描かれたホワイトボードの前で、当日のディナーの予約の確認が支配人から始まる。前日の夜に確認した、NG食材などのお客様の情報の共有と確認、そして席の担当決めなどをする。ファヴィケンのダイニングは主に2階だが、1階にも6名から8名座れるでかいテーブルがひとつある。ここには同じグループの時もあれば相席の時もある。1階と2階での区別は特別にあるわけではないが、外国人が多い場合はごちゃ混ぜに。スウェーデンの方が多い場合は外国人のお客さんを1階にし、2階をスウェーデン語が喋れる現地のサービスとシェフだけで営業をすることもあった。全てのお客さんがスウェーデンの方だけの時なんかは、英語を喋らなくていいからかシェフのテンションも気持ち高かった。
ミーティングが終わるとチャイナのスタジエがコーヒーを注いで周る。ミーティングが始まる5分前にコーヒーのスイッチを入れ、ミーティングが終わるやいなや直ぐに「Would you like?」とコーヒーを注いで周るのだ。まかない時のもうひとつ遅れては・・・というか忘れやすく、シェフマグナスの機嫌を壊しかねない最後のポイント。まかないの席順も決まっていて、階段上がって3つ並べられたテーブル。奥のテーブルからシェフやマネージャーやサービス陣、そして真ん中にスーシェフたち。最後が僕らスタジエと部門シェフ以下。
コーヒーも当然シェフマグナスの席から注いでいく。シェフマグナスはコーヒー飲まないんだけど、無言でスルーするとアレなので、僕は紅茶を用意したり、何もないときは「I know... Chef」と一声だけかけ、パスしてまわっていく。
テーブルセッティングする際、もちろん奥のシェフマグナスが座るテーブルは特に完璧に仕上げなければいけない。同じ大きさや模様の皿も当然のごとく人数分ないので、毎回色々走りまわりかき集めるのだが。シェフマグナスの席だけは、全て揃え、磨かれた器やカトラリーをセット。
ここまで出来たらあとは和気あいあいとまかないを楽しむだけだ。ただし、まかないも16:30までと決まっており、早く食べ終えたからといって仕込みに戻ったりは許されない。食べ終えたら、残った時間をみんなで話したり、一つしかないソファーに4, 5人つめて座って仮眠をとったりと自由な時間にあてられる。

まかないはみんなにとって単なる食事と休憩時間以上に楽しい時間でもある。
誕生日のスタッフやスタジエールがいれば、パティシエやベーカリーのシェフが協力してケーキやクロカンブッシュを作ってみんなでお祝いをした

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土曜日は、シェフマグナスもサービス陣もみんなが1番楽しみにしている日。
そう、週末の土曜日だけはまかないの時間も30分早く15:00からと特別な日。
毎週土曜日だけは、スタジエの僕らがテーブルセッティングもコーヒーも用意しなくていい。
それというのも、僕らスタジエがまかないを担当する日だからだ
世界中からやってくるスタジエールたちの料理をみんなが楽しみしている。何つくても自由なんだが、やっぱり求められるのは自国の料理
2週間前から用意する時間を与えられ、仕入れから仕込みと全部1人で用意するのが鉄則。
韓国人のジェイは2週間寮で発酵させ水キムチを作ったり、メキシコ人のエミリーは多様なタコスを作ったりと僕らも色々な国の食文化を感じ、学べる楽しいときだ。
それだけでなく、土曜日のまかないにはソムリエが担当のスタジエールと相談し、スタジエールが望むドリンクを用意してくれる。ワインでも日本酒でもウィスキーでもなんでもOKで酔っ払って営業に臨める。

今週末は同じ部屋のヴィクターがまかないを作る。ヴィクはフランス生まれのドイツ育ち。世界でも随一に厳しいといわれるドイツの教育のなかで大学まで進学したはちゃめちゃインテリイケメンなヴィク。ドイツは、高校までの時点で将来の仕事が決められる。勉強ができない人間に仕事を選ぶ道はなくなってしまう。そんな厳しい中、大学まで行ったヴィクだが、やりたいことが定まらなかったらしく、大学を中退しカメラマンのアシスタントやバンドだったりと挑戦し、そこで料理に出会い、料理の世界に(今のとこは)落ち着いている。
技術だったりはまだまだ未熟だが、やる気とパワーに満ち溢れたヴィクはフランス料理をベースにドイツ料理を組み合わせた料理がつくりたいという。ドイツ風のラヴィオリをコンソメに浮かべた一品を作りたいというが、肝心のコンソメを作ったことがないヴィク。そこで、僕は2日前から一緒に朝5時にキッチンへ入り、彼の仕込みを手伝い、そして僕自身も翌週に迎える自分のまかないへの対策を練っていく。
ヴィクのまかないを手伝いつつ、みんな大好き日本食を期待以上に作れるよう準備にとりかかる


To be continued... 

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