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北スペインの港町で、現代版魔女の修行中

私が小学生だった頃、魅了された映画があった。
「魔女の宅急便」ジブリ作品の中でも代表されるアニメ映画の1つである。

主人公の少女キキが、13歳の誕生日に黒猫のジジと共に魔女の修行のために旅立ち、修行先で様々な人に出会い、苦難を乗り越え成長していく映画。

映画を見終わった後、母がキキみたいにあなたも将来は修行の旅にでるのよと言ってきた。高校を卒業したら1度実家を離れて1人で頑張ってみなさい。「井の中の蛙大海を知らず」になってはいけない、外で修行してきなさい。そこで自分の居場所を見つけ、実家に戻りたくないのであれば戻らなくていい。そんな話をされたので、キキの修行が余計に自分自身と重なってみえた。

そして今、キキのように海を超え、北スペインにあるアストリアス州の小さな港町で人生の修行をしている。義理母の故郷であるこの町は、セマナサンタと呼ばれる聖週間と夏休みは観光客でごった返すが、それ以外はのんびりとした場所である。

1年で1番好きな日がある。「7月16日」聖母カルメンの日で、毎年漁の安全祈願祭が行われ、町が1番賑わい華やかになる日だ。

港で行われる漁の安全祈願祭

聖母カルメンが教会から神輿に担がれ、町を練り歩く。通る道にはカラフルに色付けされた塩やパスタ、生の花びらを使った作品が地元の人によって飾られるので、どの道を通るかは一目で分かる。生花の匂いが潮の匂いと混ざって、特別な日であることを感じさせてくれる。

聖母カルメンが通る道

聖母が海へ下りてくると、空砲が次々に打ち上げられ、船の警笛が一斉に鳴る。
「私、ここに決めた!ここで修行する!」といったキキを思い出した。そうだ、私もここで修行しようと決めた日でもあったのだ。

聖母カルメンが坂を下り海へ下りてくる

一通りの行事が終わると、家族や親戚一同が集まって、皆でわいわいランチをするのが習わしとなっている。普段は遠く離れて暮らしている家族が集う大切な日でもある。

個々の時代、ネットの時代と言われる現代。ここには、お隣りさんにお醤油を借りにいくような昭和の暮らしが残っている。昔から続く人との関わりの中で、受け継がれていく伝統行事。

町の歴史を紐解いていくと、外国から来た人によって発展をしてきたれ歴史がある。北からやってきたバイキング(海賊)の停泊所、バスク人のクジラの見張り台としての役割り、オーストラリア人の兄弟によって北スペインに初めてもたらされたサーフィン文化。

義理兄から話を聞かされ「次は君の番だね」と言われた。
さて、外からやってきた私に何が出来るのだろうか。

海沿いの遊歩道

海外の伝統行事や文化に触れたとき、日本のことを強く思い出す。

スペインの田舎では、日本食材が手に入りにくい。だから作る事にした。

魔女は薬草などを作って治療をしてきた歴史もあるが、現代版は調味料を自分で作るのだ。日本にいたら、納豆なんて作ることはなかっただろう。今では、味噌も米麹から起こして作っている。家庭菜園を始めたことで、四季や月の満ち欠けを意識するようになった。手作りだからこそ、無添加で体に良いものを取り入れる事ができる、現代版お薬だと思っている。そして、日本古来の生活を、日本での生活以上に経験している事がとても不思議な感覚ではあるが、実際に作ってみると昔の人と少し繋がれた気がするのだ。この感覚を大切にしたい。

太古からある海

だからといって、アナログな生活だけをしたい訳ではない。これから先も発展していくであろう世界は切り離す事は出来ない。ならば、この世界とアナログな世界の共有・共存が出来ないだろうかと考えるようになった。

例えば日本に一時帰国したときに、陶芸を習いに行っている。無心で物を作る時間がとても好きだ。将来は、AIにデザイン画をまかせ、私の手によって陶器を作るロボットとのコラボレーションも面白いかもしれない。新しい陶芸の技法やデザインが生まれるかもしれない。

スペイン✕日本、都会✕田舎、海✕山、今までは一見混じり合う事が無かった事も、現代の文化を使うことで、混じり合う事があるかもしれない。

そんな事を考えながら、住み始めて7年。

この町の伝統文化を大切にしつつ、私に出来ること、私にしか出来ないことをやりたい。
まだまだ形にはならない私の現代版魔女の修行は続くのである。

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