見出し画像

次世代のスティーブ・ジョブズが逮捕される~VCと起業家の駆け引きの裏側

先日、革新的な血液検査技術をうたって投資家を欺き、多額の資金を集めたとして詐欺などの罪に問われた米ベンチャー企業セラノスの創業者、エリザベス・ホームズ被告が逮捕された。VCや投資家から380億円資金調達し、一時、時価総額は8000億までに膨れ上がっていた。

スタンフォード大学を中退して起業した彼女は、ポストスティーブジョブズと言われ様々なメディアで取り上げられていた。

数滴の血液から様々な検査結果が分かるという事で、2000年代初頭から有名になり、スティーブジョブスの次世代版だと評判になっていた。私が知ったのは、日本のある大手メディカル系の企業と仕事をしたときに話題に上っていたからだ。当時から黒いシャツにジーパンでスティーブジョブズを意識し、ビッグマウスでメディアの注目をひき、それに見合った実力を備えたスタンフォード大学の若き起業家という事で、遠く離れた日本でも有名だった。日本の大手製薬会社やメディカル系企業もこぞって彼女のことを高く評価した話をしていた。当時は、自分と年端もそこまで変わらない女性起業家が、世界をまたいで活躍している姿は、遠い、自分とは無縁の存在だと考えていた。

それが数十年経って、逮捕起訴され、挙句、10年の禁固刑になる可能性があるという。世の中は何が起こるかわからない。

ここで表面化されたのは、いかにベンチャー企業の本質を見抜くことが難しいかという事実だ。

起業家はバリエーションをあげるため必死に良い面だけを投資家・VCに伝える。投資家・VCは、その本質を見抜くため必死に起業家とその事業を調べる。

両者の攻防は今に始まったものではないし、日本は、コロナ後、企業の内部保留金がマックスで余っているから、その資金を引き出そうとする起業家と、VCとの攻防が激化していると言えるかもしれない。米国は当初から起業家・VC共に競合が多く存在するので、攻防のレベルは日本の比ではない。だましだまされ、その中からスーパーユニコーン企業が生まれることもあり、長年に渡り、ダイナミックなストーリーを展開している。

ただ、米国は日本や中国に比べて、はるかにVCや投資家の質が高く、歴史もあるので、目利きの効く人間が多い。その彼らが騙されるというのはよっぽど上手くやったのだろうと思わずにはいられない。しかも1年、2年ではなく、10年以上にわたって400億弱も資金調達しても気づかれていなかった。
投資家からしたら最悪のシナリオ以外何物でもないが、起業家からしたら、世界トップクラスのVCと投資家と言えどもそんなちょろいものなのかと思ってしまう。

投資をするときは、財務諸表チェック・技術チェック・トラクションチェック・経営体制チェック等様々な面からしっかり検証してから入金するのが基本だし、米国のトラクション調査は厳しくて有名である。

しかし、技術チェック、人柄チェックなどは極めて客観性を欠く部分でもある。アナリストの主観、投資家の好みなどに偏っている。それが悪い面ばかりでもない。志高く、トラクションも技術もない起業家が一発逆転するチャンスも転がっているという事でもある。

米国や中国は極めて激しい競争にさらされているので、その中で志が高く最初に資金調達できたベンチャーが、AmazonやFacebook、テンセントなどのような超ユニコーンになる可能性もある。

一方日本は、そもそも起業家の数が少ないにも関わらず、VCの数は増え続け、企業の持つ内部留保金はあまりまくっている。日本企業の内部留保金が欧米諸国の2倍以上あるという恐ろしい事実も先般海外メディアでも報道された。そのお金を目指してわざわざシリコンバレーから、ヨーロッパから、はるばる海を渡って日本に資金調達しに来るベンチャーがどれだけ増えたかわかったものではない。彼らは日本の市場を狙うだけでなく、一番は資金調達で、日本のゆるーい、簡単に騙されるVCを上手くほだして、世界で大成功をしたいのだ。

4年前、ある政府系のイベントに参加した際に、スウェーデンの企業が、『僕はソフトバンクに投資してもらうためにお金を出して日本に来たのだ』といけしゃあしゃあと登壇者のスピーチで話していた。そんな日本の資金を目指してくる企業家に対して、私達の税金で政府はお金を出して招待しているのだ。

うちの会社は、新規事業を始めて既に3年以上が経つが、未だに資金調達は上手くいってない。理由は、私の経営者としての能力が足りないというのもあるが、メインは、中国リスクと成功事例がないことである。ほとんどのVCや投資家が中国事業に懐疑的だ。

それに比べて、今の若い起業家にとって日本の資金調達市場は極めて良いと思う。若いと言ったのは、ITバブルで儲かった中堅・IT企業の経営者がエンジェルとして、バンバン若手企業家に投資しているからだ。

知り合いの経営者も、大学卒業後、フリーターみたいな形で就職もせず、集まりの延長みたいな感じでエンジェル資金を最初の事業を起こして失敗し、その後、医者向けサービスを構想し、プロダクトもないのに大型の資金調達ができている。その方法を聞くと、同じ若手経営者と共に大手企業のナンバーツーの人に可愛がられ、飲み会や別荘に遊びに行き、そのナンバーツーの方の子供と遊び、それがきっかけで数千万出資してもらったという。その最初の出資があったため、VCが大型資金を入れてくれたという。

一人有名な投資家が出資するとどんどん数珠つなぎで出資を始めるのが日本のVC独特の特徴である。

万が一投資が失敗したとしても、後からVCは、「彼が、彼女が出資していたから」と言い訳ができる。CVCはさらにその傾向が強い。

そんな簡単に資金調達できた知り合いだが、彼のプロダクトは申し訳ないが、たいしたことはなかった。事業プランも競合のほぼパクリで、プラットフォームはAWSで造られている。(フロムスクラッチではない)医者向けサービスなので個人情報が出ないようにFTPサーバーを使ったりしないのだが、使っていて、コーポレートサイトとプラットフォームが同じサーバー領域に入っているという、ありえないつくりであった。以前撮影に行った際に、医者の個人情報が洩れて一大事なった。それでも何とかなるのはまだ無名で小さなプラットフォームでしかなく、社会的影響力がないからである。
それに対して、日本の投資家やVCは若手起業家に対しては極めて寛大で自由な環境を整えている。

ここまでくると投資家やVCは以外と騙されやすい部分が多いと言える。

しかし、ここで重要なのは、起業家の立場である。資金がないとどうしても動けない部分があるので、バリエーションを自ら作らなければならないし、資金がないと恐ろしいほど焦る。眠れない。死にたくなる。だけどそういう窮地に陥ったとしても、起業家は、「騙さない」「嘘をつかない」という基本的なことをおろそかにしてはいけない。

お金がないからバリエーションを嘘をついて高くしたというのは免罪符にならない

こんなに偉そうなことを並べ立てても、売上が上がって利益がある会社が一番だ。多少ずるをして最初の資金調達をしたとしても、その後の経営が上手くいけば最終的には認められるし、VCや投資家に利益も還元できる。

ただ私の経験上、学者やVCなどは決してITリテラシーが高いとは思えない。
理由は、例えば、うちの会社はブロックチェーンを開発しているが、NFT(トークン)に関しては、二次流通させるには日本で30社しかできない。https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kasoutuka.pdf

一昨年5月に名称も変更になって「仮想通貨」の呼称が 「暗号資産」に変更されている。政府としては資金洗浄に使われたくないので、二次流通、ウォレットの機能はどの会社も簡単に参入できるようにしたくないのだ。

そしてこの金融庁の許可を取るのは至難の業だ。うちの会社の税理士は、キャンプファイヤーエンジェルズの社長の出縄さんなのだが、キャンプファイヤーで一時NFTをやろうとしたが、結局金融庁の許可が下りず断念した。

しかしこの事実を知らない学者・VCは極めて多い。もし二次流通をしたければ、この30社のプラットフォームを使う、第三の道を作る、金融庁の許可を数十年かける勢いでとる みたいなことになるのだが、極めて至難の業である。

そうとも知らずに、NFTバブルといわれる現在、学者やVCに対して、「NFTをつかって・・・」の事業が極めて多いが、その多くが上記金融庁や政府事情を知らない、なんなら、金融庁に連絡すら取ったこともない若手起業家ばかりである。

VCもVCで、「将来的には二次流通をやろうと思ってます」のプランにのっっかり、簡単に資金調達をしている姿もよく見かけるが、他社のプラットフォームを使うのだってそんなに簡単ではない。その事実を本当に知らない人が多いのだ。

しかもこの事実は1週間に1,2回は日経の記事になっているぐらい世間の注目度は高いにもかかわらず、実際政府の法律がどうなっているか、しっかり把握しているレベルのITリテラシーが、学者にもVCにもない人が多いのである。

こんな感じで起業家とVCの攻防はこれからも続くだろうが、日本においては、素直に、日本市場を丁寧に調べ、従順に実現可能な範囲内で手堅くやる方が明らかに資金調達がしやすいということは言うまでもない事実なのだ。

私はあまのじゃくなので、
こういう日本の10年以上変わらない状況があるからこそ
人が成功しづらい中国事業で一旗揚げてやろう、年間10兆円近く駄々流れしている、日本の漫画アニメの海賊版を防いで、世界でマネタイズしてやろうという気持ちがますます湧いてくるのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?