見出し画像

投資抑制から一転…「世界のお金」は生成AIへ

マグニフィセントセブン(GAFAM+NT)の動向から読み解く「お金の流れ」

 2022年における「パンデミック後の需要増加」、「エネルギー価格の高騰」、「各国政府による財政刺激策の実施」により、世界的にインフレ圧力が高まった。労働市場が逼迫し、賃金が上昇したため、企業がコストを価格に転嫁する形でインフレが進行し、投資市場は冷え込んでいた。そんな中、ChatGPTが一般公開され、投資市場は再び活況を取り戻し、AI関連企業に資金が集中している。今後もこの流れは続くのか。マグニフィセントセブンの動向から「お金の流れ」を探ってみた――。




1. AI市場の現在地:対話型AIの登場

 OpenAIは、5/14(日本時間)にGPT-4 turboの上位互換モデルであるGPT-4o(オムニ)を一般公開した。「メガトレンドである「生成AI」…経済や社会に与える影響や生成AIの未来とは」の中で触れた未来予測が、投稿後わずか数日で現実となったのだ。
 同日、Googleは生成AI(人工知能)を使ったネット検索サービスを始めると発表した。一度に処理できる情報量を30倍に増やした生成AI「Gemini(ジェミニ)」の最新版の提供も開始する予定だ。同社は、翌日の5/15に動画生成AIモデル「Veo」を発表し、AI市場を注視しているフォロワーたちは、OpenAIが既に発表している「Sora」と比較するコメントをSNSに多数投稿している。AIの発展に好意的なコメントがある一方、AIの発展に悲観的な人々の間では、「通訳の仕事はなくなった」、「教師はもう必要ないし、学校の存在意義もなくなった」、「唄も歌えて、会話もできて、ユーモアもあるなら役者の仕事もなくなる日が近い」といったコメントもSNS上に多数投稿されている。2013年に公開されたスパイク・ジョーンズ監督・脚本のSF恋愛映画『her/世界でひとつの彼女』の世界観(ヒトとAIが恋をする)が、いよいよ現実味を帯びてきた。
 マグニフィセントセブンやLLM事業者間での熾烈な競争が繰り広げられている一方、その影響から逃れられない事業者は、今後どのように事業展開していけばよいのだろうか。AI市場の構造から読み解いていこう。

2. 市場規模と見通し:年平均50%超の成長

 AI市場は過去数年間で急速に拡大し、今後もその成長が期待されている。JEITAによれば、生成AI市場の世界需要額見通しを以下のように発表した。

  • 生成AI市場の世界需要額は年平均53.3%で成長、2030年には2,110億ドルに達し、2023 年の約20倍となる見込み(図表1、図表2)

図表1. JEITA. "生成AI市場の需要額見通し(世界)", December 21, 2023
図表2. JEITA. "生成AI市場の需要額見通し(日本)", December 21, 2023

 グローバル市場においては、LLMセグメントが最大の成長が見込まれているが、日本市場においてはソリューションサービスセグメントが最大となっている。日本はエネルギー市場同様、LLMを利用する立場であるため、このような予測となっているが、今後和製LLMが登場した場合、本予測と異なる結果となるだろう。

  • 生成AIの利活用分野はより一層広がる見込みで、特に製造分野の伸長が著しく、年平均54.6%で成長、2030年には507億ドルへと拡大する見通し(図表3)

図表3. JEITA. "利活用分野別 需要額見通し(世界)", December 21, 2023

 利活用分野別の予測は、グローバル市場同様、日本市場においても類似産業の利活用が進むであろう。

  • 生成AIの利活用の広がりはハードウェア市場にも影響を及ぼし、世界で+7.8%、日本で+6.0%程度の押し上げ効果が見込まれる

最後の点については、後述する。

3. 主なプレイヤーとその役割:マグニフィセントセブンの動向に注目

 AI市場には多くのプレイヤーが存在するが、その中でも特に重要な役割を果たしているのが、いわゆる「マグニフィセントセブン(GAFAM+NT)」と呼ばれる企業群だ。これらの企業群は、2023年の市場のパフォーマンスを大きく牽引し、特にAI関連技術の進展に伴い、高い成長を遂げた。マグニフィセントセブンの投資活動が全体の投資市場に与える影響は非常に大きく、投資市場全体の約30%を占めるまでとなっている。またAI技術の開発・提供だけでなく、自社の事業にAIを積極的に活用することで市場全体の成長を促している。米国と日本の架け橋として通称AI Meetupを主宰し、米国ワシントン州政府商務省 日本代表、東北大学 国際連携推進機構 特任教授として活躍している江藤哲郎氏によれば、「特筆すべきは、マグニフィセントセブン各社が生成AIユニコーンへの投資を相乗りしている点だ」と話す(図表4)。

図表4. 生成AIユニコーンへの投資状況
https://www.cbinsights.com/reports/CB-Insights_Generative-AI-Bible.pdf

 マグニフィセントセブンは、半導体⇨LLM⇨アプリケーション開発といったAI市場のバリューチェーンの中で切っても切れない関係にあることがご理解いただけるだろう(図表5)。

図表5. AI市場のバリューチェーン

3-1. Nvidia

 マグニフィセントセブンの中でも、AI市場には欠かせない半導体の供給元である同社の成長は著しく、株価が高騰している。バリューチェーンの最上流に位置する同社は、企画と販売だけを行うファブレスカンパニーであり、粗利益率は76%(2024年度第4四半期)、通期でも72.7%にも上り、超高収益企業である。余剰資金は投資にあてられており、生成AIスタートアップへの投資件数も最大である(図表6)。

図表6. Nvidiaの年間投資件数
https://www.cbinsights.com/reports/CB-Insights_Generative-AI-Bible.pdf

 加えてNvidiaの投資先企業は、増資された資金をNvidia製GPUを購入に充てるというエコシステムが構築されており、正の連鎖により投資による失敗リスクを極限まで低減できている(図表7)。

図表7. Nvidiaのエコシステム
https://www.cbinsights.com/reports/CB-Insights_Generative-AI-Bible.pdf

 同社は、GPU技術を中心にAIの計算能力を飛躍的に向上させるハードウェアを提供している。特にディープラーニングの分野で重要な役割を果たしている。

  • ディープラーニング: AIモデルのトレーニングと推論を高速化するためのGPUを提供し、研究機関や企業がAI技術を効率的に活用できる環境を整えている。

  • 自動運転: NVIDIA DRIVEプラットフォームを通じて、自動運転車両の開発を支援している。多くの自動車メーカーと協力し、安全で効率的な自動運転システムの実現を目指している。

  • スーパーコンピューティング: AI研究のためのスーパーコンピュータ構築を支援し、科学技術分野での革新的な研究を推進している。

3-2. Microsoft

 ご存じの通り、同社はLLMの代表格であるOpenAIに100億ドルの投資を実行している。加えて生成AIスタートアップへの投資も積極的に実施しており、その額は174億ドルにも上る(図表8)。

図表8. Microsoftの投資推移
https://www.cbinsights.com/reports/CB-Insights_Generative-AI-Bible.pdf

 米国Microsoftのシニア・ソフトウェア・エンジニアの渡辺毅氏によれば、「検索エンジン‘Bing’を始め、クラウドコンピューティングとAIの統合を急いでおり、特に企業向けのソリューション提供に力を入れている」という。

  • Azure AI: AIおよび機械学習サービスを企業向けに提供し、データ分析や業務プロセスの自動化を支援している。Azure Cognitive ServicesやMachine Learningがその代表例だ。

  • エンタープライズソリューション: Dynamics 365やPower Platformを通じて、企業がAIを活用した業務改善や効率化を図るためのツールを提供している。

  • 教育: AIを活用した教育ソリューションを提供し、学習のパーソナライズ化と教育の質の向上を目指している。

3-3. Google

 同社はAIのリーディングカンパニーとして、特に機械学習と自然言語処理に多大な投資をしている(図表9)。

図表9. Googleの投資状況
https://www.cbinsights.com/reports/CB-Insights_Generative-AI-Bible.pdf

 Google BrainやDeepMindを通じて、革新的な技術開発を行い、医療、環境、エンターテインメントなどの分野で応用されている。

  • ヘルスケア: Google HealthやDeepMind Healthを通じて、AIを利用した病気の予測や診断技術の開発を進めている。特に、眼科診断や腎臓病予測などで成果を上げている。

  • クリーンエネルギー: AIを活用してデータセンターのエネルギー効率を最適化する取り組みを行っている。これにより、電力消費を大幅に削減し、持続可能な運営を実現している。

  • 自動運転: Waymoを通じて自動運転技術の研究開発を行い、安全で効率的な交通システムの構築を目指している。

3-4. Amazon

 同社は、1億ドルの生成AIアクセラレーターを立上げ、AWSのクラウドビジネスを支援している(図表10)。

図表10. Amazonの投資状況
https://www.cbinsights.com/reports/CB-Insights_Generative-AI-Bible.pdf

 特に物流、カスタマーサービス、クラウドコンピューティングにおいてAI技術は重要な役割を果たしている。

  • AWS(Amazon Web Services): AIおよび機械学習サービスを提供し、多くの企業が自社のAIアプリケーションを構築・展開できる環境を整えている。SageMakerやRekognitionなどがその代表例だ。

  • 物流と配送: ロボティクスとAIを用いた自動化された倉庫管理システムを導入し、効率的な配送ネットワークを構築している。

  • Alexa: 音声アシスタントAlexaを通じて、スマートホームデバイスの普及を促進し、ユーザーの生活をより便利にしている。

3-5. Meta(Facebook)

 同社はオープンソースLLMのLlama2を活用し、MicrosoftのAzure上で生成AIのアプリケーション開発を行っており、クアルコムなどとも提携している(図表11)。

図表11. Metaの生成AI取り組み状況
https://www.cbinsights.com/reports/CB-Insights_Generative-AI-Bible.pdf

 同社は、AI技術を活用してユーザーエンゲージメントの向上と広告の最適化を図っている。また、メタバースの実現に向けた投資も進めている。

  • メタバース: 仮想現実(VR)と拡張現実(AR)の融合によるメタバースの開発に注力し、Horizon WorkroomsやOculusシリーズを通じて新しいソーシャルインタラクションの形を模索している。

  • コンテンツモデレーション: AIを用いて不適切なコンテンツの自動検出と削除を行い、プラットフォームの安全性を維持している。

  • 広告最適化: 機械学習を活用して広告ターゲティングの精度を向上させ、広告主に対して高いROIを提供している。

3-6. Apple

 同社が注目されているのは、オンデバイスで動作するLLMの開発だ。この技術により、クラウドに依存せずにデバイス上で高速かつプライバシーを重視した処理が可能になる。OpenAIのGPTはクラウドベースで強力な計算能力を活用した高精度な自然言語処理を提供することが特徴という点が異なる。
 同社の最新のMM1モデルは、テキストと画像の両方を解釈できるマルチモーダルLLMだ。これにより、画像内のオブジェクトを認識したり、日常の常識を使用してユーザーに有用な情報を提供することができる。さらに、Appleはこれらのモデルをオープンソース化し、開発者コミュニティに公開した。また、iOS 18では、Appleの新しいAI機能が搭載される予定で、特に音声アシスタントSiriの大幅なアップグレードが期待されている。同社はWWDC 2024でこれらのAI関連の発表を行うと予想されており、具体的な詳細はその時に明らかになるだろう。これらの動向から、同社がAI分野での競争力を強化しつつ、ユーザーのプライバシーを保護するための技術開発を進めていることが理解できる。

  • プライバシー保護: iOSデバイスに搭載されたAI技術を活用し、データのローカル処理を推進することで、ユーザーのプライバシーを保護している。

  • ヘルスケア: Apple Watchなどのウェアラブルデバイスを通じて、健康管理やフィットネスの向上に貢献している。AIを利用した心拍数モニタリングや不整脈の検出が実現されている。

  • 拡張現実(AR): ARKitを通じて、開発者が容易にARアプリケーションを作成できるプラットフォームを提供し、次世代のインターフェース体験を追求している。

3-7. TESLA

 同社は、AIとLLMにおいていくつかの重要な進展を見せている。特に注目されているのは、著書『日本型デジタル戦略』でも触れたスーパコンピューター「Dojo」と、完全自動運転(FSD)システムの開発だ。 同社は、Dojoという非常に強力なスーパコンピューターを開発し、これをAIトレーニングに利用している。Dojoは、従来のハードウェアでは実現できなかったレベルの計算能力を提供し、同社の自動運転技術のトレーニング速度を大幅に向上させることが期待されている。また、このコンピューターを使って自社のニューラルネットワークをトレーニングし、最終的には他のAI開発者にも提供する計画だという。また、自社のFSDシステムの最終段階に取り組んでおり、現在は車両制御に重点を置いている。イーロン・マスクは、車両制御がFSDのAIパズルの「最後のピース」であると述べており、ニューラルネットを使った制御システムのトレーニングが進行中であることを明かしている。同社はAIと自動運転技術の分野で先駆的な役割を果たしており、今後の進展が非常に期待されている。また同社は、自社のAIおよび自動運転技術のために、NvidiaのGPUを重要なリソースとして活用し続けており、さらに数十億ドル規模の投資を計画している。

  • 自動運転: Tesla AutopilotやFull Self-Driving(FSD)機能を通じて、自律走行技術の進化をリードしている。大量のデータを活用してアルゴリズムを改良し続けている。

  • エネルギー管理: AIを用いたエネルギー管理システムにより、住宅や商業施設のエネルギー効率を最適化している。Solar RoofやPowerwallがその具体例だ。

  • 製造プロセス: AIを活用した製造プロセスの最適化により、生産効率を向上させ、高品質な電気自動車の大量生産を実現している。

4. 世界の投資市場の動向:生成AI企業に投資が集中

 生成AI企業へのPEおよびVCによる投資額は、2023年に全体のM&A活動の低迷にもかかわらず2倍以上に増加した。S&Pグローバルマーケットインテリジェンスのデータによると、PEによる生成AI投資の発表額は、2023年には21・8億ドルに達し、前年の10億ドルから大幅に増加した。この動向は、2023年に全産業にわたるPE支援のM&Aが大幅に減少する中でのことだ。2024年には、1月1日から2月15日までに記録されたPE支援の投資額がすでに2・5億ドルに達しており、これは2023年の第1四半期の合計を上回っている(図表12)。

図表12. グローバルPE/VC投資概況https://www.spglobal.com/marketintelligence/en/news-insights/latest-news-headlines/private-equity-backed-investment-surge-in-generative-ai-defies-2023-deal-slump-80625128

 過去5年間の世界の投資総額とAI関連の投資総額を示したグラフが図表13だ。ご覧の通り、全体の投資額が減少傾向にある中で、AI関連の投資は安定的に増加している。

図表13.  過去5年間の世界の投資総額とAI関連の投資総額

 2023年の世界の投資市場におけるスタートアップへの総投資額は約2850億ドルだった。これは前年の4620億ドルから38%減少している。しかし、その中でもAI関連の投資は際立って増加していた。AIスタートアップへの投資額は約500億ドルに達し、これは総投資額の約18%を占めている。この金額は2022年の45・8億ドルから9%増加しており、AIの重要性が増していることを示している。直近の2023年だけを見れば、世界のスタートアップ資金調達は2023年下半期から上昇に転じている。またコロナ禍で減少傾向にあったスタートアップのIPO件数も2023年には上昇に転じている。ただし、ユニコーン企業の増加は停滞中である。

 IDCの最新の予測「世界の人工知能(AI)支出ガイド」によると、AI中心のシステムに対するソフトウェア、ハードウェア、サービスを含む世界のAI支出は、2023年に1540億ドルに達し、2022年の支出額に対して26・9%増加する見込みである。AIをさまざまな製品へ継続的に取り込みことにより、2022年から2026年の予測期間中に年間平均成長率(CAGR)は27%に達し、2026年にはAI中心のシステムへの支出が3000億ドルを超えると予想されている。

5. 一般事業者に残された選択肢:生成AI事業者/ソリューションサービス事業者

 ファクトベースで確認した通り、AI技術の基盤となる半導体、LLM、アプリケーション領域に世界のお金が集中しており、マグニフィセントセブンを中心に投資のエコシステムが形成されていることはご理解いただけただろう。そして今後もこの「お金の流れ」は継続すると予測されている。ここで図表5を用いて、一般事業者に残された選択肢を確認していただきたい(図表14)。

図表14. 一般事業者が取るべき手立て

 まず、Nvidiaのような半導体の供給元になることやLLM事業者になるとは非現実的だ。したがって一般事業者に残された選択肢は、生成AIサービスを提供するアプリケーション事業者になるか、ソリューションサービスを提供する/徹底的にAIを使い倒す事業者になるかの2つである。

 生成AIの利活用が、今後の事業運営の成否を握っている。AIの利活用に関しては、前回記事「メガトレンドである「生成AI」…経済や社会に与える影響や生成AIの未来とは」を参照いただきたい。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切: