『茶の湯をもっと自由に、もっと日常に』 各国大使館で茶文化交流を行う団体、茶柳会代表砂川孔明インタビュー
こんにちは!茶柳会(さりゅうかい)学生インターンの清水です。
今回、各国大使館や海外文化センター等で国際茶の湯交流イベントを開催している団体、茶柳会代表の砂川孔明さんにお話を伺いました。
茶道を始めたきっかけは、シンガポールで出会った男の子の、腹の立つ一言
ー今日は茶柳会について色々と代表にお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
茶柳会代表の砂川孔明です。よろしくお願いします。
ー早速ですが、砂川代表の経歴を教えてください。
親の仕事の都合で幼少期にカナダに住んでいました。帰国後は、早稲田大学国際教養学部に進学し、在学中に一年間アメリカに交換留学に行きました。留学後は半年間休学し、ペルーに住みました。そして大学卒業後に茶道裏千家に入門し、今年で15年目になります。
ー国際的なバックグラウンドをお持ちなのですね。茶の湯を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
幼少期をカナダで過ごしたことが大きく関係していると思います。私が住んでいたのが、カナダ中部のウィニペグという街で、当時はそこに住んでいる日本人はとても少なく、日本人学校もありませんでした。そのため、現地の子と同じ小学校に通っていたのですが、その学校には自分の様に黒い髪、黒い瞳を持つ子は学年に1~2人しかいませんでした。そんな環境で育ったので、小さい時から自分が日本人であることを強く意識させられていました。
ー海外にいたからこそ、逆により強く日本を意識することになったんですね。
はい。その後13歳か14歳の時に家族旅行でシンガポールを訪れた際に、茶道に興味を持つことになった決定的な出来事がありました。現地で知り合った同い年位の男の子から、「日本的なものを何か見せてくれ」と言われたんです。
ーとんでもない無茶ぶりですね(笑)。
はい、急に言われて何も思いつかなかったので、とりあえずやったことのない見よう見まねの下手くそな盆踊りを披露しました(笑)。すると、その男の子がガッカリした表情で、「お前日本人なのに日本の事何にも知らねえのかよ」と言ってきたんです。初めはその一言にすごく腹が立ったので、何か言い返してやろうと思ったのですが、同時に、彼の言うことも一理あるな、と思ったんです。自分は日本人なのに、何にも日本の事を知らないなあ、と。そこで、その時から何か「持ち運びのできる日本文化」を身に付ける必要性を感じるようになり、大学卒業後、茶道裏千家に入門しました。
ー腹は立つけれど、事実でもあった少年の一言に「自分が日本文化を良く知らないこと」に気づかされたんですね。ところで茶道は様々な流派がありますが、どうして裏千家を選ばれたのでしょうか?
とにかく、「持ち運びのできる日本文化」を身につけたかったので、初めは茶道以外にも、柔道、剣道、華道、弓道、香道、煎茶道、そして茶道の裏千家、表千家、武者小路千家など、取り敢えず、自分が思いついた「日本文化」は片っ端から全て試してみようと思い、実際に体験教室に行ってみて、自分が面白いと感じるかということに加え、本当に「持ち運び」ができるかという観点に重きを置き、自分が身に付けるべきものは何か、一生懸命探しました。
そして、色々な日本文化を試す中で、茶道の様々な流派の内、唯一、持ち運びのできる「茶箱」が裏千家のお点前(茶道で抹茶を点てる一連の所作のこと)として存在していることに気が付きました。
一応、他の流派でも道具として茶箱は存在しているのですが、お点前として存在するのは裏千家だけなので、それが裏千家を選んだ決め手となりました。
「茶道と茶の湯は似て非なるもの」茶柳会設立のきっかけ
ー砂川代表が茶柳会を設立し、茶の湯を通じた交流を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
茶道を始めたことで、抹茶の美味しさ、楽しさ、素晴らしさに気が付いた一方、同時に、抹茶を飲むという行為が一般の人にとっては敷居が高く、とっつきにくいといった印象を持たれていること、そしてそのために抹茶が現代人の生活の身近に存在していないことに気が付きました。実際は、抹茶を飲むという行為は普段我々がコーヒーや紅茶を飲むのと同じように、どこでも、誰でも気軽に楽しく行えるのですが、残念なことに、多くの人から、「難しい作法や手順があるのではないか」とか、「物凄くお金がかかるのではないか」、といった具合に、誤解されてしまっているのです。そうした抹茶に対する現代人の誤解を解き、茶の湯を現代人にもっと気軽に楽しんで貰うために、茶柳会を設立し、茶の湯を通した交流イベントを始めました。
ー抹茶を飲むという行為が多くの人に誤解されてしまっているのはなぜでしょうか?
現代人の抹茶に対する誤解は、多くの人に「茶道」と「茶の湯」が混同されてしまっているために起きているのだと考えています。
ー「茶道」と「茶の湯」は違うものなのですか?
はい、日本人でも殆どの人が知らないと思うのですが、実は茶道と茶の湯は同じものではありません。まず、前者の茶道はインドで生まれた仏教思想と、中国で生まれた抹茶(点茶法)が組み合わさって成立しました。そのため、茶道では仏教的な修行要素の影響が非常に強く見られ、和敬清寂を心得とした作法やお点前を行い、精神と交際礼法を極めることを目指します。一方、茶の湯とはもっとカジュアルなものです。茶道が修行要素を重視しているのに対し、茶の湯はおもてなしに重きを置いています。そのため、茶の湯には難しい作法やしきたりは存在しません。茶の湯を実践する際には、胡坐をかいてくつろぎながらでもいいですし、友達と楽しくお喋りしながらでも、気軽に抹茶を楽しむことができます。
ーなるほど。つまり、多くの人が感じる堅いイメージは茶道から来ているということですね。
その通りです。そのため、我々は茶の湯団体として、『茶の湯をもっと自由に、もっと日常に』をテーマに、茶の湯を通して抹茶の美味しさ、面白さ、楽しさを多くの人に発信していきたいと考えています。その中で茶道にも興味を持ってもらえれば、是非チャレンジして欲しいと思っています。
「茶の湯をもっと自由に、もっと日常に」茶柳会の名前に込められた思い
ー茶柳会の名前の由来は何でしょうか?
「茶の湯をもっと自由に、もっと日常に」という願いを込めて、「自由」という草言葉を持つ柳を会の名前に入れました。また、茶柳会は英語表記では、「Salud-Kai」としています。saludはスペイン語では健康、フランス語ではこんにちはという意味の言葉で、外国語を会の名前に取り入れることによって、日本人だけでなく海外の人にも茶柳会の名前を覚えてもらい易く、また茶柳会の取り組みについて親しみを持ってもらうことで茶の湯を海外の人にも広めることができたらよいなと考えています。
ー茶柳会という名前に、健康という意味のあるsaludを採用しているのが面白いですね
実はこれは単なるダジャレではなく、実際に抹茶はとても健康的な食べ物なので、そうした抹茶の健康面についても知っていただけたら、という思いでsaludという言葉を採用しました。
抹茶は飲み物ではなく、食べ物!?
ー今、「抹茶はとても健康的な食べ物」と仰いましたが、抹茶は飲み物ではないのですか?
はい、私は抹茶は飲み物ではなく、食べ物だと考えています。なぜなら、例えば、多くの日本人が普段から飲んでいる煎茶や、海外でも広く飲まれている紅茶や烏龍茶、これらは全て茶葉をお湯で煎じた物の抽出物であるのに対し、抹茶は茶葉を粉末状にしたものがお湯に溶けたものです。すなわち、一般的に抹茶を飲むと表現される行為は、実は粉末状になった抹茶の茶葉を食べる行為だ、とも言えるのです。
ーなるほど。確かに抹茶には煎茶の様な茶殻はないですもんね。
ある研究によると、煎茶を淹れる際、茶葉の栄養の70%は急須の中の茶殻に残っていると言われています。つまり、我々が飲んでいる茶碗の中のお茶には茶葉に含まれる栄養の30%しか入っていないんですね。これに対し、抹茶を飲むときは茶葉の全てを体内に入れることができるので、茶葉の栄養の100%を摂取できるんです。
ーつまりsaludの意味の通り、抹茶は本当に健康的なんですね。茶柳会の名前にこれだけ沢山の意味が込められているとは思いもしませんでした
会の名前を考えるときはとても苦労しました(笑)。何日も掛けて、何十通りも候補を出し、漸く思いつきました(笑)。
「抹茶を人々の選択肢の一つに」茶柳会の目指す未来
ーそれでは、最後になりますが、茶柳会の今後の目標を教えてください。
はい、繰り返しになりますが、茶柳会の願いは、「茶の湯をもっと自由に、もっと日常に」することです。そのため、茶柳会ではだれでも気軽に参加できる、茶の湯イベントを今後いくつも開催していく予定です。抹茶に興味はあるけど、敷居が高くて敬遠しているという人や、抹茶と普段全然縁の無い生活を送っていて、試しに抹茶を飲んでみたいという方など、誰でも遠慮せず、沢山の方に気軽にご参加いただければ本当に嬉しいです。そして、すぐに達成するのは難しいと思いますが、いずれ、抹茶がコーヒーや紅茶と同じように、人々の暮らしの身近なものになって、普段飲む飲み物の選択肢の一つとして挙がる様な社会に出来たら、こんなに嬉しいことは無いです。「ちょっと休憩しない?コーヒー飲む?紅茶飲む?それとも抹茶飲む?」なんて会話が聞こえてきたらもう最高でしょうね。
ー抹茶に対する砂川代表の愛が伝わってきました。今日はインタビューに応じてくださりどうもありがとうございました。
どうもありがとうございました。