園田汐

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園田汐

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「漕ぐ漕ぐ漕ぐ漕ぐ」

「漕ぐ漕ぐ漕ぐ漕ぐ」                       園田汐  ニンゲンってマジでよくわかんない。  わたしは自転車を漕いでいる。小雨に降られながら漕いでいる。なんかよくわからないが、最近よくニンゲンに怒られている。なんで?わからない。だってわたしって海だし。ニンゲンがなんで怒るのかなんて本当にわからない。社会とかいう狭い箱も海には狭せすぎるし。  でも、わたしは都合がいいから自転車は好き。それに関してはニンゲンの発明で許してあげてる数少ないうちのひとつ。  自転

    • 小説 無題

         老いた人が穴を掘っている。花びらは無意味に美しく舞っている。  わたしはいつからかそれをただ眺めている。ついさっき目について冷やかしに来たような、幼い日に迷子になった遊園地からそのままここにやって来たような、そんな気がする。 「今日私の目が覚めるときに聞こえてきたのはあなたの産声かな?」 「そんなはずはありません。わたしが生まれたのは何十年も前のことですから」 「ふむ、そうか。ならやはり私の産声だったかもしれないな」  老いた人は穴を掘り続けている。遠い国に星の光が落と

      • 詩#3

        ほんとは ないはずなのに わたしのためにと あるふりを してくれた あなた いつもそばにいて そしてない わたしのかたちに ぽっかりあいた あたたかい くらがり わらうとき それは いま ひかりのつぶたちが おもいだしわらい してる ということ うまれたころを おもいだして わらっている、と いう こと ふと 風を思い出したように ゆれた 花から 透明の匂いがした 大木を育てたつもりが 次の朝日 には 枯れてしまう 一輪の花が咲いても 求めて駆け出した その一歩目です

        • 詩#2

          はあもうおばかさん 喉が渇いた まんま でも 踊る ように おどるように あるけるよ あなたが いなく なったとしても 呼ばれるなまえはかわらない あなたのことも かわりはしない 夜と海 どちらが焼けてるかなんて わからずおねむり まもられてるよ 気にしなくていい ひとりではない ひとつでもない わるくない それはもう すてていい それ、 おいしいの? 歯がかわいいね わるくない 忘れてもつくるよ なみのおと わかる 血が ながれてる ふざけてみてる ためいきを つきなが

        「漕ぐ漕ぐ漕ぐ漕ぐ」

          詩#1

          どこにでもある と なにもない の あいだ の ゆらゆら そうらしいし かけがえがないんだよ? 別に近寄って欲しいわけじゃなくて 夜気みたいにそばにいて ここにある? わたし たち と はなしたことはナイショだよ 本当のことは 本当にあったのに 嘘との境目がなくなっちゃった いまめのまえのことに ようやく おもいだし わらい してる どこまでも って いつでも って こと? わらうわらう わらう わらっていればおもしろいかもよ 何言ってるの? めぶきが

          「もうみんな」

          「もうみんな」  園田汐    車窓の外、流れ去っていく街灯は僕の視界から消えても光るのをやめないだろう。  電車の中で喉が渇いている。乗車する前に食べたコンビニのチキンがしょっぱすぎたのだ。普段あんまり塩分を取らないから、たまにこういうものを食べると酷く喉が渇く。こういうものとはつまり、ポテトチップスやカップラーメンたちのこと、指が汚れて喉が渇く食べ物たちのこと。  もうみんな、死んでもいいのかもしれない。なんだかそんな気分だ。さっきまでひどく疲れていて、早く寝たいと思って

          「もうみんな」

          「大きな波」

          「大きな波」  園田汐    波に飲まれたことがある。  小さな頃だ。小学一年生か二年生の頃だったと思う。私は波打ち際に立っていた。両親は木陰で休んでいたような気がする。もしかしたら父親は沖まで泳ぎに行っていたかもしれない。  白い砂浜だった。透明な海だった。日差しは恐ろしいほどに真夏そのものだった。空と海と砂浜が光を反射しあっていた。  私は空と海の境目を見つめていた。別に理由があったわけでは無いと思う。くるぶしまで波がやってきては戻っていく。足の甲がヒヤリとして踏みつけて

          「大きな波」

          「完璧な春の昼」

          「完璧な春の昼」  園田汐    深緑の水面が透明で暖かな光を反射しながらゆらめいている。宇宙の大きな愛に引っ張られて水面は揺れている。木々も、風も揺れている。  空には雲が一つもない。光に満ち溢れた空は、ほんの少しだけ青い。割れる寸前まで膨らんだ水色の風船の色に似ている。ちょこんとつつけば目の前から消えてしまいそうな色で空はどこまでも広がっている。  カモが何かを探すようにぷかぷか漂っては、すうっと水の中に消えていき、私が予想もしないような場所から浮かび上がってくる。  一

          「完璧な春の昼」

          「ここはどこ」

          「ここはどこ」  園田汐    ここはどこなのだろうか。私は労働をしている。働かされている。どうして?  たくさんの人間が動物たちや植物たちの肉を咀嚼している。口の中で噛み砕き唾液と混ぜて汚くみっともない形になった命たちを飲み込んでいる。  私は人間たちに食事を運んでいる。人間たちの要望を聞き、それをまた人間に伝え、包丁で切り刻まれて火で焼かれ皿に盛られた命を人間へと運んでいる。  おねーちゃん、とか、おねえさんとか、ハマダさんとか、人間たちは私のことを呼ぶ。私はどれでもない

          「ここはどこ」

          「二度寝」

          「二度寝」  園田汐    目を覚ます  大した意味もなく  目を覚ます  薄く開けた目は  まばゆい朝に耐えられずに  すぐに閉じる  瞼の向こうに  エネルギーを感じている  始まりのエネルギーを  感じている  鳥の声が聞こえる  ニンゲンのいない公園で  楽しそうに鳴く声が聞こえる  季節外れの羽毛布団を抱きしめている  ふわふわ  スルスル  足の甲でシーツの滑らかさを感じる  意味を持たない夢から覚めるため  私はもう一度眠りにつく  深く深く  いつまでも目を覚

          「二度寝」

          「安心してお眠り」

          「安心してお眠り」  園田汐    あぁ、もうどうしたの。部屋で小さくうずくまって震えちゃってさ。 「もう疲れた」  うんうん。そうだよね。 「泣けたら良かったのに」  泣けないと辛いよね。溜め込んじゃうもんね。 「みんなお金の話しかしていない」  お金ね、あれって何なんだろうね。 「愛の話をもっとしたいのに」  そうだね。でも、あの人たちには無理なんじゃないかな?だって、お金を信じている人たちでしょう?存在の価値は目に見えるものじゃなくて心に映るものなのに、わざわざ偽物に変

          「安心してお眠り」

          「美しい動物」

          「美しい動物」  園田汐    僕は話している。  あの日々と話をしている。    美しい動物の濡れた毛を丁寧に乾かしている。  ゆっくりと、絡まりを優しく解いている。  美しい動物はボクの名前を呼ばない。    美しい動物は眠っている。  少しだけ唇を開いて、温かい空気を吐き出している。    ボクは美しい動物の膝の上で眠っている。  美しい動物は心を震わせて歌を歌っている。  ボクは目をつぶってその音を聴いている。    ボクは美しい動物と抱き合っている。  真昼の部屋の

          「美しい動物」

          「通り雨」

          「通り雨」  園田汐    ザーッと、もしくはサーっと、時にはシャランと、通り雨は日常を通過する。  誰にも予感させずに、どこからかやって来て、どこかへと去っていく。  小学校からの帰り道、まだ明るい透明な空から、絹のカーテンのように降り落ちた雨のことを今でも思い出す。光の中を、光の方へと進んで行った雨を私は走って追いかけた。追いかけても追いつけはしなかった。  雨は私に気がついていただろうか、気がついていたに違いない。だからあんなに優しく私の苦しみを洗い流してくれたのだ。

          「通り雨」

          「健康で幸せ」

          「健康で幸せ」  園田汐    目が覚めたらまずお湯を沸かす。私の白湯と彼のコーヒーのためのお湯。  水道水は一度沸かしたぐらいじゃカルキの香りが抜けないから、定期便で届くようにしている天然水を沸かす。  ケトルじゃなくてヤカンで沸かす。なんとなく、その方が好き。常温の水が温度を上げて姿を変えていくのがより感じられる気がする。  私から少し遅れてパンツだけ履いた彼がリビングに現れる。毎朝の光景、健康的に盛り上がった胸と肩の筋肉に私は何度でも見惚れてしまう。 「おはよう」  カ

          「健康で幸せ」

          「ふわふわで、弱々しくて、新しい」

          「ふわふわで、弱々しくて、新しい」  園田汐    朝、紙で小指を切った。  すーっと、切った。あ、っと思ったら、もう血が出ていた。あらあら、と思っている間に読んでいた小説にポタポタも赤い斑点が落ちた。小説に溶けた私の一部は思っていたよりも明るい色だった。  じっ、と眺めていると血は静かに流れていった。小指の先から手首まで流れていった。音も立てず地球の中心へと向かっていった。    昼、晴れていたから外に出た。  散歩をしている時はポッケに手を入れて、その小さな傷口を世界から

          「ふわふわで、弱々しくて、新しい」

          「永遠のもう一歩先」

          「永遠のもう一歩先」  園田汐    控えめに言って、幸せだと思う。控えずに言うと、めちゃくちゃ幸せだと思う。  手頃なイタリアンで友達のユウカと向かい合って座っている。テーブルにはピザと前菜の盛り合わせの残りカスとアヒージョとバケット。 「カナ、本当に幸せ者だよね」 「だよねぇ」 「彼氏くん、ひとつ年下だっけ?そしたら次四年生か。カナは院進学でしょ?」 「うん。そう」 「どのぐらい続いてるんだっけ?」 「来月で一年半かな」 「すご!ワタシなんて半年が最長だわ」 「長く続けば

          「永遠のもう一歩先」