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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは。
「不思議な薬箱を開く時」です。
ごくごく一般的な、あたりまえのお薬をご紹介できていませんが、
実際、記録に残されているお薬ばかりです。
今回も、皆様のお役にたてるかどうか。
では、お薬箱を開けてみましょう。

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「幻影を消す薬」


幻影を見る原因は、いろいろとございますね。
心と体、
どちらかが病んでいる場合や、
一時的な不調、泥酔状態、薬の副作用、
呪いや魔術などがあります。
幻影は、幻影を見る本人の心の影と言われています。
つまり、幻影を見ている人の深層心理や、
記憶の残像、イメージなどが、
映し出されているとか。
紀元32年、エジプトガローマ帝国ノ属州であり、
アエギュプトゥスと呼ばれていた時代に、
ローマの総領事であり、
監理官であったエギウス・メトゥスは、
幻影に悩まされていたとあります。
もちろん、どのような幻影であったのかは、
本人にしかわかりませんが、
激しく暴れたり、震えて屈み込んだり、
剣を振り回したりして、
臣下の者たちを大いに困惑させたようです。
幻影に苦しめられていない時は、
穏やかで聡明な男性であったそうなのですが、
一度、幻影に憑り依かれてしまうと、
恐ろしい形相になり果て、
側近だけではなく、王妃たちや子供たちに対して、
剣を抜いて襲い掛かったりも。
何しろ相手は総領事です。
簡単に捕らえるわけにもいきません。
エギウス本人だけではなく、
周囲の官職たちもほとほと困っていますと、
神官職の末裔であり、
医師でもあるという男が、
宮殿に詣でて来ました。
自分ならば、幻影の病を治すことが出来ると言うのです。
宮廷医でもない人物に、
領主の診察をさせるなど!と、
皆大いにざわめき立ちましたが、
エギウス自らが、
その男に依頼をしたというのです。
男の名は、エキトスのアムホテップといい、
たしかに、さまざまな医術に長けていました。
宮殿の東側に、アムホテップの研究室を作らせ、
さっそく、薬を製剤させることになりました。
アムホテップは、遠い東の国々にまで使いをやり、
見たこともないような薬種を取り寄せていたので、
多額の費用がかかります。
官職たちの不信は募るばかりで、
常に厳しい監視を付けていました。
薬の完成に、現代の暦で、
約6年を必要とされたようです。
エギウスは、余程の苦しみであったらしく、
完成した薬を自分自身で試したそうです。
製剤を記した巻物は、
現在、エジプト博物館に保管されていますが、
さて、効果のほどは?
その前に、
調剤料のご紹介をしましょう。

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「幻影を消す薬」処方


ベニテングダケ・エキス・・・・・・・・・・大匙5杯
オオワライタケ・エキス・・・・・・・・・・大匙5杯
モエギタケ・エキス・・・・・・・・・・・・大匙5杯
ツキヨタケ・エキス・・・・・・・・・・・・大匙5杯
ヒトヨタケ・・・・・・・・・・・・・・・・5本
ビンロウジ・エキス・・・・・・・・・・・・大匙5杯
サテュリオン・・・・・・・・・・・・・・・大匙5杯
チャンパカの花弁・・・・・・・・・・・・・50枚

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諸注意
はい、ご存知の方もいらっしゃいましょうが、
そら恐ろしい猛毒キノコが、ほとんどです。
細かく砕いて煎じ、
その煎じ汁を蒸留してエキスを抽出します。
サテュリオンは、トルコ原産のものを使用してください。
チャンパカの花弁は、傷んだところのない、
美しい物を選びましょう。

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備考欄
記録によりますと、
領主は、幻影を見なくなった、と、
記されています。
成功か?と思われますか?
歴史書によりますと、
領主の名前が、服用後に、
変わっています。
これは、けっきょく死んでしまったのでは?
領主の名は、資料に残されていません。
ただ、エキトスに、名の知られた名医がいたと記されていて、
その者は、高い身分のものであったが、
神と会話をすることが出来るようになり、
身分を捨てて、人々を助ける医師となったそうです。
その男は、アムホテップという高名な医師の弟子であったと。
もしも、この男が、エギウスだとすれば、
幻影を受け入れてしまったのか?
それとも、ほんとうに神と対話が出来るようになったのか?
そこは、確かな記録は、残されていないのです。

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